上 下
7 / 232
03.眷属リュシーと隻眼の狼

(2)

しおりを挟む
「ふん……何か面倒な事情がありそうだな。久々に面白そうなものを拾ったと思ったら……」

「そうですね。ご主人が目をつける前なら、なるようになるで済んだんでしょうけど」
「ち……あいつのおもちゃに手は出せねぇな」
「賢明です」

 リュシーがうなずくと、男は小さく舌打ちを重ね、諦めたようにひらりと片手をあげた。すると周囲を囲むようにして様子を窺っていた狼たちが、渋々ながらも森の奥へと散っていった。

「ていうか、よくがっつかずにいられましたね。俺よりずっと鼻が効くあんたたちには、この匂い、きついくらいじゃないんですか」
「そうだな。あと五分遅かったらどうなってたかわかんねえな」

 男は顎に手をあて、平然と答えたが、ジークを眺める目つきはまだどこかギラついている。

 リュシーは近くに落ちていた封書を拾い上げると、続けてジーク自身を抱き上げた。どちらかと言うと細身のリュシーだったが、身長からすれば標準か、むしろ少し軽いかという程度のジークを抱えるくらいのことはできる。
 完全に意識がないせいでより重く感じるものの、「よいしょ」と声をかけて抱え直すと、改めて隻眼の男を振り返った。

「間に合って良かったです。さすがに真っ最中に踏み込むのは俺も気がひけますから」
「その時は混ざればいいだろ」
「複数プレイは苦手なんで」

 半ば他人事のように返せば、男は一瞬の間ののち、くく、と喉奥でおかしげに笑った。

「なるほど、ヤるなら一対一でってことか。そういう誘い方もあるんだな」
「あんたのその前向きすぎる思考は嫌いじゃないですけどね」

 言い終わるが先か、リュシーは僅かに目を伏せた。その背中に、ふっと青い翼が具現化する。ばさりと広げられたそれが力強く羽ばたくと、足元の木の葉や枯れ草が一気に舞い上がった。

「貸しいちだからな」
「伝えときます」

 視線も向けずに言い残して、リュシーは飛び立った。
 みるみる小さくなっていくその姿を見送りながら、男は呆れたように呟いた。

「いや、お前に言ったんだよ」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

男はエルフが常識?男女比1:1000の世界で100歳エルフが未来を選ぶ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:241pt お気に入り:366

痴漢冤罪に遭わない為にー小説版・こうして痴漢冤罪は作られるー

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:668pt お気に入り:0

乙女ゲーム関連 短編集

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,462pt お気に入り:156

【R18】引きこもりだった僕が貞操観念のゆるい島で癒される話

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:575pt お気に入り:12

天使な顔に騙された男

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:7

拾われ執事は王太子に執着される

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:38

処理中です...