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【番外編】ひとめぼれではありません(side:ラファエル)
ひとめぼれではありません01
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特に一目惚れしたとか、そういうことではなかったんです。
最初は単なる興味本位と言いますか……。
***
ラファエルがギルベルトと初めて出会ったのは、ラファエルの叔父が経営するカフェ兼バーだった。
その日は夕方から天候が崩れて、降り出した雨はあっという間に豪雨に変わった。ラファエルはその頃には既に店の中にいて、それから遅れること数分、突然の雨に対して口汚く悪態を吐きながらドアを開いたのがギルベルトだった。
黒を基調とした服も身体もすっかり濡れそぼっていて、ぽたぽたと止めどなく落ちる水滴がたちまち床に水溜まりを広げていく。にもかかわらず、構わず店内に入ろうとするギルベルトに、カウンターに座っていたラファエルはとっさに腰を浮かせた。店主は席を外していた。
「ちょっとそこで待ってて下さい、いま拭くものを持って来ますから」
「あァ?」
ラファエルは声をかけながら椅子を降りた。ギルベルトは不機嫌さを隠さずにらみ返し、けれども、次に口を開こうとしたときには頭から真っ白なタオルを被せられていた。吸水性も良く、良い香りのする柔らかな感触にギルベルトは不覚にもほっとする。
「……細けェんだよ、こっちは客だぞ」
そんな心境を誤魔化すように吐き捨てつつも、すっかり冷えてしまった身体は微かに震えている。
ギルベルトは渋々ながらもそれを引っ掴むと、水気を孕んで重くなった外套を脱ぎ捨て、肌へと貼り付く髪や身体を拭いていった。
乱れた髪の下でシルバーのピアスがきらりと光る。そのときのギルベルトの背に、蝙蝠のような羽はなかった。
ギルベルトが不機嫌だったのには理由があった。
分かりやすく言えば、自分に惚れ抜いていると思っていた彼女にあっさり振られたからだ。正直よくあることではあったものの、そのたび律儀に腹を立て、やさぐれるのがギルベルトでもあった。それと理由はもう一つ――。
「この店は初めてですか?」
ラファエルが微笑みながら問いかけると、ギルベルトは何も言わずに店内を見渡した。どうやらそうらしい。昼はカフェ、夜はバーを営んでいるそこは、森の奥深くにある知る人ぞ知るという小さな店だった。
ギルベルトは絞れるほど水気を吸ったタオルをラファエルへと投げ返し、カウンター席のど真ん中に腰を下ろした。端に座っていたラファエルが、受け止めたタオルを手に金色の瞳を瞬かせる。
ギルベルトは不遜な態度を改めることなく、気怠げに頬杖をついていた。その横顔に思わず目を細め、ラファエルは「へぇ」と声に出さずに感嘆する。
暗がりの店内に紛れるような黒銀の髪は濡羽のようで、苛烈さを失わない同色の瞳は思いの外目を惹いた。ぴったりとした革製の衣服越しにもわかる健康そうな褐色の肌はしなやかな筋肉を纏っていて、そのわりに細めの腰が妙に艶めかしくも見えた。
そうかと言って、その瞬間に恋に落ちたというわけではない。元々惚れっぽくも一目惚れをする性質でもないラファエルは、その時はまだあくまでも客観的な感想としてそう思ったに過ぎなかった。
「何か飲みます? 叔父……マスターはちょっと外しているので、僕が用意できるものにはなりますが」
「なんでもいいから酒」
ラファエルは白金色の長髪を緩く掻き上げながら、「わかりました」と再度微笑んで見せた。
最初は単なる興味本位と言いますか……。
***
ラファエルがギルベルトと初めて出会ったのは、ラファエルの叔父が経営するカフェ兼バーだった。
その日は夕方から天候が崩れて、降り出した雨はあっという間に豪雨に変わった。ラファエルはその頃には既に店の中にいて、それから遅れること数分、突然の雨に対して口汚く悪態を吐きながらドアを開いたのがギルベルトだった。
黒を基調とした服も身体もすっかり濡れそぼっていて、ぽたぽたと止めどなく落ちる水滴がたちまち床に水溜まりを広げていく。にもかかわらず、構わず店内に入ろうとするギルベルトに、カウンターに座っていたラファエルはとっさに腰を浮かせた。店主は席を外していた。
「ちょっとそこで待ってて下さい、いま拭くものを持って来ますから」
「あァ?」
ラファエルは声をかけながら椅子を降りた。ギルベルトは不機嫌さを隠さずにらみ返し、けれども、次に口を開こうとしたときには頭から真っ白なタオルを被せられていた。吸水性も良く、良い香りのする柔らかな感触にギルベルトは不覚にもほっとする。
「……細けェんだよ、こっちは客だぞ」
そんな心境を誤魔化すように吐き捨てつつも、すっかり冷えてしまった身体は微かに震えている。
ギルベルトは渋々ながらもそれを引っ掴むと、水気を孕んで重くなった外套を脱ぎ捨て、肌へと貼り付く髪や身体を拭いていった。
乱れた髪の下でシルバーのピアスがきらりと光る。そのときのギルベルトの背に、蝙蝠のような羽はなかった。
ギルベルトが不機嫌だったのには理由があった。
分かりやすく言えば、自分に惚れ抜いていると思っていた彼女にあっさり振られたからだ。正直よくあることではあったものの、そのたび律儀に腹を立て、やさぐれるのがギルベルトでもあった。それと理由はもう一つ――。
「この店は初めてですか?」
ラファエルが微笑みながら問いかけると、ギルベルトは何も言わずに店内を見渡した。どうやらそうらしい。昼はカフェ、夜はバーを営んでいるそこは、森の奥深くにある知る人ぞ知るという小さな店だった。
ギルベルトは絞れるほど水気を吸ったタオルをラファエルへと投げ返し、カウンター席のど真ん中に腰を下ろした。端に座っていたラファエルが、受け止めたタオルを手に金色の瞳を瞬かせる。
ギルベルトは不遜な態度を改めることなく、気怠げに頬杖をついていた。その横顔に思わず目を細め、ラファエルは「へぇ」と声に出さずに感嘆する。
暗がりの店内に紛れるような黒銀の髪は濡羽のようで、苛烈さを失わない同色の瞳は思いの外目を惹いた。ぴったりとした革製の衣服越しにもわかる健康そうな褐色の肌はしなやかな筋肉を纏っていて、そのわりに細めの腰が妙に艶めかしくも見えた。
そうかと言って、その瞬間に恋に落ちたというわけではない。元々惚れっぽくも一目惚れをする性質でもないラファエルは、その時はまだあくまでも客観的な感想としてそう思ったに過ぎなかった。
「何か飲みます? 叔父……マスターはちょっと外しているので、僕が用意できるものにはなりますが」
「なんでもいいから酒」
ラファエルは白金色の長髪を緩く掻き上げながら、「わかりました」と再度微笑んで見せた。
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