『聖クロノア学院恋愛譚 』記憶を失ったベータと王族アルファ、封印された過去が愛を試すまで

るみ乃。

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23 そばにいたい理由(テオ視点)

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 昼下がりの学院。静まり返った廊下の影に身を潜めて、俺はそわそわと足を鳴らしていた。
 ノエルが戻ってこない。あいつ、また一人で動いてる……。

「やっと戻ったかよ、ノエル」

 思わず声が出た。振り返ったノエルの顔は、ちょっと汗ばんでいて、いつもよりほんの少し疲れて見えた。

「……テオ」

「何も言わずにどこ行ってたんだ?」

「あちこち聞き込み。もぉ~、平気だよ」

「お前さ……一人で行動するなって、前にも言ったろ?」

 シャツの襟を緩めながら、ノエルはへらっと笑う。

「心配しすぎ。これでも、少しは強くなったんだよ?」

「は、昔はすぐ“テオぉ……”って泣いてただろ。忘れたとは言わせねぇ」

「ちょ、やめてってば!そういう話もういいから!」

 顔を真っ赤にして睨んでくるけど、俺はそれを見て、なんだか安心した。
 変わったようで、変わらねぇな、こいつ。

 けど――今回の聞き込みは、笑い話じゃなかった。

 ノエルから聞いた話は、退学したオメガたちの証言だった。
 家庭や成績に悩むオメガに、優しく寄り添うふりをして近づいたベータの講師。

「『俺だけは味方だから』『無理しないで』……って言われて、信じたんだよ。でも……」

 そう言ったオメガの声は震えていた。でも、目はまっすぐだった。

「実際は、身体を求められた。断ったら態度が変わった。……怖かった」

 彼女たちは、近く告訴を起こすという。
 証言も揃ってる。証拠もある。だから、これはもうすぐ“終わる”。

 ノエルは、胸ポケットに資料をしまいながら言っていた。

「……あの講師は、“あの事件”とは関係ない。最低なクズだけど、闇とは無関係だった」

 俺たちが本当に追ってるのは、“衝動”の連鎖、あの奇妙な力の波。そして、学院に眠る何か――。

「あのさ、テオ……ありがとぅ」

 ぽつりと、ノエルが言った。

「え?」

「なんかあったら、テオが守ってくれるんだよね?」

 目をそらしながら言うその声に、少しだけ照れが混じっていた。

「仕方ねぇな。俺がそばにいりゃ、お前のピンチは半分減るしな」

「じゃあ、残りの半分は僕が頑張る」

「……でも、ほんとにヤバい時は、全部俺が持ってやるよ」

 一瞬、ノエルの目が丸くなって――それから、頬がほんのり赤く染まった。
 ……見逃すわけ、ねぇよ。

「さぁ、行こ。ユリスたちにも話さなきゃ」

「おう……」

 小さな闇はひとつ潰した。けど、まだ何かが残ってる。
 奥底で、うごめいている“何か”を、俺たちはまだ知らない。


 俺はこの学院に、こいつを守るために来た。
 隣にいられる時間が、どうか少しでも長く続きますように――なんて、俺らしくもないけど。

 ──風が少しだけ、あたたかくなった気がした。

 そのぬるさが、まるで嵐の前触れみたいで、ふと胸がざわついた。

「……あっ、レオン!」

 ノエルが声を上げた。学院の渡り廊下の先から、レオンがゆっくり歩いてくる。

「よう、ノエル、テオ。何かあったか?」

「ううん、ユリスに話があって……今、一緒にいる?」

「え?……お前たちと一緒にいるんじゃなかったのか?」

「え……?」

 一瞬、静寂が流れる。

 ノエルの瞳が揺れ、テオが表情を曇らせた。

「……まさか」

 その瞬間、レオンの顔から血の気が引いた。

「……っ、ユリス……!」

 何かが、ほどけていくような胸騒ぎがした。
 それが始まりだった。

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