町で噂のあの人は

秋赤音

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変わらない日々と新たな出会い

3.謎の男、釣りをする

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「来春ー」
「凪人、どうした」
「釣りに行こう?親父が船貸してくれてさ。
昴にいと白澄にいもいる」

作刃、と書かれた表札のある家の庭。
雨の気配はない曇り空の下、
紺色の眼鏡をかけた爽やかな笑顔の男は、友人を海へ誘う。

「それ、すでに俺もいる前提だろ…今日の夕飯は魚だな」
「まあねー。やったあ!さすが来春。先に行って待ってるー」

すぐさま駆けだした凪人は、あっという間に見えなくなった。



「大漁だった!」
「いつも乗せていただいて、すみません。
ありがとうございます」

食べる分だけとった魚を眺めながら機嫌のいい凪人の隣で、
男は頭を下げていた。

「いいのよー。凪人、楽しそうだし。
主人も、息子が増えたみたいで、むしろ喜んでいるから」
「お母さん、誘っているのは僕だよー」
「そうですねー。よかったら、お夕飯食べていく?
ご両親は了承しているから。煌くんと輝ちゃんも、ぜひ」

にこにこと笑いながらも、すでに外堀を埋めて話をする凪人の母親。

「…でしたら、お言葉に甘えて。いつも、すみません」
「いいのー。
うち、男の子しかいないから、輝ちゃんとお話しするのが楽しみなの」


その日は、二つの家族が一緒に食事をすることになった。
とても楽しく賑やかだった。

「輝ちゃん。これ、この間、美味しいって言ってたから」
「いいの?」
「いいのよー。煌くんは、これ」
「「ありがと、おばちゃん」」

笑顔で受け渡しする三人と、気まずそうな剛。

「…いつも、すみません。ありがとうございます」
「いえー。多めに入ってるから、ご両親と召し上がって?」
「はい。ありがとうございます」

黒刀家の見送りを背に、家路へ。
家に入ると、剛の両親は日本酒を飲みながらくつろいでいた。

「あ、おかえり」
「…潮さんの魚だろう。早くいただこう」
「あなたが早く食べたいだけでしょう」

口はそう言う母親も、目線はお土産にくぎ付けになっている。
手渡された袋ごと渡すと、二人は浮かべている笑みを深くした。

「「いただきます」」

お酒はあまり飲まない剛。
一合は確実に飲み終わっている二人のテーブルへ水を置いた後、
明日のためにも風呂に入って寝る準備を始めた。

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