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【番外編】ひとめぼれではありません(side:ラファエル)
ひとめぼれではありません04
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「ほら、大人しく脱いでください」
声をかけても反応はない。反応はなくとも、かまわずラファエルは服を脱がしにかかる。湿ったシャツを捲り上げ、耳元で揺れるピアスにひっかけないよう気をつけながら頭を通す。
「あれ?」
そこでラファエルは瞬いた。
座っていた場所や、乱れた髪に隠れて気付かなかったが、よく見るとピアスは右側にしかついていなかった。確認すると左耳にも穴はあり、なのにどこにもそれらしきものはない。
もしかして自分の服にひっかかってしまったのだろうか。思うものの、今日のラファエルは比較的ラフな格好だ。白いドレスシャツに黒いパンツという、種族専用のものからすれば素材も形状もかなりシンプルな……。
「ないですね……」
それでも一通り探してから、ラファエルはギルベルトに視線を戻す。右耳を飾っているのはシルバーのフープピアスだ。それも改めて見るとディティールが甘く、余計な世話だとは思いながらも何となくあまり似合っていない――ような気がした。
「……何考えてるんですか、僕は」
ラファエルは肩から流れ落ちた白金髪を掻き上げ、苦笑混じりに呟いた。
それからは努めて無心で残りの服を脱がし、温めたタオルで身体を拭いてやった。普段自分が使っている布団の上に更に上掛けを一枚足して、傍らのサイドテーブルには水差しとグラス、念のための濡れタオルも用意しておいた。
***
二時間ほど経った頃だ。
熱が上がったのか、ギルベルトは魘されるような声を漏らしながら布団を撥ね除けた。寝室とリビングの間にドアはない。リビングのソファで眠っていたラファエルは、その声と気配に目を覚ます。
「……悪化しましたかね」
緩慢に瞬き起き上がる。長い髪を肩の後ろに流しながら立ち上がると、ソファの背もたれにかけていた丈の長いカーディガンを羽織り、再び寝室へと足を向けた。
「は……、ぁ……」
ギルベルトはなおも眠ったままだった。それでも明らかに息は上がっているし、額にも汗が浮かんでいる。その額にそっと触れ、次いで首筋に触れた。
「だから言ったんですよ……」
ラファエルは傍らに用意していた濡れタオルを軽く絞り、ギルベルトの額にのせる。床に落ちていた布団を引っ張り上げた。
「う……」
それをかけ直そうとしたところで、ギルベルトがまた呻く。寝苦しさに眉根を寄せて、喉を喘がせる。堪えかねたように身体を横向ければ、額のタオルが滑り落ちて――。
「……!」
その瞬間、ばさりとその背に羽が現れる。
天使の服を着せていたため、特殊な素材でできた布地はそれを透過させる。圧迫されることなく広げられた羽は、髪に似た色の蝙蝠のような形状のものだった。
「この羽は……」
まず浮かんだのは悪魔だった。関連で吸血鬼、後は擬人化できる獣人系……。
「悪魔……ではなさそうですね」
さすがに悪魔だとしたら、ラファエルだって何かしら感じるはずだ。
天使にとって悪魔は今でも因縁の種族とされ、昔ほどではないにしろ、特に保守派――ラファエルの一族もそれに当たる――にとってそれは変わらない事実とされている。
ラファエル自身はそういった思想に興味はなかったが、実際妙にざわつく感覚を覚えた相手が、実は悪魔だったという経験はある。そういう意味では、やはり相容れない存在と言えるのかもしれない。
しかし、ギルベルトに対してはそれがない。不可抗力とは言え羽まで見せてしまったギルベルトに、それでも特に何かを抱くことはなかった。
「吸血鬼……にしては血を寄越せとも言われませんでしたし……。後は……」
ラファエルはシーツの上へと落ちていたタオルを拾い上げる。けれどもギルベルトは横を向いたままで、すぐに額に戻すことはできそうになかった。
仕方なくラファエルはギルベルトの首筋をタオルで拭う。本当は再度身体も拭いてやりたかったが、ギルベルトがぎゅっと身を丸くしているため無理強いはしないことにした。
「……子供みたいな人ですね」
発熱のせいか幾分しんどそうではあるものの、寝顔もなんだかあどけない。目元にかかる前髪が擽ったそうなのもなんだか微笑ましい。ラファエルは軽くそれを払うと、うっすら汗の浮く額をタオルで押さえた。
「ん……」
「……!」
刹那、ギルベルトは身動ぎ、まるでそれ以上触られたくないように寝返りを打った。くるりと背を向けられ、思わずラファエルは瞠目する。今度こそ布団をかけ直そうと、伸ばしかけていた手も止まってしまった。
「……そう、なんですか」
思わず視線が釘付けになる。その先でゆらりと揺れるものがある。
長めの寝衣の裾から、覗いていたのは先がハート型になった黒い尻尾だった。意図的に消されていたものが、羽と同様に出てしまったらしい。
「なるほど……」
ラファエルは確信した。
相変わらず直感は働かない。けれども、この尻尾を見れば自ずと知れる。
もともと混血が多い時代だとはいえ、こうまで本能が働かない理由はわからないが、少なくとも答えの方はわかってしまった。
目の前の男は、間違いなく悪魔だった。
声をかけても反応はない。反応はなくとも、かまわずラファエルは服を脱がしにかかる。湿ったシャツを捲り上げ、耳元で揺れるピアスにひっかけないよう気をつけながら頭を通す。
「あれ?」
そこでラファエルは瞬いた。
座っていた場所や、乱れた髪に隠れて気付かなかったが、よく見るとピアスは右側にしかついていなかった。確認すると左耳にも穴はあり、なのにどこにもそれらしきものはない。
もしかして自分の服にひっかかってしまったのだろうか。思うものの、今日のラファエルは比較的ラフな格好だ。白いドレスシャツに黒いパンツという、種族専用のものからすれば素材も形状もかなりシンプルな……。
「ないですね……」
それでも一通り探してから、ラファエルはギルベルトに視線を戻す。右耳を飾っているのはシルバーのフープピアスだ。それも改めて見るとディティールが甘く、余計な世話だとは思いながらも何となくあまり似合っていない――ような気がした。
「……何考えてるんですか、僕は」
ラファエルは肩から流れ落ちた白金髪を掻き上げ、苦笑混じりに呟いた。
それからは努めて無心で残りの服を脱がし、温めたタオルで身体を拭いてやった。普段自分が使っている布団の上に更に上掛けを一枚足して、傍らのサイドテーブルには水差しとグラス、念のための濡れタオルも用意しておいた。
***
二時間ほど経った頃だ。
熱が上がったのか、ギルベルトは魘されるような声を漏らしながら布団を撥ね除けた。寝室とリビングの間にドアはない。リビングのソファで眠っていたラファエルは、その声と気配に目を覚ます。
「……悪化しましたかね」
緩慢に瞬き起き上がる。長い髪を肩の後ろに流しながら立ち上がると、ソファの背もたれにかけていた丈の長いカーディガンを羽織り、再び寝室へと足を向けた。
「は……、ぁ……」
ギルベルトはなおも眠ったままだった。それでも明らかに息は上がっているし、額にも汗が浮かんでいる。その額にそっと触れ、次いで首筋に触れた。
「だから言ったんですよ……」
ラファエルは傍らに用意していた濡れタオルを軽く絞り、ギルベルトの額にのせる。床に落ちていた布団を引っ張り上げた。
「う……」
それをかけ直そうとしたところで、ギルベルトがまた呻く。寝苦しさに眉根を寄せて、喉を喘がせる。堪えかねたように身体を横向ければ、額のタオルが滑り落ちて――。
「……!」
その瞬間、ばさりとその背に羽が現れる。
天使の服を着せていたため、特殊な素材でできた布地はそれを透過させる。圧迫されることなく広げられた羽は、髪に似た色の蝙蝠のような形状のものだった。
「この羽は……」
まず浮かんだのは悪魔だった。関連で吸血鬼、後は擬人化できる獣人系……。
「悪魔……ではなさそうですね」
さすがに悪魔だとしたら、ラファエルだって何かしら感じるはずだ。
天使にとって悪魔は今でも因縁の種族とされ、昔ほどではないにしろ、特に保守派――ラファエルの一族もそれに当たる――にとってそれは変わらない事実とされている。
ラファエル自身はそういった思想に興味はなかったが、実際妙にざわつく感覚を覚えた相手が、実は悪魔だったという経験はある。そういう意味では、やはり相容れない存在と言えるのかもしれない。
しかし、ギルベルトに対してはそれがない。不可抗力とは言え羽まで見せてしまったギルベルトに、それでも特に何かを抱くことはなかった。
「吸血鬼……にしては血を寄越せとも言われませんでしたし……。後は……」
ラファエルはシーツの上へと落ちていたタオルを拾い上げる。けれどもギルベルトは横を向いたままで、すぐに額に戻すことはできそうになかった。
仕方なくラファエルはギルベルトの首筋をタオルで拭う。本当は再度身体も拭いてやりたかったが、ギルベルトがぎゅっと身を丸くしているため無理強いはしないことにした。
「……子供みたいな人ですね」
発熱のせいか幾分しんどそうではあるものの、寝顔もなんだかあどけない。目元にかかる前髪が擽ったそうなのもなんだか微笑ましい。ラファエルは軽くそれを払うと、うっすら汗の浮く額をタオルで押さえた。
「ん……」
「……!」
刹那、ギルベルトは身動ぎ、まるでそれ以上触られたくないように寝返りを打った。くるりと背を向けられ、思わずラファエルは瞠目する。今度こそ布団をかけ直そうと、伸ばしかけていた手も止まってしまった。
「……そう、なんですか」
思わず視線が釘付けになる。その先でゆらりと揺れるものがある。
長めの寝衣の裾から、覗いていたのは先がハート型になった黒い尻尾だった。意図的に消されていたものが、羽と同様に出てしまったらしい。
「なるほど……」
ラファエルは確信した。
相変わらず直感は働かない。けれども、この尻尾を見れば自ずと知れる。
もともと混血が多い時代だとはいえ、こうまで本能が働かない理由はわからないが、少なくとも答えの方はわかってしまった。
目の前の男は、間違いなく悪魔だった。
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