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秘めた心
6.その声は、甘い悪魔のように
しおりを挟む聞きたかった声が偶然でも近くにある。
それだけで、痛む心が和らぐ気がした。
「和馬」
「なに?」
ゆっくりと、穏やかな声が聞こえる。
ふいに、長年聞いてみたかったことを聞きたくなった。
「どうして、私たちを見間違えたことがないの?」
私たちは、生後間もない頃から交流が始まっていた。
物心つくときには、当たり前のように傍にいた。
両親すら間違う私たちを、和馬と祖父母だけは
一度も間違えたことがない。
後に、夏木野さんも間違えたことがない人の一人となる。
「亜紀羅、間違うわけないだろう。
俺からすれば、間違う人たちが不思議だ。
亜紀羅は亜紀羅だし、亜樹十は亜樹十。
全然違う仕草や表情を見て、どうやって間違えと…」
あの日から変わらず、
真剣に伝えてくれる声に泣きそうになった。
私を私だと見てくれる…亜樹十と和馬だけは。
大切にしたいと思う理由になるには十分で、
和馬と時間を過ごすうち親愛は恋に変わっていた。
叶うなら、このまま傍にいたいと願うようになってしまった。
「そうなのね。ありがとう」
「当然だ。何かあったか?」
「いいえ。なにも」
「そう…か。忘れないでほしい。
俺は、亜紀羅だから許婚でいる。
卒業したら婚約することも、亜紀羅だから望んだ」
おそらく、何かあると分かっていても触れずにいてくれる。
甘く大きな愛情が、私を柔らかく包む。
「ねえ…私は、愛を持たないガラスらしい。
本当に、私でいいの?」
「亜紀羅がいい。
ガラスと言ったその人は、亜紀羅が興味のある人間か?
ないなら、情がなくて当然だ」
隙間なく答えられたのは、同じこと。
そして、あっさりと気にしていたことが消えていく。
「興味はないけど、害となるなら排除するだけ」
「俺は?」
「和馬は、大切」
とっさに言ったが、
思ったままを口にしたことが恥ずかしくなった。
しかし、もう遅い。
「そう。いつも名前を呼んで、大切だと言って、
他愛ないことを話してくれる。
感情をぶつけてくれる。
その全てが、俺にとっては愛情だ。
俺は、亜紀羅の愛情だけがほしい。
亜紀羅の大切な全てを守りたい」
嬉しそうな明るい声が返ってくる。
語られる言葉には戸惑うが、やはり嬉しい。
「和馬…ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう。
未来を歩む相手に俺を選んでくれた。
大切にする。幸せにしたい。
亜紀羅も、亜紀羅が大切にする亜樹十も」
「一緒に、幸せになるの…って、今日は寝る!
おやすみなさい」
そろそろ頭が沸騰しそうになってきた。
幸せ過ぎて、耐え切れない。
「うん。おやすみ」
甘く深い声が私を惑わす。
電話が切れた後も、火照る頬はしばらく熱いままだった。
和馬の想いに触れるたび、感情が動き、落ちていく。
深く、深く、底なしの沼。
這い上がろうとする足を、
自身の恋情と劣情が枷となり身動きが取れなくなっていく。
私は、亜樹十を守りたい。
和馬の全てが、ほしい。
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