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『銀の守り手と黒曜の皇子』
触れぬという選択(黒曜視点)
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夜は、静かすぎるほど静かだった。
皇太子の私室。
広すぎる部屋に、灯りは一つだけ。
今日、俺は皇太子になった。
誰もが頭を垂れ、祝福の言葉を並べ、
未来を語った。
けれど、そのどれもが、
胸の奥には落ちてこない。
(……白銀)
名を呼びそうになり、口を閉ざす。
昼間、あいつは間違えた。
「皇子さま」と。
その一言に、胸が、ひどく痛んだ。
正しくない。今の俺は、もう……
だからこそ、訂正した。
ああするしかなかった。
あのまま、白銀の呼び方を許してしまえば、
俺はきっと、伸ばしてはいけない手を、伸ばしていた。
机に置かれた杯を取る。
だが、口にはつけず、戻した。
昔から、そうだ。
母が死んだあの日から。
毒に侵され、目の前で崩れ落ちた姿を、
俺は、忘れたことがない。
守れなかった。何もできなかった。
だから決めた。
二度と、誰かに“守られる側”にはならないと。
……それなのに。
白銀の手は、いつも温かかった。
傷に触れるとき。
眠れぬ夜に、そっと傍らに座るとき。
闇が、薄れていくのがわかった。
それが、あいつの命を削っていることも。
気づかないとでも、思ったか……
銀の輝きが、少しずつ失われていくのを。
俺は、皇太子だ。
多くを奪う立場に立つ者。
血と策謀の上に、立つ者。
そんな俺が、
あいつの人生まで奪っていいはずがない。
だから……距離を取った。
冷たい言葉を選び、
命令という形で突き放した。
「下がれ」
あのときの白銀の背中を、
俺は、目に焼き付けている。
振り返らなかった。
それが、救いでもあり、残酷でもあった。
夜更け。扉の向こうに、気配がある。
……来るな
そう思った瞬間、
微かな銀の気配が近づいて、
やがて、遠ざかった。
来なかった。
……来なかったのだ。
胸の奥が、ひどく、冷える。
それでも、これでいい。
俺が太子である限り、
白銀は“従者”でなければならない。
それが、あいつを生かす唯一の道だから。
俺は灯りを消し、闇の中で目を閉じた。
『白銀……』
声に出さず、名を呼ぶ。
触れない。想わない。
いや……
想っているからこそ、触れない。
それが、皇太子として、
一人の男として選んだ、
唯一の答えだった。
皇太子の私室。
広すぎる部屋に、灯りは一つだけ。
今日、俺は皇太子になった。
誰もが頭を垂れ、祝福の言葉を並べ、
未来を語った。
けれど、そのどれもが、
胸の奥には落ちてこない。
(……白銀)
名を呼びそうになり、口を閉ざす。
昼間、あいつは間違えた。
「皇子さま」と。
その一言に、胸が、ひどく痛んだ。
正しくない。今の俺は、もう……
だからこそ、訂正した。
ああするしかなかった。
あのまま、白銀の呼び方を許してしまえば、
俺はきっと、伸ばしてはいけない手を、伸ばしていた。
机に置かれた杯を取る。
だが、口にはつけず、戻した。
昔から、そうだ。
母が死んだあの日から。
毒に侵され、目の前で崩れ落ちた姿を、
俺は、忘れたことがない。
守れなかった。何もできなかった。
だから決めた。
二度と、誰かに“守られる側”にはならないと。
……それなのに。
白銀の手は、いつも温かかった。
傷に触れるとき。
眠れぬ夜に、そっと傍らに座るとき。
闇が、薄れていくのがわかった。
それが、あいつの命を削っていることも。
気づかないとでも、思ったか……
銀の輝きが、少しずつ失われていくのを。
俺は、皇太子だ。
多くを奪う立場に立つ者。
血と策謀の上に、立つ者。
そんな俺が、
あいつの人生まで奪っていいはずがない。
だから……距離を取った。
冷たい言葉を選び、
命令という形で突き放した。
「下がれ」
あのときの白銀の背中を、
俺は、目に焼き付けている。
振り返らなかった。
それが、救いでもあり、残酷でもあった。
夜更け。扉の向こうに、気配がある。
……来るな
そう思った瞬間、
微かな銀の気配が近づいて、
やがて、遠ざかった。
来なかった。
……来なかったのだ。
胸の奥が、ひどく、冷える。
それでも、これでいい。
俺が太子である限り、
白銀は“従者”でなければならない。
それが、あいつを生かす唯一の道だから。
俺は灯りを消し、闇の中で目を閉じた。
『白銀……』
声に出さず、名を呼ぶ。
触れない。想わない。
いや……
想っているからこそ、触れない。
それが、皇太子として、
一人の男として選んだ、
唯一の答えだった。
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