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19.夢か現か
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ジークはアトリエへと続く扉を開けた。
いつものように、窓際に佇む鳥かごへと目を向ける。
暗がりの中、微妙に焦点の合わない双眸に映るのは、籠の中で眠る一羽の青い鳥。
記憶に残らないその光景に、ジークは淡く微笑み、足元に落ちていた一枚の羽根を拾い上げると、壊れ物でも扱うようにポケットへとしまう。
その〝青い羽根集め〟も、ある意味恒例となっていたが、結局は知らないうちに着ているものを替えられているため、ジークの手元に残ったことはなかった。
ただリュシーがそれを見つけるたびに、「また入ってる……」と怪訝に呟いているだけで。
「……」
ひたひたと裸足で廊下を歩き、アンリの寝室のドアを開ける。
広いベッドの上にはナイトキャップを被ったアンリが静かに眠っている。
「アン、リ……」
枕元に見える、滑らかな朱銀の髪。
ジークは艶然とした笑みを浮かべ、確かめるようにその名を口にする。
躊躇うことなくベッドの上へと乗り上げ、彼の傍へと近づいていく。
手を伸ばし、上掛けに手をかけたところで、
「ぁっ……」
その手首をアンリが掴んだ。
かと思うとそのままシーツの上へと引き倒されて、仰向けにされたジークは僅かに視線を彷徨わせる。視界が陰り、するりと長い髪が降ってきた。と同時に目に入ったのは、まっすぐに自分を見下ろしてくる冷ややかな眼差しだった。
ジークの背筋がぞくりと粟立つ。
けれども、その顔から笑みが消えることはない。
「あ、はや、く……」
どころか、いっそう欲しいみたいに甘やかな声を漏らしてしまう。
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