幸せという呪縛

秋赤音

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秘めた心

1.透明な世界

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楽しかったはずの放課後は、
学校生活の中で一番苦手になった。

「会えない許婚より、楽しい時間をお約束します。
今度、我が家で夕食いかがでしょう?」

「申し訳ありません。
そういったお話は亜樹十へお願いします。
私は決める権利をもちません」

「これは秘密の誘いです。
年ごろの一夜、少しだけ目を閉じてもらいましょう」

クラスメイトの男性が、
下の心を裏に隠さない顔をしている。
目障りな姿を遮るように、見慣れた背中が現れる。

「ごめんけど、食事の時間は、全て僕と約束がある。
それに、万が一があっては困るからね。
許婚がいるって、わかっているでしょ」

「長男だからってなにさ「亜樹十くんー!」

突然、高い声が駆け足でやってくる。
その背の隣から、目を潤ませて懸命に名前を呼んでいる。

「亜樹十くん、なんでも上手だよねー。
今度、私の家で料理、教えてよー」

「学校の授業中なら、いいよ」

「それもいいけど…私、二人きりで教わりたいなー?」

優しい時間はあっという間に過ぎ、私と亜樹十は高等学生になった。
和馬とは、連絡はとっているが会わない日々が続く。
その方が良いと思い始めている。
年ごろの精神に、生殺し状態は辛すぎる。
好きな人が目の前で無防備な姿を見せてくれる嬉しさの反面、
触れられそうなほど近くにいる心境が、
何となくわかる。
いつの間にか決められていた許婚は、好きな人。
その人の目は、ずっと、意外な人を追っていた。
私の隣で、
私の隣にいるクラスメイト相手に無色のガラスみたいな目で笑う、
見た目はよく似ている同い年の兄。

小学校へ通うより前、兄の絵の才能を見込んだ両親。
一度だけ、仕事へ同行させたことがある。
出発前は好奇心で目を輝かせて扉をくぐった亜樹十は、
感情が褪せて、何も反射しない透明な目で様子で帰ってきた。
二人だけのときに話を聞き、
初めて、両親が堂々と仕事先で別の異性と濃密な関係であることを知る。
祖母に聞くと、それを許した結婚だったと教えてくれた。
私たちは、間違いなく両親の子供だとも言われた。
そういう約束で、きちんと守られたと。
子供の気持ちまで考えていなかったと謝った祖父母。
仕事優先でほぼ家にいない両親の穴を埋めるように、気にかけてくれた。
小等学の卒業式に来てくれたときは、両親がいなくても、
とても嬉しかった。
中等学校の入学写真は、亜樹十と二人で墓前に見せに行った。

「亜樹十、そろそろ約束の時間」

「うん。ごめんね。急いでいるから」

色の強い声をその場に置いて、足早く去り、二人だけになる。

「亜紀羅、いつもありがとう。
和馬や公祐がしてたようにできればいいんだけど…」

「お互い様。ああいう人、苦手だから」

祖母が亡くなると、開き直った両親は遠慮が亡くなった。
身内の前で堂々と違う香りを纏う。
親族のみだけの会食で、たまに帰った屋敷の中で、私たちの前で。
色香の強い人は、それを思い出させる。

「まあ…わかる。帰ろう」

「うん」

今日も終わる。
二人だけの場所に帰れば、穏やかでいられる。
亜樹十の瞳に光が戻る優しい時間へ、帰ろう。

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