『蒼い翼の約束』〜天使の恋は罪に堕ちる〜』

るみ乃。

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第1章『心を焦がす名前のない想い』(少年期)

5 「僕は君がすきなんだ」

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 天界に、めずらしく霧が出ていた。
  光は薄く滲み、建物の輪郭もぼんやりと霞んでいる。
  朝の祈りが終わったばかりの礼拝堂には、まだ誰の気配もなく、白い静けさが満ちていた。
 その隅に座り込んだ僕は、何度も深く息を吐いていた。
 けれど、胸のざわめきはおさまらなかった。

 ――ミカエルと一緒にいると、心がざわつく。
 君が隣にいるだけで、抑えきれない何かが、胸の奥で暴れだしそうになる。

 その感情をどうしていいかわからなくて、
 僕は、君から少し距離を置こうとしてしまった。

「……今日は、ひとりで過ごしてもいい?」

 そう告げたとき、ミカエルは一瞬驚いたように瞬きをして、
 すぐにいつものような穏やかな声で言った。

「どうして? 何かあったの?」

 変わらない優しさが、かえって胸に痛かった。
 何も知らない――無垢な瞳。
 僕がどれだけ混乱しているのか、何も気づかずに、ただ心配そうに見つめている。

「……ごめん。ちょっと……読みたい本があって」

 苦し紛れにそう言うと、ミカエルは少し眉を寄せて、困ったように笑った。
 その仕草すら、愛しくて。
 
 礼拝堂の天窓から、霧を透かす光がゆっくりと差し込んできた。
  その白さに包まれて、僕は静かに目を閉じた。



 誰もいない天の書庫。
 僕は、そこに逃げるように足を運び、大きく息を吐き出した。

 静寂のなかで、胸の奥に積もっていた言葉たちが、少しずつ輪郭を持ちはじめる。

「……他の天使たちとは違う……君だけに向けてしまう、この感情」

 ようやく、自分の中で認めることができた。

 君の笑顔が、胸に焼きついて離れない。
 少し触れられるだけで、息が詰まりそうになる。
 もっと近くにいたい。もっと君を知りたい。もっと――

 ……触れたい。

「……僕は、ミカエルが好きなんだ」

 誰もいない空間で、誰にも届かない祈りのように、
 そっと、震える声でその言葉を口にした。

 それは天使として、あるまじき感情だった。

 この想いを告げることは、きっと許されない。
 でも、君を想って生きていくことなら――それは、選べる気がした。

 霧に包まれた静かな朝に芽生えたこのざわめきは、
 いま、ひとつの名前を持った。

 僕はもう、はっきりと気づいてしまった。

 ――そう、僕は君が好きなんだ。
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