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一線の越え方
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「だからなんだよ」
「なにって…だって、それで憶えてねーとか、意味が……」
「意味なんてどうでもいいだろ。一晩限りで寝たヤツのことなんて、いちいち憶えちゃいねーよ」
「一晩限りって……でもあっちはアンタのこと、ちゃんと真剣に考えて……」
明らかに、彼は機嫌が悪くなっている。
その原因が俺にあるのは明白なので、どうにかフォローしなければと思うものの、
(つっても、どうすりゃいいのか分かんねー…!)
口をつく言葉は相変わらずで、背筋を冷たい汗ばかりが伝い落ちた。
「――うるせーな」
と、彼は唐突に腰を上げる。呟くように溢された言葉が耳に痛い。
「ごめん、ちょっと俺、言い方……」
慌てて訂正しようとするが、それも彼の耳に届いたのかどうか…。
彼は俺の傍らに立ち、痛いほどの眼差しで真っ直ぐ俺を見下ろした。
「…あ、の……」
必然と、俺の上に影が被さる。
見上げた視線は、先刻までとは違い、今度は何故か逸らせなかった。
まるで、釘付けになったみたいに。
「お前見てると、苛々するんだよ」
刹那、降って来た声音は酷く平坦で、俺は反射的に上体を引いた。
「いや…、でも……」
だけど、そんな俺の様子などお構いなしに、彼は無言のまま身を屈め、俺の襟元に手を伸ばす。
半ば本能的に後退ろうとするけれど、距離を詰められる方がずっと速い。
「それに――」
「ちょっ…、ちょっと待って、山端さ……っ」
一瞬、殴られるのかと思った。
俺が余りに不躾なことを言ったから。
だけど次の瞬間には、
「逸樹って呼べって言っただろ」
先よりも一層冷たい声でそう囁かれ、床の上に押し倒されていた。
「なにって…だって、それで憶えてねーとか、意味が……」
「意味なんてどうでもいいだろ。一晩限りで寝たヤツのことなんて、いちいち憶えちゃいねーよ」
「一晩限りって……でもあっちはアンタのこと、ちゃんと真剣に考えて……」
明らかに、彼は機嫌が悪くなっている。
その原因が俺にあるのは明白なので、どうにかフォローしなければと思うものの、
(つっても、どうすりゃいいのか分かんねー…!)
口をつく言葉は相変わらずで、背筋を冷たい汗ばかりが伝い落ちた。
「――うるせーな」
と、彼は唐突に腰を上げる。呟くように溢された言葉が耳に痛い。
「ごめん、ちょっと俺、言い方……」
慌てて訂正しようとするが、それも彼の耳に届いたのかどうか…。
彼は俺の傍らに立ち、痛いほどの眼差しで真っ直ぐ俺を見下ろした。
「…あ、の……」
必然と、俺の上に影が被さる。
見上げた視線は、先刻までとは違い、今度は何故か逸らせなかった。
まるで、釘付けになったみたいに。
「お前見てると、苛々するんだよ」
刹那、降って来た声音は酷く平坦で、俺は反射的に上体を引いた。
「いや…、でも……」
だけど、そんな俺の様子などお構いなしに、彼は無言のまま身を屈め、俺の襟元に手を伸ばす。
半ば本能的に後退ろうとするけれど、距離を詰められる方がずっと速い。
「それに――」
「ちょっ…、ちょっと待って、山端さ……っ」
一瞬、殴られるのかと思った。
俺が余りに不躾なことを言ったから。
だけど次の瞬間には、
「逸樹って呼べって言っただろ」
先よりも一層冷たい声でそう囁かれ、床の上に押し倒されていた。
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