舞姫〜魔導を行く者〜

雨宮葵

文字の大きさ
上 下
3 / 4
第1章 謎の魔導師

第3話 古巣への訪問

しおりを挟む
 首都・ルミテミア。国内で一番人口密度が高く、一番身分格差が大きい街。ルミテミアには、一般人が暮らす城下町と呼ばれる街と貴族たちが住む貴族街という街が存在する。街の中央には円を描くように高い壁が構築されており、その中が貴族街。許可された者しか入れない街。
 駅からその貴族街の入り口方面に進んでいくと、黒いビルと白いビルが並んでいるのが見えてきた。
 黒いほうが聖議院本部。隣の白いビルが聖議院、医療ヒーリングが経営する国最高峰の病院。
「レイナ・フィリアーナ様ですね」
 声をかけてきたのは受付嬢の制服を着た女性。
「そうです」
「お迎えに参りました。どうぞこちらへ」
 案内されたのは数多くある応接室の内の一つ。
 コンコンコン
「レイナ・フィリアーナ様をお連れ致しました」
「どうぞ」
 この声……。
「失礼致します」
 そう言いながら彼女が扉を開けたその先には、銀色のショートヘアーと緋色の瞳を持つ見知った顔。
「それでは、私はこれにて失礼致します」
 彼女はそう言い立ち去っていった。
「そんなところに突っ立ってないで座ったら?」
 なぜこいつがここにいるんだ……。
「……失礼します」
 とりあえず、用件を早く終わらせよう。
「依頼内容についてですが、なぜ討伐ではなく情報収集なのでしょうか?」
「神の裁きを監視し、その先にいる悪魔の尻尾を掴むためだよ」
 彼の言う悪魔とは、裏ギルド、悪魔の手ディアブルハンドの通称。私が長年追っているギルドでもある。国から認められていない裏ギルドは正規の依頼を受けることができないため、暗殺や人身売買の手助けなどを生業としている。
「情報収集なら、そちらに優秀なのがいるではありませんか」
 聖議院にある4つの部署の一つ、ヒドゥン。隠密に特化した、人数やメンバーなどが一切不明の部署。
「人手が足りなくてね。だから君に頼んだんだよ。情報収集能力もあるし、実力も申し分ないからね」
 人手が足りない、ね.......。
「人手が足りないのであれば私に付けている者を回してはいかがですか? まあ、あまり優秀とは言えないと思いますが」
 私に気づかれている時点でアウトだ。
「君が視線に敏感すぎるんだよ。引き受けてくれないの?」
「引き受けますよ。なので、そちらがお持ちの情報を全て開示していただけますか?」
「残念ながら、君がいた頃から進歩していないよ。神の裁きの情報は頭に入ってるんだろ? 元第2部隊副隊長さん」
「ええ。監視ということは目的はアジトの場所を見つけ出すということでよろしいでしょうか?」
「ああ、それで問題ない」
「わかりました。期限は?」
「3ヶ月。アジトを突き止められればそれに超したことはないけど、掴んできた情報によっては報酬を変えるつもり」
「わかりました。では、こちらの資料をお渡し致します」
 鞄からファイルを取り出した。
「それは?」
「神の裁きの人間及びアジトの場所をまとめたものです」
「えっ!?」
「既に情報は掴んでいます。なのでこれで依頼は完了したということでお願いします。それから、依頼の報酬はあなたが所持している私の私物を返しいただくということでお願いします」
「そんなにこれが大事なの?」
 取り出されたのは黒と白の拳銃。
「はい」
 とても大切なものだ。
「学生の頃からずっと使ってるよね」
「それで、返事は?」
「もちろん返すよ。元々今日返すつもりだったから」
「ありがとうございます」
「報酬も、指定の口座のほうに振り込んでおくよ」
「ありがとうございます。それから、一つお聞きしてもよろしいですか?」
「なんだい?」
「なぜナンバー2ndであるあなたがわざわざ依頼の説明ごときでこちらに?」
 彼はアレイ・レファール。聖議院断罪者ジャッジメント第2部隊隊長、通称ナンバー2nd。聖議院が誇る戦闘部隊の中でも2番目に強い男と称される人物だ。
「えっ? そんなのレイナに会うために決まってるじゃん」
 ……実力はあるがこのように仕事に対するやる気はあるとは言えない。
「……いい加減真面目に仕事をするようにしてください」
 拳銃を受け取り、そう言って立ち上がっった。
「レイナが戻ってきてくれたら真面目になるかも」
「それは絶対ありませんね」
 それなら私がいた頃から真面目だったはずだ。
「またね、レイナ」
 そのまま応接室を出て、聖議院を出た。
しおりを挟む

処理中です...