かけられたのはDom/Subの魔法でした。

市瀬雪

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【番外編】ひとめぼれではありません(side:ラファエル)

ひとめぼれではありません03

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 ***


「僕のいうこと、聞いてもらいますよ」

 グラスすら取り落として割ってしまった。眼差しもとろんとして焦点も合っていない。ほどなくしてすっかり酔い潰れ、天板に突っ伏してしまったギルベルトに、ラファエルは努めて優しく声をかける。

「約束ですからね」
「まだ負けてねぇ……」
「どの口が言うんです。もう立てもしないくせに」
「立てるわっ……」

 宥めるように背中を撫でると、触るなとばかりに腕を振り上げられた。そのまま椅子を降りようとしたギルベルトは、けれどもスツールの高さを考慮していなかったのか見事に床へと崩れ落ちる。

「ああ、ほら……」

 ラファエルは身を屈め、ギルベルトの腕を掴む。引き起こそうと力をこめるが、それもまた雑に振り解かれた。

「僕の部屋、すぐそこなんです。ベッドも貸しますから、少し休んで……」
「必要ねぇ」
「着替えも貸しますよ。叔父さんのは無理でも、僕の服なら……」
「は、それでいくら金とろうってんだ」
「え?」
「残念ながら、金なんて一銭たりとも持ってねぇぞ」
「別にそんなつもりじゃ……」

 ……というか、手持ちもないのに酒を飲みに?

 ラファエルは僅かに肩を竦め、床に座り込んだまま、ゆらゆらと頭を揺らすギルベルトを見ながら苦笑する。

「単なる親切心からですよ。僕は〝天使さま〟ですからね」
「信用ならねぇし……そもそも借りは作らねぇ」

 もうすでにいろいろ借りてると思いますけど。そもそも今夜飲んだお酒だってツケなわけですよね?
 思ったものの口には出さず、ラファエルは「そうですか」と柔らかく微笑むと、今にも寝落ちてしまいそうなギルベルトをそのまま抱き上げた。

「なにし……クソ、離せェ……」

 ギルベルトはなおも悪態をついた。だがそれ以上は暴れることもなく、どころか、次には降りてきた睡魔にやすやすと意識を明け渡し、完全に目を閉じていた。

「……思ったより軽いですね」

 身長差は五センチほどだろうか。立って並ぶと僅かに目線が下がっていたことを思い出す。体格的にはさほどの差はないが、どちらかと言うとギルベルトの方が肉付きも薄い。
 ラファエルはその身をそっと抱え直し、濡れた草を踏みしめ夜道を進む。雨はいつのまにか上がっていた。

 ラファエルの住まいはそこから五分ほど歩いた場所にあるログハウス風の一軒家だった。間取りは三畳ほどのロフトがついた1LDK。もともとは叔父が住んでいた家だが、結婚を機に新居に移ったため、空き家となったそこをそのままラファエルが借りていた。

「というか、これ……熱がありますね……」

 酒の影響もあるのだろうが、それにしても熱い気がする。密着する肌から伝わる体温は思いの外高く、無防備に晒された寝顔もどこか上気しているように見えた。

「さて……」

 部屋に入り、室内を見渡す。少しだけ逡巡した末、ギルベルトを抱えたまま寝室に向かった。
 最初は風呂に入らせるつもりだったのだ。眠っていようと適当に促して、せめてシャワーだけでも浴びさせようと思っていた。飲みくらべ勝負はラファエルに軍配が上がったのだし、文句は言わせない。そうすれば風邪をひくこともないだろうし、酔いも覚めるだろうと想定してのことだった。
 けれども、恐らくギルベルトはすでに体調を崩しかけている。それなら無理に風呂に入れるよりも、最低限でも身体を拭い、着替えさせて、温かな布団で休ませてやる方が良いだろう。
 ラファエルは溜息混じりにも頷き、ギルベルトの身体を自分のベッドに横たえた。

「んん……」

 ギルベルトの呼気が微かに揺れる。密着していた身体が離れたせいか、あるいは発熱のせいか、どこか寒いように身動ぐギルベルトは、それでも依然夢の中だった。
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