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秘めた心
5.穏やかな日々のために
しおりを挟むどうして、こうなっているのでしょう。
確かに夏木野さんと亜樹十は仲が良いです。
ですが、まさかです。
影でひっそりと、
我が家で確認されていない事柄が広まっているとは思いませんでした。
「この本は、なんですか?」
「愛の結晶です」
二人の女生徒と、空き教室で机をはさんで向かい合う。
女生徒が真顔で言いながら手にしている本には、
よく知る二人の男性が肌を重ねている絵が描いてある。
個人の趣味を否定はしない。
しかし、次期当主候補としては見逃せないことだった。
「書いたものは全て、処分してください。
後日、そちらに使いを出すので全て渡してくださいね。
新たに作成することも、やめてください。
個人の趣味を否定はしませんが、
冬椿家と関係者をモデルにするのはやめてください。
事実ではないことが書かれると、誤解を生む可能性があります。
迷惑です」
「なぜですか!
あの仲睦まじい美しいお姿、残さずにはいられません!」
「そうです!生きる芸術です!」
熱心に語る姿には微笑ましい何かがあるかもしれないが、
その情熱は迷惑にならない場所で出してほしい。
これが亜樹十の目に入らないうちに処分しないと、
治療の邪魔になるかもしれない。
最近、長年の積み重ねが一つ実った。
健康維持のための排泄行為が嫌悪感なく行えるようになったのは、
成果として大きい。
恋愛や結婚は、
”人間と深く関わる魅力がある”と思えるようになってからだ。
一度固まった意識を変えるのは、とても難しい。
ちょっとしたことで、また戻ってしまうかもしれない。
「個人の思想は否定しません。
そのお考えは、頭の中だけでお願いします。
お時間いただき、ありがとうございました。
では、失礼します」
礼をして立ち上がり、出口に向けて歩き出す。
「この人形!人の気持ちが分からないくせに」
「何言って…だめだよ」
「うるさい!愛を持たないガラスみたいな人に、
私の愛を否定されたくない!」
がたっと椅子が動く音と大きな声。
背中の向こうから聞こえるそれに答えることはない。
扉に手をかけ、素早く出て、隙間がないように閉める。
後日、無事に対象は回収した。
しかし、恐れていたことは起きてしまった。
ある日の放課後、いつもより少し遅れて合流すると、
青い顔色の亜樹十が怯えながら周囲をみながら待っていた。
急いで駆けよると、早く帰るよう掴まれた手が促していた。
「亜紀羅…学校、怖い」
夕食もほとんど食べられず、
入浴しても指先が冷たいままの亜樹十。
二人だけの部屋に入り、
内側から鍵を閉めると小さな声が耳に届いた。
「なにがあったの?」
亜樹十の隣に座ると、
身を縮めたままの亜樹十が私の指先に手を伸ばし、
冷たい指先が触れた。
「初対面の、男子生徒が声をかけてきて。
近くにあった空き教室に連れ込まれそうになった。
なんとか振り払って逃げたけど、怖かった…」
「何を言われたの?」
「男が好きなら、相手してやるって…。
顔が同じだから亜紀羅の代わりになるって…。
誰が好きとか言ったこと、ない、のに。
近くにいた女子生徒は、楽しそうに見てたし…」
震えた声は、だんだんと小さくなる。
耳を澄まさないと聞こえない気がするくらい、小さな声だった。
「その男子生徒と女子生徒の名前、わかる?」
「うん。わかるけど…」
「悪いことをした人には、それ相応にしましょうね」
びくっと跳ねた指先が私の手から離れると、
ずっと俯いていた顔が私を見る。
「亜紀羅…ごめん」
「いいのよ。これは、冬椿に関わることだもの」
その後、両親に電話で報告すると、処分は速やかに行われた。
体裁が何より大切な両親に期待した通りだった。
彼女らが”私物”を学び舎に持ち込まなければ、
こうはならなかったかもしれない。
原則、"私物"の持ち込みは禁止されている。
紙や机など、勉強に必要な道具は支給されている。
勉学に使う目的なら、"私物"を道具申請すればいい。
許可がでれば"私物"は"道具"になる。
確認した結果、あれは"私物"だったので
校則違反として処分された。
一人きり。
月明かりが照らす部屋に、着信を知らせる音が鳴る。
「亜紀羅、夜遅くにごめんね。
声が聞きたくなって」
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