幸せという呪縛

秋赤音

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旅立ち

1.解放

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朝、元妻の居場所を聞き出すために、息子の部屋の扉を開ける。
そこには、不自然に眠っている息子が転がっていた。
恐ろしくなって、すぐに家を出た。
そこから先は、覚えがない。
気づけば、友人の加歩の家の客間にいた。
カーテンは閉じられていて、窓の向こうは見えない。
一台の車が止まる音がした。

「乗。もう、家に戻っても大丈夫よ」

加歩の冷たい声と共に、屋敷を追い出させた。
言われた通りに戻ってみると、
本当に大丈夫だった。
何事もなかったように、元通り。
息子もいなかったが、もう、どうでもよかった。
離婚して、親権は母親になっているので、
ほぼ縁も切れていたものだ。

「これで、いい」

そうだ。養う人間がいなくなった。
ということは、自分の稼ぎを自分のためだけに使えるのだ。
何をしていても、誰も、何も、言わない。
養育費も払わずにいられるかもしれない。
やっと、幸せが訪れたのだ。
なぜ、意地になってあれを妻に娶ったのだろか。
なぜ、子供を作ってしまったのだろうか。
確かに、あれの作る飯だけは、まあまあだった。
ただ、それだけだった。
ほどんどが、無駄だった。

「これでいい。これで…あ」

ふと、昨日から重い腕が痛んだ。
久しぶりに、思い切り振るったからだろう。
忘れていた運動不足を自覚した。

「今度、運動マシンを置こうかな」

誰もいない空間に返事はない。





「母さん。解は」

別館へ行きたいのを我慢している累。
その表情は、すがるような気持ちで命の無事を祈っていた。

解くんが、家を出た後戻らないので探していた。
すると、青い顔をしている乗が門を必死にたたいていた。
周囲を確認しながら客間へ運ぶと、
早口で自分の危機を語り、倒れてしまった。
おかげで、解くんの居場所が分かり、連れ戻すことができた。
一命はとりとめたが、油断はできない。

「大丈夫よ。
累が助けた命だもの。死なせはしない」

子供の頃に、一度だけ、解くんと商ちゃんを保護したことがある。
積に頼まれた。
自ら命を絶とうとしたのを、
偶然通りがかった累が窓越しに見つけた翌日だった。
原因は、年上の女性から強姦されそうになったことだと言っていた。
商ちゃんも危うい状況だと言っていた。
落ち着くまでは家から離したいと言う積は、
泣きそうな顔で協力を頼み、子供たちを預けて帰った。
再び現れた積は、憂いの残る表情で、子供たちと帰っていく。
それからは、累がよく勉強会と称して家へ二人を呼んでいた。
暗い表情が多い二人が、ゆっくりとだが、
明るく前向きに生きる姿は自分の子供のように嬉しかった。
累と商ちゃんが結婚したいと言う申し出は、
すぐに許可をした。

「加歩。別館から連絡だよ。
解くんが、目を覚ました」

夫が連絡内容を話すと、私が返事をする前に、
累は別館へ駆けて行った。

「よかった」

「そうだね」

夫は、そう言いながら私の頬をそっと撫でた。
私は泣いてしまった、らしい。
ゆっくりとぼやけてくる視界に見えるのは、
夫の優しい表情だけだった。
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