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『銀の守り手と黒曜の皇子』
触れてはならぬもの(白銀視点)
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私は、いつも黒曜さまのそばにいた。
それが、私の役目だったからだ。
剣を取る日も、書を読む日も、
朝も、夜も、季節が巡っても……
まるで兄弟のように、時を共にした。
黒曜さまが怪我をすれば、私は触れた。
裂けた皮膚、腫れた指、熱を持つ額。
私の手に触れた痛みは、
静かに、確実に、私の中へと流れ込んでくる。
それでも構わなかった。
この方を守れるなら、
銀の輝きが少しずつ失われても……
ある夜のことだった。
黒曜さまが、激しくうなされていた。
呼吸は荒く、額には冷たい汗。
その名を呼んでも、目は覚めない。
私はそっと、枕元に腰を下ろし、
その手に、触れた。
“ぞわり”
流れ込んできたのは、
今まで感じたことのないほど、濃く、重い闇。
恐怖。絶望。
逃げ場のない、幼い心の悲鳴。
第一皇子として、
幼き頃から世継ぎ争いの渦中にいた黒曜さま。
そして……
母君が、毒によって命を落とした、あの日。
目の前で崩れ落ちた身体。
止まらない咳。
幼い手で、どうすることもできなかった記憶。
その光景が、
今もなお、この方を苦しめている。
……黒曜さま
私は、歯を食いしばり、浄化を続けた。
けれど、闇は深すぎた。
力が、奪われていく。視界が、白く滲む。
でも、その手だけは、離さなかった。
次に目を覚ましたとき、
最初に映ったのは、黒曜さまの寝顔だった。
穏やかな呼吸。
長い睫毛。
夜の闇を忘れたような、静かな表情。
……美しい。
そう思った瞬間、
胸の奥が、どくん、と大きく脈打った。
今までとは、違う。
守りたい、というだけではない。
触れたい。近くにいたい。
溢れ出しそうな感情に、私は息を呑んだ。
そのとき。
「……白銀」
名を呼ばれ、はっとする。
黒曜さまが、目を開けていた。
伸ばされた指が、私の頬に触れる。
「近いぞ」
そう言って、微笑む。
気づいている……
私の動揺も、この胸に芽生えた、許されぬ想いも。
それでも、この方は踏み込んでこない。
私たちの関係は、
あくまで皇子と、それを支える従者。
「白銀、もう下がってよい。
昨夜は……ありがとう」
その言葉で、我に返った。
「はっ……!」
頬が、熱い。
何も言えず、私は頭を下げ、部屋を飛び出した。
廊下に出た瞬間、胸を押さえる。
……違う。
私は、この方を想ってはならない。
私は、黒曜さまを守るために、生きる者。
この想いは――
銀が、決して触れてはならぬもの。
それが、私の役目だったからだ。
剣を取る日も、書を読む日も、
朝も、夜も、季節が巡っても……
まるで兄弟のように、時を共にした。
黒曜さまが怪我をすれば、私は触れた。
裂けた皮膚、腫れた指、熱を持つ額。
私の手に触れた痛みは、
静かに、確実に、私の中へと流れ込んでくる。
それでも構わなかった。
この方を守れるなら、
銀の輝きが少しずつ失われても……
ある夜のことだった。
黒曜さまが、激しくうなされていた。
呼吸は荒く、額には冷たい汗。
その名を呼んでも、目は覚めない。
私はそっと、枕元に腰を下ろし、
その手に、触れた。
“ぞわり”
流れ込んできたのは、
今まで感じたことのないほど、濃く、重い闇。
恐怖。絶望。
逃げ場のない、幼い心の悲鳴。
第一皇子として、
幼き頃から世継ぎ争いの渦中にいた黒曜さま。
そして……
母君が、毒によって命を落とした、あの日。
目の前で崩れ落ちた身体。
止まらない咳。
幼い手で、どうすることもできなかった記憶。
その光景が、
今もなお、この方を苦しめている。
……黒曜さま
私は、歯を食いしばり、浄化を続けた。
けれど、闇は深すぎた。
力が、奪われていく。視界が、白く滲む。
でも、その手だけは、離さなかった。
次に目を覚ましたとき、
最初に映ったのは、黒曜さまの寝顔だった。
穏やかな呼吸。
長い睫毛。
夜の闇を忘れたような、静かな表情。
……美しい。
そう思った瞬間、
胸の奥が、どくん、と大きく脈打った。
今までとは、違う。
守りたい、というだけではない。
触れたい。近くにいたい。
溢れ出しそうな感情に、私は息を呑んだ。
そのとき。
「……白銀」
名を呼ばれ、はっとする。
黒曜さまが、目を開けていた。
伸ばされた指が、私の頬に触れる。
「近いぞ」
そう言って、微笑む。
気づいている……
私の動揺も、この胸に芽生えた、許されぬ想いも。
それでも、この方は踏み込んでこない。
私たちの関係は、
あくまで皇子と、それを支える従者。
「白銀、もう下がってよい。
昨夜は……ありがとう」
その言葉で、我に返った。
「はっ……!」
頬が、熱い。
何も言えず、私は頭を下げ、部屋を飛び出した。
廊下に出た瞬間、胸を押さえる。
……違う。
私は、この方を想ってはならない。
私は、黒曜さまを守るために、生きる者。
この想いは――
銀が、決して触れてはならぬもの。
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