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【番外編】ひとめぼれではありません(side:ラファエル)
ひとめぼれではありません02
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控えめな音量で、穏やかな音楽が流れる店内に他の客の姿はない。
「本当に寒くないですか? やっぱり僕の服を……」
「いらねぇっつってんだろ」
室内は空調が効いていたものの、直に雨を受けていた外套を脱いでなおギルベルトの服は濡れていた。それが一目でわかるだけに、さすがに冷えるだろうとラファエルは幾度となく声をかける。
「やっぱり持って来ます。そのままだと風邪をひいてしまいますから」
そのたびすげなく断られるのに、どういうわけか放って置けず、再度念押しのように言って立ち上がる。
「しつけぇんだよ!」
ギルベルトが呷っていたグラスを天板に叩きつける。
「でも、顔、赤いですよ……? もしかしたらもう熱が……」
けれどもそれに怯むことなく、ラファエルは傍らへと歩み寄る。赤みを帯びた頬に手を伸ばし、より濃く染まる目元に指の背で触れた。
じわりと伝わってくる温度は予想よりも温かい。その手を撥ね付けられなかったのは予想外で、ラファエルは少しだけ試すように言葉を重ねた。
「それとも、その程度で酔ったんですか?」
ラファエルの用意した酒はホットワインだった。その方が少しでも身体が温まるだろうと思ってのことだったが、元々酒に強いわけでもないギルベルトはそれだけで酔いが回ってしまったらしい。
「は……? 誰がこれくらいで酔うかよ」
そうかと言って本人がそれを認めることはなく、あろうことかラファエルのたわむれに乗ってしまった。
「天使さまってのはみんなそんななのかよ。親切の押し売りすんのが仕事か? 別に俺様が風邪ひこうとひくまいとてめぇには関係ねぇだろうが」
勢いよく天板に置いたせいで、手元にまで飛び散っていた雫を舐めながら、ギルベルトは忌々しげに目を眇める。ラファエルは傍らに佇んだまま、へぇ、とまた心の中で感心した。
「……僕が天使って、よく分かりましたね」
「天使くせぇからすぐわかるわ」
対してラファエルはまだギルベルトが何の種族かは分からない。ギルベルトは入店時から羽を消していたし、分かりやすく耳や犬歯は尖っているものの、それを含めた特徴に合致する種族はいくつもあった。
「あなたは? 純粋な人間ではありませんよね」
そこで初めて、私的な興味が湧いた。
ラファエルは確かに天使であり、中でも頑なに純血を守っている一族の血裔だ。それゆえに分かるものには分かるのかもしれないが、地上に降りて久しい間にも、その血が入っていそうだと言われることはあっても、そこまではっきり言い当てられたことはなかった。しかもこの様子では、おそらく純血であることまで見抜かれている。
「それもてめぇには関係ねぇだろうが」
「まぁ、そうですけど……」
ラファエルはふいと逸らされた横顔を見つめたまま、束の間逡巡する。
何とも面倒な人だと思う。可愛げもないし、とにかく素直じゃない。
寒いのは寒いのだろうと思う。だってさっきから時折肩も、唇も震えている。ただそれを認めようとしないだけなのだ。さながら反抗期の子供のように。
「じゃあ、それはいいことにしますから、とりあえず着替えだけでもして下さい。このまま風邪をひいて野垂れ死にでもされたら、僕も夢見が悪いので」
それは本心だった。途中で顔を出したマスターも同様の心配はしていた。ただし、このときのラファエルの胸中には少しだけ別の思いも芽生えていた。
「どうしても嫌なら、勝負しますか?」
ほんの一時間に満たない間のやりとりでも、ラファエルはギルベルトの性格をある程度掴んでいた。
「勝負?」
とは言え、さすがにギルベルトも怪訝そうな顔をする。
「はい、分かりやすく、どっちがたくさん飲めるかという勝負です」
「……」
だが、それすらラファエルにとっては想定内のことだった。
「安心して下さい。僕もそんなに強い方じゃありませんので。それとも……自信ないですかね?」
「あァ?」
「それでもしあなたが負けたら、ちゃんと着替える。なんならシャワーも貸しますので、温まって行って下さい」
「……俺様が勝ったら?」
「僕があなたの言うことを何でも聞きます」
「乗った!」
ギルベルトは口端を引き上げながら、持っていたグラスを勢いよく差し出した。ラファエルは「良かったです」と天使然とした微笑みを浮かべてそれを受け取った。
控えめな音量で、穏やかな音楽が流れる店内に他の客の姿はない。
「本当に寒くないですか? やっぱり僕の服を……」
「いらねぇっつってんだろ」
室内は空調が効いていたものの、直に雨を受けていた外套を脱いでなおギルベルトの服は濡れていた。それが一目でわかるだけに、さすがに冷えるだろうとラファエルは幾度となく声をかける。
「やっぱり持って来ます。そのままだと風邪をひいてしまいますから」
そのたびすげなく断られるのに、どういうわけか放って置けず、再度念押しのように言って立ち上がる。
「しつけぇんだよ!」
ギルベルトが呷っていたグラスを天板に叩きつける。
「でも、顔、赤いですよ……? もしかしたらもう熱が……」
けれどもそれに怯むことなく、ラファエルは傍らへと歩み寄る。赤みを帯びた頬に手を伸ばし、より濃く染まる目元に指の背で触れた。
じわりと伝わってくる温度は予想よりも温かい。その手を撥ね付けられなかったのは予想外で、ラファエルは少しだけ試すように言葉を重ねた。
「それとも、その程度で酔ったんですか?」
ラファエルの用意した酒はホットワインだった。その方が少しでも身体が温まるだろうと思ってのことだったが、元々酒に強いわけでもないギルベルトはそれだけで酔いが回ってしまったらしい。
「は……? 誰がこれくらいで酔うかよ」
そうかと言って本人がそれを認めることはなく、あろうことかラファエルのたわむれに乗ってしまった。
「天使さまってのはみんなそんななのかよ。親切の押し売りすんのが仕事か? 別に俺様が風邪ひこうとひくまいとてめぇには関係ねぇだろうが」
勢いよく天板に置いたせいで、手元にまで飛び散っていた雫を舐めながら、ギルベルトは忌々しげに目を眇める。ラファエルは傍らに佇んだまま、へぇ、とまた心の中で感心した。
「……僕が天使って、よく分かりましたね」
「天使くせぇからすぐわかるわ」
対してラファエルはまだギルベルトが何の種族かは分からない。ギルベルトは入店時から羽を消していたし、分かりやすく耳や犬歯は尖っているものの、それを含めた特徴に合致する種族はいくつもあった。
「あなたは? 純粋な人間ではありませんよね」
そこで初めて、私的な興味が湧いた。
ラファエルは確かに天使であり、中でも頑なに純血を守っている一族の血裔だ。それゆえに分かるものには分かるのかもしれないが、地上に降りて久しい間にも、その血が入っていそうだと言われることはあっても、そこまではっきり言い当てられたことはなかった。しかもこの様子では、おそらく純血であることまで見抜かれている。
「それもてめぇには関係ねぇだろうが」
「まぁ、そうですけど……」
ラファエルはふいと逸らされた横顔を見つめたまま、束の間逡巡する。
何とも面倒な人だと思う。可愛げもないし、とにかく素直じゃない。
寒いのは寒いのだろうと思う。だってさっきから時折肩も、唇も震えている。ただそれを認めようとしないだけなのだ。さながら反抗期の子供のように。
「じゃあ、それはいいことにしますから、とりあえず着替えだけでもして下さい。このまま風邪をひいて野垂れ死にでもされたら、僕も夢見が悪いので」
それは本心だった。途中で顔を出したマスターも同様の心配はしていた。ただし、このときのラファエルの胸中には少しだけ別の思いも芽生えていた。
「どうしても嫌なら、勝負しますか?」
ほんの一時間に満たない間のやりとりでも、ラファエルはギルベルトの性格をある程度掴んでいた。
「勝負?」
とは言え、さすがにギルベルトも怪訝そうな顔をする。
「はい、分かりやすく、どっちがたくさん飲めるかという勝負です」
「……」
だが、それすらラファエルにとっては想定内のことだった。
「安心して下さい。僕もそんなに強い方じゃありませんので。それとも……自信ないですかね?」
「あァ?」
「それでもしあなたが負けたら、ちゃんと着替える。なんならシャワーも貸しますので、温まって行って下さい」
「……俺様が勝ったら?」
「僕があなたの言うことを何でも聞きます」
「乗った!」
ギルベルトは口端を引き上げながら、持っていたグラスを勢いよく差し出した。ラファエルは「良かったです」と天使然とした微笑みを浮かべてそれを受け取った。
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