幸せという呪縛

秋赤音

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秘めた心

7.婚約前夜

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冬椿から招かれた夕食を終え、家へ帰るための廊下を歩く。
隣に亜紀羅、後ろに亜樹十がいる。
もうじき空一面に星が瞬く夕暮れの中、
橙色の灯りに照らされている中庭が見えると、
亜紀羅がそちらへ視線を向けた。

「ここ、子供の頃に三人でよく遊んだよね。
亜樹十が咲いてる花を摘んで、和馬が冠にしてくれた」

「そんなこともあったね」

「和馬、昔から器用だったよな。まだできる?」

「当然だ」

「だったら…」

亜樹十が、偶然近くにあった花をゆっくりと摘む。
そして、持ち手を長くとってある見慣れた数輪の花を俺に差し出した。

「今、作って?」

三人だけの中庭で、あの日と同じように作っている。
幼い頃より小さく見える長椅子で静かに見ているのは、
俺の左右にいる亜樹十と亜紀羅。

「…上手くなっただろう?」

「綺麗…」

「可愛い!」

亜樹十と亜紀羅は、できたばかりの花冠を夢中で見ている。
種類の違う花を途中で渡されたので、組む難易度は少し上がったが
あの日より華やかにできた冠。

「亜樹十の花選びも上手くなっているから、できたんだ」

「うん。二人だからできたのよ。
ねえ、亜樹十。つけて?」

亜紀羅は、あの日と同じように亜樹十を見る。
立ち上がって俺から冠を預かり、亜紀羅の頭にそっと乗せるのだろう。
しかし、違った。
亜樹十は一瞬だけ亜紀羅と目を合わせた後、射抜くような目で俺を見た。

「亜紀羅、これをつけるのは、もう僕ではないよ」

「え?」

亜紀羅は戸惑う表情で、亜樹十の視線の先にいる俺を見る。

「和馬、確認したい。
死ぬまで愛する人は亜紀羅だけって約束、僕にできるか」

強く、震えのない声が、俺に問う。
亜樹十の握られている拳は震えていて、
まっすぐ向けられている瞳は不安と期待の混じり揺れている。

「約束する。亜樹十と亜紀羅に誓う。
俺が死ぬまで愛するのは、亜紀羅だけだ。
亜紀羅が安心して生きていられる場所であり続ける」

触れれば火傷しそうだと錯覚するような瞳に浮かぶ熱さは、
亜樹十の心そのものだと思った。
当然だろう。
両親の堂々とした浮気をみながら育ってきたのだから。
婚約すれば、よほどのことがない限りは夫婦となる。
だから、今しかない。
亜樹十が安心できるための約束をするときは、今だけ。

「約束、だからな」

「和馬…私も、誓う。
私は死ぬまで和馬だけを愛すること。
そして、亜樹十を変わらず大切にする」

亜紀羅の言葉に、亜樹十の表情から鋭さが消え、
戸惑いが浮かんだ。

「あき、ら…?」

「同感だ。
結婚しても、今までと変わらないことはある。
亜樹十は、俺にとって大切な友人であり、家族にもなる。
むしろ、ますます過保護になるかもしれない」

「…はい?」

完全に呆然としている亜樹十を横目に、
亜紀羅は真顔で深くうなずいている。

「それもいいかもしれない。
亜樹十は、ますます色んな人から目をつけられるから」

「向く方向が同じでよかった。
では、新たな誓いと同盟を祝して」

「うん。和馬、これからもよろしくね」

「こちらこそ、よろしく頼む」

約束の証を亜紀羅の頭上にそっとのせ、
瞳に浮かべた涙を指先ですくう。
驚いたように目を丸くした後、花が綻ぶようにふわりと笑った。

「亜樹十」

穏やかな声で亜紀羅に名前を呼ばれた亜樹十は、
身構えて固まっている。
そっと長椅子から立ち上がる亜紀羅は、
ゆっくりと大きな二歩で亜樹十の前に立つ。
目線を同じにして、戸惑ったままの亜樹十の目をしっかりと捕らえ、
握られたままの拳に優しく触れた。

「だから、私から離れていこうとしないで…ね?
亜樹十がいないと、寂しい」

「亜紀羅…わかった。
僕、亜紀羅に寂しい思いはさせたくない」

迷いが晴れた笑顔で向かい合う二人。
亜樹十に触れていた亜紀羅の手の上に、亜樹十の手が重なる。

「ありがとう」

「僕こそ、ありがとう」

「うん」

二人が人でいられる時間を、この優しい世界を守りたい、と。
改めて強く思った。
もう純粋な気持ちばかりではないけれど、
俺の、亜紀羅の、亜樹十の色々な感情すべてを抱えて歩いて生きたい。

星空の下での誓いは数十分の時間の出来事だったが、
俺たちにとっては、大切な数十分だった。

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