一線の越え方

市瀬雪

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一線の越え方

11...心裏腹【Side:山端逸樹】*

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 直人が、俺に他のヤツとの仲を取り持つような発言をしたのが腹立たしくて、衝動的に押し倒してしまった。

(俺は何に苛立ってるんだ!)

 そう自問しても答えが得られないから、その捌け口にでもするかのように、直人を押さえつける手に力を込める。

 俺はこいつにこんなことをするつもりなんてなかったはずだ。
 もちろん、全くなかったといえば嘘になるが、それは相手にもその気があれば、の話だった。

 でも、今の状況は違う。

 直人が悪びれた様子もなくキューピッドのような真似をしたいと告げたことが無性に癇に障って、その原因を作った彼を壊してしまいたくなった。

 いきなり床に押し付けられて、怯えよりも驚きのほうが勝っているのだろうか。
 瞳を見開いて呆然と俺を見詰める直人の唇を、俺は有無を言わさず塞いだ。

「――……っ!」

 最初は何が起こったのか分からず反応が遅れた直人だったが、さすがに口中をむさぼるように舌をねじ込まれて、正気に返ったらしい。
 嫌々をするように激しく頭を振って俺から逃れようとする。

 その仕草が、余計に俺の加虐心に火をつけた。

 片手で直人の両腕を束ねると、もう一方の手で彼の髪を鷲掴みにする。
 頭と両手の動きを封じられた直人が、身をよじって逃げようとするのを、足で押さえつけて動けなくした。

 だが、最後の抵抗だとでも言わんばかりに舌を噛まれて、俺はそれ以上の口付けを諦める。
 別にそこにばかり執着する必要もない。

「放、せよ……っ!」

 そんな俺を果敢にも睨みつける直人。
 その目は怒りと恐怖のためか、薄っすらと潤んでいた。

「断る」

 基本的に俺は無理矢理するのは好きじゃない。
 抵抗する相手を押さえつけてことを運ぶのは面倒だし、そんなことをしなくても犯らせてくれる相手ならいくらでもいるからだ。

 なのに何故か今回に限っては、抑え切れない衝動に突き動かされるように、彼の手を解くことが出来なかった。

 掴んだままの直人の髪をグイッと引っ張って喉を仰け反らせると、露わになった首筋に唇と舌を這わせる。

「……やっ、っちょっ、何すっ……!」

 首筋が弱いのか、一瞬ビクンッと身体を震わせると、身体に力を込める直人。

「……ここが好いのか?」

 わざと耳元に唇を寄せ、吐息がかかるようにそう言うと、

「違っ!」

 苦しそうに息を詰めながら直人が首を振ろうとする。

 だが、髪の毛を掴まれているのでうまく意志表示が出来なくて――。それに苛立ったように身体が先ほどよりも激しく抵抗を始めた。
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