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魔法がとけたら01
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明け方、ふと目を覚ましたギルベルトは、無言でベッドを抜け出した。
喉が渇いていた。珍しく枕元には水が用意されていなかった。
よく見れば身体もろくに清められておらず、昨夜付着した体液が渇いたような跡があちこちに残っている。肌には新たな鬱血痕も刻まれていて、けれどもさすがに異常だと思った前回ほどの数はなかった。
「さみ……」
空調は効いているけれど、身に着けているのは辛うじて下着一枚。ギルベルトは小さく肩を震わせながら、近くに置いてあったラファエルのガウンを手に取った。自分の服は汚れるから着たくない。袖を通し、静かに寝室を出る。
その背後では、ラファエルが安らかな寝顔をさらして眠っていた。
「たぶん、明日には魔法がとける……」
それはいつなのだろう。最初にかかった時間から数えるのだろうか。
いや、そこまで厳密なものとは思えない。もしかしたら、朝目が覚めたら消えているという可能性だってある。
まぁ、それならそれで。かかったのも唐突だったから、そうだったとして別に驚かない。
ギルベルトはいつもラファエルがしているように、水差しとグラスの載ったトレイを持って、寝室に戻った。
サイドテーブルに下ろした水を、再度ひとくちだけ飲んだ。視界の端でラファエルが身動ぐ。唇がなにか言いたげに動いたけれど、特に目を覚ましたわけではないようだった。
「……あほみたいな顔しやがって」
ギルベルトはかたわらに立ったままその寝顔を見下ろした。あいかわらず整った顔立ちをしている。
「……」
ギルベルトは目を細め、ふとその鼻先を摘まんでやる。すると「んん」と微かな声がして、ラファエルの眉根が少しだけ寄った。
ギルベルトは小さく肩を揺らす。悪戯が成功した子供みたいに、口角を上げて笑みを浮かべた。
そのときだった。
「ギル……〝kneel〟」
びり、と身体に甘い痺れが走る。かと思えばぺたんとその場に座り込んでいて、一気に鼓動が速くなった。
「は……、はァ……?」
ギルベルトは信じ難く顔を歪ませる。胸元の服を掴んで、込み上げる波を堪えるように息を詰めた。
「クッソ……、ざけんなよ……っ」
下着の中に、濡れた感触が広がった。
ラファエルが口にしたのはコマンドだった。ギルベルトは言われるまま従って、そしてそのまま達してしまった。
すっかり気が抜けていたこともあっただろうが、それにしたって従順すぎる。
あれだけでかい口を叩いておいて、このざまはさすがに恥ずかしい。恥ずかしくて居た堪れない。なにより負けたみたいな気になって、しだいに怒りがわいてくる。
目の前ではラファエルがなにごともなかったように微笑っている。金色の睫毛に縁取られた瞳は伏せられたまま――要するにさっきのは単なる寝言だった。
「てっめぇ……。マジで起きたら覚えてろよ」
ここでしばき倒して起こすのは容易だ。けれども、そんなことをしたらギルベルトの惨状が知られてしまう。
それだけは絶対に避けたくて、ギルベルトは無言で下着を脱ぎ捨てる。込み上げる欠伸を漏らしながら、そのままラファエルの隣に潜り込む。ラファエルのものとは言えガウンは着ているし、特に問題はないだろう。
起き出すにはまだ早い時間だし、単純にもう一眠りしたかった。心地良い気怠さに包まれて、ギルベルトは目を閉じる。触れ合う人肌が心地良くて、暖を取るように身を寄せる。
「……ギル」
まもなくおりてきた眠気に身を委ねようとしたところだった。再び耳に届いた声に、ギルベルトは瞼を上げる。
向けた視線の先で、ラファエルはやはりすやすやと眠っていて、起きたような気配はないまま、ギルベルトをぎゅっと抱き締めてくる。
「……寝惚けてんじゃねぇよ、このクソ天使」
独りごちるように言いながら、けれどもその腕を撥ね除けることはしなかった。……だって温かかったから。
「は――マジ腹立つ」
溜息混じりに呟いて、目の前の見慣れた寝顔をぼんやり見つめる。おかげで少し眠気が飛んでしまった。
ギルベルトは手を伸ばし、その頬に触れた。自分とは真逆の、色白で透き通るような肌。長い睫毛が影を落とす目元を親指の先でなぞり、薄く開かれたままの唇に視線を移す。自分のそれをそっと重ねる。押し付けることも食むこともなく、ただ触れ合わせるだけの口付けを落として、内緒話みたいに囁いた。
「――Collar、よこせよ」
ラファエルの唇を吐息が掠める。
口にしてから、はっとした。ギルベルトはとたんに恥ずかしくなって、赤く染まった顔を隠すように身を翻す。
ラファエルの腕の中で、どきどきとうるさい鼓動を隠すように身を丸めて、
「ばかかよ、俺は」
そんな自分に呆れながら、今度こそぎゅっと目を閉じた。
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