町で噂のあの人は

秋赤音

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変わらない日々と新たな出会い

1.謎の男、尾行される

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ある晴れた日のこと。

「剛様の噂を集めてみました!」
「本当にするつもり?」
「最初で最後にするから、お願い!」
「…どこから、行けばいいの」
「ありがとー!ええと、ねー」

そうして若い二人の女性がまず向かったのは、市場。
一般客もいるが、お店の方も仕入れにきている様子。
溢れるような人だかりと楽しそうな賑わい。

「目撃したっていうけど…このどこに」
「あ、いた」

買い物をしながら探していると、
目当ての人らしき人物をを見つける。
黒いサングラスは彼の象徴とされている。

「…はい。この住所でお願いします」
「ねえ、あっち、行ってるけど」
「うん。あ、はい。では、明後日に配達お願いしますー」

買ったものは配達を依頼して、捜査に戻る女性。
人の波に紛れながら背中を追い、市場を出ると
見える程度に距離をとる。

そして、男は大通りを一本外れた小道にあるお店に入っていった。

「こんなところが、あるんだね」
「知らなかった」
「飲み屋が多いから当然かも。
来たらダメって、お母さん言ってた」
「そういえば、うちも同じ」

辺りを見渡すと、その時を待つように並ぶ『準備中』のお店の案内。

「少し様子を見よう」
「そうだね」

そうして待つこと一時間以上。
空が茜色が混じり始めた頃、男が入った店の灯りがついた。
そして、ドアが開き、服装が違う黒い眼鏡の男が現れた。
その手により『準備中』が『営業中』に変わる。

「あれ、違う人?眼鏡だし」
「…ねえ」
「何?サングラスではないけど、どう思う?って…」
「お腹すいた」

そう言うと同時に二つ、小さく聞こえた、
お腹からの空腹サイン。

「私も」
「せっかくだから、行ってみよう?」
「空腹には勝てないわー」

ドアの近くまでくると、横にあるお品書きを見つける。
頼むものを決めて、ゆっくりとドアを開けた。
店内が見えると同時に鼻腔をくすぐる、
和食の煮物を思い出すような優しい香り。

「こんばんは」
「いらっしゃいませ。二名様ですか?」

シンプルな内装と、
しっかりした木で作られている机と椅子たち。

「はい」
「では、こちらの席へどうぞ」

案内されたのは、厨房は見えるが、少し離れた四人掛けの席。

「ご注文がお決まりになりましたら、お声かけください」
「「はい」」

置かれた水を一口飲み、渡されたメニューを見る。
入り口にはない料理がたくさん書いてある。

「決めた」
「私も」
「すいませんー」

呼ぶと短い返事があり、すぐに男はきた。
今の店内にいるお客は女性たちのみで、貸し切り同然の状態である。

「ご注文伺います」
「レモンサワーと、ポテトサラダをお願いします」
「ジンジャーエールと、唐揚げをお願いします」
「はい。以上でよろしいですか?」
「はい」
「レモンサワーとポテトサラダ。
ジンジャーエールと唐揚げですね。少々お待ちください」

そういうと、厨房へ戻っていく男。
少しすると、先に飲み物が運ばれる。
男が厨房に戻ると、鶏が油で揚がる音が聞こえ始める。

「ねえ、これ…」
「な…あ、これかも?」

メニューをみている女性に、
壁にあるお品書きを見ていた女性が声をかけた。

「『出張料理いたします。できたての温かさを、お届けします』?」

サービスの趣旨とお店の名前や連絡先、
そして、黒いサングラスの絵の張り紙。

「それもだけど、絵がね?」
「これで断定するの?」
「判断材料にはなるね。それよりー」

そう言って、女性は、手元にあるメニューを相手の女性に見せる。
油独特の甘い香りと音が食欲を刺激するようようで、
女性たちは次に頼むものを楽しそうに決めていた。

眼鏡の男は、料理人だった。

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