幸せという呪縛

秋赤音

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旅立ち

2.新しい世界には、

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「かい!」

「る、い」

部屋の扉を勢いよく開ける。
いつもなら音に気をつけるが、今は気にかける余裕がない。
目に入ったのは、
ベッドの上で上半身だけを起こしている解と、
泣きはらした顔で解の手を握っている商。
思わず大きな声が出たらしい。
驚いた表情の解が、ただたどしく名前を呼んだ。

その目は空虚だが、生きている。
それだけで、今は、十分だ。

母さんの合図で向かった先には、
ベッドの上に眠っている解がいた。
かかっていたであろう布団は、乱暴にめくれている。
その首は輪になっている紐がある。
頭より高い位置にあるベッドの飾り縁には、
その紐の先端がくくりつけてあり、途中でちぎれている。
人間の重みに耐えられなかったのかもしれない。
でも、だから、よかった。
脈はある。
寝息も規則的で眠っているだけなことを確認する。
その紐は、昔に交換したままの物だった。
当時、偶然できた急用で借りた後、
壊れたお詫びに同じような見た目の品を渡した。
同じなのは見た目だけで、強度は弱い物を。
借りたのは、
ちょうど人の首が通りそうなところにある印のついた強い紐だった。
嫌な予感がしていた。
それを、一度止めたことがあるのだから。
当時に考えた万が一は、時を経て起こってしまった。

「解。乗さんは、もう二度と関わらないと約束してくれた」

「かあさん、しょう、まもる」

「もう、大丈夫だ」

解にしっかりと見えるように、誓いが書かれた紙を見せる。

「やくそく」

「そうだ。約束した」

それを読み、つぶやくように言葉を復唱する解は、
少しだけ力んでいる肩を緩めた。
瞳にはわずかに光が戻る。

「よか、た」

安堵したように微笑み、再び眠った。
倒れてくる体を支え、ゆっくりとベッドへ寝かせる。

「累」

静かに瞳から涙をこぼしている商は、
すがるように抱きついてくる。
それを、できるだけ、そっと包むように小さな背へ腕を回す。

「うん?」

「ありがとう」

商は、腕の中で小さく喉を震わせながら、涙声でそう言った。






「しょうー。ご飯できたー」

「はいー」

幸い無事に回復した解は、学校を卒業した後、料理の道を選んだ。
時が経ち、今では、ちょっとだけ有名な腕の良い料理人だ。
休日は、家族のためにと、積さんと楽しそうに台所へ立っている。
できあがっている料理を運ぶために来ると、
解はますます楽しそうに笑った。

「累。項くん、何が食べられるようになった?」

私たちは子宝に恵まれ、長男を授かった。
項は健康にのびやかに育っている。

「年齢相応、かな。
なんでも食べようとするから、ある意味困っている」

「好き嫌いがないのは、将来で楽だよね」

「まあ、な」

何気ない話をしながら、
できたての料理を商たちの待つところへ二人で運ぶ。

「累」

「なんだ」

一瞬だけ戸惑うような様子の後、晴れやかな笑みを浮かべた解。

「あのさ」

「うん?」

「ありがとう」

その表情に、かつて抱えていた重い憂いはない。
もし辛いことがあっても、二度と一人にはなれないけれど。

「当然だろう。
商を幸せにするには、解も必要だからな。
皆さん、おまたせですー」

あとは料理がくるだけのテーブルに運んできたものをそっとのせ、
ついに場が完成する。

「お父さん。おなかすいたー」

「項。いただきます、してからね」

「はいー」

商は、母親の顔をして項と楽しそうに話をしている。
皆がそろい、席につく。
今日は、解と項の誕生日会だ。
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