『恋のアラカルト:BL・超短編集』~どの恋が好き?~

るみ乃。

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僕が恋した君は人間じゃなかった

『月夜の屋上、影が揺れる』シリアス編

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 沈黙が、限界まで張り詰め、空気の密度そのものを変えていく。
 僕は、この沈黙の先に待つ決定的な破滅を予感しながらも、
 ハズキの唇が動く瞬間から目を逸らせずにいた。

「……だいち」

 低く、硬質な声。

「俺、人間じゃないんだ」

 思考が、そこで途切れ、世界が一瞬、空白になる。
 冗談だと笑い飛ばそうとした。でも、肺を圧迫する異様な空気と、
 目の前の存在感が、それを許さなかった。

「……なに、それ。何の冗談だよ」

 震えた声が零れる。
 ハズキは視線を逸らさない。月のない闇の中、その瞳だけが淡く光っていた。

「ずっと言えなかった。隠し通すつもりだった。でも……もう、限界なんだ」

 突風が吹き抜け、フェンスが激しく軋む。
 重なる心臓の音が、耳の奥で狂ったように響いた。

「証拠がいるなら……見せる」

 ハズキが、ゆっくりと一歩後ろに下がる。
 距離は開いたはずなのに、肌を刺す圧迫感はむしろ増していった。

 次の瞬間、世界が歪んだ。

 一歩、距離が開く。
 だが圧迫感はむしろ増した。

 次の瞬間、世界が歪む。

 フェンスに落ちた影が泥のように崩れ、蠢き始めた。
 人の形だった輪郭が引き裂かれ、獣じみた異形へと変わっていく。

「……っ」

 息を呑む。
 影が意思を持ち、牙を剥くかのような光景。

 喉が引き攣り、足が震える。
 本能が全力で後退を命じていた。

「大丈夫だ。お前には……触れない」

 静かな声が、夜の底に落ちる。

「お前が許可しない限り、指一本触れない」

 誓いのような言葉が、あまりに具体的で現実的で……

「月夜が近づくと、抑えが効かなくなる。
 人の皮が、内側から食い破られそうになるんだ。」

 まるで他人事のように、淡々と語られるその声。

「だから、距離を置くつもりだった。
 お前を巻き込まないように、消えるつもりだった。……でも」

 影はゆっくりと元の形へ戻り、雲間から月が姿を現す。
 冷たい光の下に立っていたのは、人ならざる者『人狼』。

 僕は膝の震えを抑え、立ち尽くしていた。

 怖い。
 喰われるかもしれない。殺されるかもしれない。

 それでも……
 その恐怖を遥かに上回る愛着だけが、胸の奥で確かに脈打っていた。

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