町で噂のあの人は

変わらない日々と新たな出会い

2.謎の男、談笑する

それは、雲が薄くかかり、しっとりした青空のある日。

「今度、仞とこの野菜、少しいいか。
輝、野菜はそれしか食わねえから」
「剛の肉と交換ならな」
「当然だ」

ジャケットをかっこよく着こなす男二人が、
八百屋の前で話をしている。
すると、学校に向かう子供たちが、
にぎやかに道を歩きながら目の前を通過する。

「ごうさんだー」
「じんさんだー」
「おはようございます」
「「おはようございます」」

「輝さん、いいの？帰ったら、宿題か手伝いばっかで。
好きな男の子とデートしててもおかしくない」
「気になって言ったことはあるが、今は興味がないらしい」
「噂をすれば？そこにいるよ」

少し遠くに、友人と合流して登校する輝と呼ばれる女性がいた。

「来春兄さ…あ、秋人さん！おはようございます。
今朝も美味しい野菜、ありがとうございます」
「いえ。美味しいって食べてもらえるのが一番嬉しいよ。
これからも、しっかり食べてね」
「はい！いってきます」

その女性は、友人を一瞥して何か言った後、
秋人と呼ばれた野菜売り場の男へ駆け寄った。
そして、追い付いてきた友人と一緒に学校へ向かう。

「そういえば、煌は？」
「煌は先に行って運動場で遊んでいるはずだ」
「元気だね」

男は、輝が歩いて向かった方向を見ながら、嬉しそうにそう言った。

「元気が一番だよ、な！」
「兄さん。泰河も」
「いつも美味しい肉、ごちそうになってます」
「ありがとう」
「泰河。ありがとうございます、だろう」

秋人より雰囲気が落ち着いている男性と、無邪気さが漂う男性が現れる。

「光さん、泰河さん。
こちらこそ、いつも美味しい野菜、ありがとうございます」
「いえ。…って、泰河。そろそろ学校行けよ」
「はい、行ってきますー」
「「「いってらっしゃいー」」」

和やかに見送る姿を、八百屋の店主は易しく見守っていた。