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第39話 トゥレス領二層
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「やはり、残ってはいただけないですか?」
翌日になり、オンセ領のリョカンを出て買い物を済ませた俺たちはドセ領へと戻った。
他の十二貴族が治める領と違い居心地がよく、ついつい長居をしてしまったのだがそろそろ次の領へと向かおうと考え、俺はドグさんに出発することを告げた。
「すみません、俺たちにはやらなければいけないことがあるので」
シーラとも話あったのだが、俺たちがバベルに住むことを決めるにせよ一度外の世界に戻りたい。
このまま流されるようにバベルに定住するのではなく、外に出る方法を探した上で選択したいのだ。
「いえ、我々はピートさんとシーラさんに散々手伝っていただきましたからな。十分なもてなしをできず申し訳ない気分です」
「その感謝の気持ちだけで十分ですから」
ドグさんの言葉にシーラが答えた。
「それで、次はどちらの領に向かわれるのですか?」
俺はあらかじめ聞いていた予定を思い出す。
「えーと、確か……トゥレス領ですね」
「あそこですか……」
俺が領の名を言った瞬間、ドグさんの表情が強張った。
「もし、何か揉めるようなことがあったら私の名を出してください。決して争わないように」
「ええまあ、こっちも揉めるつもりはありませんが……」
何やらきな臭さを感じるのだが……。
「それじゃあ、お世話になりました」
迎えの馬車が来たので、俺とシーラはドセ領をあとにした。
「本当に素敵な場所だったわね」
馬車に乗り込むなりシーラが話し掛けてくる。
「そうだな、争いとは無縁で住人は穏やか。食材が新鮮だから料理も美味くオンセンでのんびりできた」
生まれてからここまで落ち着けたのは初めてかもしれない。
「キモノが完成しなかったのは残念だけどさ」
いろんな柄の布があり、気に入ったのを選ぶのに随分時間を掛けたシーラだったが、そこからキモノを作るのには一ヶ月かかるらしかった。
完成したら届けてもらえることにはなっているが、随分と執心のようだ。
「次で最後なのよね?」
俺たちに用があり呼び出している十二貴族も残すところ一人となった。
これまで巡ってきたのは商売に利用する者だったり、欲望を利用する者だったり、喜びを糧とする者だった。
このバベルという閉鎖された国でそれぞれのやり方で生きている。
大賢者の神器が手元にある以上、どこでも上手いことやれる自信はあるがそれと同時に胸の奥から「これは違う」と何かが警鐘をならしていた。
恐らく、俺は再び誰かの下に付くことで理不尽な目にあうことを恐れているのだろう。
あの時は抗う術もなく、味方だと思っていた冒険者に汲み敷かれた。今はシーラもいる。あの時のような目に合うのはごめんだ。
俺はシーラだけは守ると改めて誓うのだった。
間に一日泊り、俺とシーラはトゥレス領の二層へと来ていた。
「ん?」
「どうしたのピート?」
「いや、なんか懐かしい感じがして……」
馬車の外をみると武器を携帯した人間や杖を持つ人間がチラホラ見受けられる。
金属を打ち付ける音や獣の皮や血の臭い、外の世界で見慣れた光景が広がっていた。
「結構賑わってるわね、ここは何を得意としている領なのかしら?」
基本的に他の領地の情報を十二貴族や役人が俺たちに伝えることはない。悪い点を吹き込んで自分の領地に来るように誘導したりすることがあったかららしい。
なので、ここが何をしているのかについてはイマイチ把握できていないのだが……。
「こちらが案内先になります」
馬車が停まったのは大きな建物の前だった。
木造でドアが大きく天井が高い。最後に外で見たときは最悪の気分だったからか、自然と警戒心が浮かぶ。
「ねぇ、これって……」
シーラも戸惑いを覚えたのか建物を見ると俺と目を合わせた。
「ああ……まるで冒険者ギルドみたいだな」
最後に俺たちが訪れたのは、外の世界で苦い記憶を植え付けてくれた冒険者ギルドによく似た場所だった。
役人と別れて建物へと入る。ドアを開ける音に反応して何人かが振り返る。
冒険者ギルド内の場所でいうと酒場フロアのテーブルに荒くれた男たちが四人いるのだが、全員が怪我をしていて何やら怯えた様子に見える。
冒険者稼業は舐められると負けなので、通常知らない人間が訪れると一発かまそうと絡んでくるのがお約束。
ましてやこちらはシーラという誰の目にも明らかな美少女を連れている、ウルフの群れに肉を持って突っ込んだのに襲い掛かられない気持ちの悪さを覚えた。
ひとまず何事も怒らなそうなので俺が受付カウンターへ向かうと、シーラは俺のローブを掴んでついてきた。
「えっと、外の世界から来たんだが……」
周囲がざわつく。さきほどの男たちはますます恐怖を増幅しており震え出しているし、他のメンバーも視線を合わせず、ただし聞き耳を立ててこちらの様子を伺っている。
「少々お待ちください……、はい確かにお聞きしています。それではこの設備の説明をさせていただいてよろしいでしょうか?」
「……お願いします」
俺とシーラはここが何なのか知るため、受付の話を聞くのだった。
翌日になり、オンセ領のリョカンを出て買い物を済ませた俺たちはドセ領へと戻った。
他の十二貴族が治める領と違い居心地がよく、ついつい長居をしてしまったのだがそろそろ次の領へと向かおうと考え、俺はドグさんに出発することを告げた。
「すみません、俺たちにはやらなければいけないことがあるので」
シーラとも話あったのだが、俺たちがバベルに住むことを決めるにせよ一度外の世界に戻りたい。
このまま流されるようにバベルに定住するのではなく、外に出る方法を探した上で選択したいのだ。
「いえ、我々はピートさんとシーラさんに散々手伝っていただきましたからな。十分なもてなしをできず申し訳ない気分です」
「その感謝の気持ちだけで十分ですから」
ドグさんの言葉にシーラが答えた。
「それで、次はどちらの領に向かわれるのですか?」
俺はあらかじめ聞いていた予定を思い出す。
「えーと、確か……トゥレス領ですね」
「あそこですか……」
俺が領の名を言った瞬間、ドグさんの表情が強張った。
「もし、何か揉めるようなことがあったら私の名を出してください。決して争わないように」
「ええまあ、こっちも揉めるつもりはありませんが……」
何やらきな臭さを感じるのだが……。
「それじゃあ、お世話になりました」
迎えの馬車が来たので、俺とシーラはドセ領をあとにした。
「本当に素敵な場所だったわね」
馬車に乗り込むなりシーラが話し掛けてくる。
「そうだな、争いとは無縁で住人は穏やか。食材が新鮮だから料理も美味くオンセンでのんびりできた」
生まれてからここまで落ち着けたのは初めてかもしれない。
「キモノが完成しなかったのは残念だけどさ」
いろんな柄の布があり、気に入ったのを選ぶのに随分時間を掛けたシーラだったが、そこからキモノを作るのには一ヶ月かかるらしかった。
完成したら届けてもらえることにはなっているが、随分と執心のようだ。
「次で最後なのよね?」
俺たちに用があり呼び出している十二貴族も残すところ一人となった。
これまで巡ってきたのは商売に利用する者だったり、欲望を利用する者だったり、喜びを糧とする者だった。
このバベルという閉鎖された国でそれぞれのやり方で生きている。
大賢者の神器が手元にある以上、どこでも上手いことやれる自信はあるがそれと同時に胸の奥から「これは違う」と何かが警鐘をならしていた。
恐らく、俺は再び誰かの下に付くことで理不尽な目にあうことを恐れているのだろう。
あの時は抗う術もなく、味方だと思っていた冒険者に汲み敷かれた。今はシーラもいる。あの時のような目に合うのはごめんだ。
俺はシーラだけは守ると改めて誓うのだった。
間に一日泊り、俺とシーラはトゥレス領の二層へと来ていた。
「ん?」
「どうしたのピート?」
「いや、なんか懐かしい感じがして……」
馬車の外をみると武器を携帯した人間や杖を持つ人間がチラホラ見受けられる。
金属を打ち付ける音や獣の皮や血の臭い、外の世界で見慣れた光景が広がっていた。
「結構賑わってるわね、ここは何を得意としている領なのかしら?」
基本的に他の領地の情報を十二貴族や役人が俺たちに伝えることはない。悪い点を吹き込んで自分の領地に来るように誘導したりすることがあったかららしい。
なので、ここが何をしているのかについてはイマイチ把握できていないのだが……。
「こちらが案内先になります」
馬車が停まったのは大きな建物の前だった。
木造でドアが大きく天井が高い。最後に外で見たときは最悪の気分だったからか、自然と警戒心が浮かぶ。
「ねぇ、これって……」
シーラも戸惑いを覚えたのか建物を見ると俺と目を合わせた。
「ああ……まるで冒険者ギルドみたいだな」
最後に俺たちが訪れたのは、外の世界で苦い記憶を植え付けてくれた冒険者ギルドによく似た場所だった。
役人と別れて建物へと入る。ドアを開ける音に反応して何人かが振り返る。
冒険者ギルド内の場所でいうと酒場フロアのテーブルに荒くれた男たちが四人いるのだが、全員が怪我をしていて何やら怯えた様子に見える。
冒険者稼業は舐められると負けなので、通常知らない人間が訪れると一発かまそうと絡んでくるのがお約束。
ましてやこちらはシーラという誰の目にも明らかな美少女を連れている、ウルフの群れに肉を持って突っ込んだのに襲い掛かられない気持ちの悪さを覚えた。
ひとまず何事も怒らなそうなので俺が受付カウンターへ向かうと、シーラは俺のローブを掴んでついてきた。
「えっと、外の世界から来たんだが……」
周囲がざわつく。さきほどの男たちはますます恐怖を増幅しており震え出しているし、他のメンバーも視線を合わせず、ただし聞き耳を立ててこちらの様子を伺っている。
「少々お待ちください……、はい確かにお聞きしています。それではこの設備の説明をさせていただいてよろしいでしょうか?」
「……お願いします」
俺とシーラはここが何なのか知るため、受付の話を聞くのだった。
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