幸せという呪縛

秋赤音

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風の旅

1.大地の願い

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ついに、この日がやってきた。ずっと、待っていた。
あの日から、辛抱に辛抱を重ねて、ここまできた。
あと少し。あと、少しで、叶う。

窓から見送るフィリスの背に、かつての自分を思い出す。

「シーファ。イーシアさんは、いつ戻るの?」

「そろそろ、って聞いてるけど…」

穏やかな暮らしを守りながら夫の帰りを待つ炎の聖霊から祝福と加護を授かっている友人。
救済は順調との知らせばかりだから、
再び会える日はおそらく近い。
そろそろ帰ろうと思ったが、慌ただしい足音が聞こえてきた。

「大変です。隣国の王が…イーシアさんを拘束しました」

「そんな…どうして」

「要約すると、"従う国を変えろ"と褒美という形で国内へ留まらせています。
王は、イーシアさんの傍に身分の高い女性を置いているそうです」

想定外の出来事にシーファは顔を青くする。
それでも気丈に足を大地へつけている。
万が一にも既成事実を作られると、平民の友人は立場が弱い。
事態は、とても恐ろしいことになっている。

「王は確か…まだ未婚よね?」

「そうですね。え、まさか…」

「どんな色を好むか、確かめてこようかしら」

私は、計画を思いつく。
成功するかは分からないが、自分のためにやり遂げたい。
愛する者を傷つけた者は、王であっても許さない。

数ヵ月後。
私は、フライア国王妃の椅子に座ってる。
お腹には、新しい命が宿っている。
連れてきた密偵に友人の様子を調べさせ、
イーシアさんと穏やかに暮らしていると聞いて安堵する。

「お前は武術も魔法も強いから、全てを任せよう。
教育係りはつけない。しっかりした後継者に育てほしい」

「お任せください」

王は、言葉通りに生まれた子供を育てた。
誰かに奪われることを恐れた王は、子供と会えるのは私だけにした。
成長の報告義務はないので、報告したことはない。
そして、元気に育ち13歳になる。
魔法の使い方は覚えても、練習を除けば使うことはない。
風の聖霊から祝福と加護を授かっているおかげか、
他の聖霊も友好的で世話をしてくれている。

魔力調査を目前に控えた雨上がりの日。
隣国からきたお客様を迎えるために呼ばれた。
王同士が子供を連れてが話をする間、従者の一人を預かることになった。
従者とフィリスが庭の木陰で一緒に遊んでいると、その従者が持っていた物が光る。
そして、一人の少年が現れた。
さらに、その少年とフィリスは惹かれ合うように近づく。
手が触れた瞬間、大地に突風が吹き抜けた。
濡れた葉から離れた水が光で煌めき、青い空の下に幻想的な世界が広がる。
たった一瞬の出来事は夢のようで、しかし驚く三人が現実だと教えている。

「これは、伝承の…?」

「初めて見ましたが。
はい…二人は、運命の伴侶かもしれません。
魔力の相性も良さそうなので一緒にいてほしいですが。
このままだと、あの王に国の次世代を作る母体として交配に使われるでしょうね」

聖霊の祝福を受けながら見つめ合う二人を眺めながら従者は言った。
このまま、でなければ…どうだろう。

「フィリスの記憶と魔力を封じることはできますか?
解除もできるなら、ですが。
従者なら、そのような術を知っていると聞きますが」

「できます、が…まさか」

従者は、驚いた表情を浮かべる。当然だろう。
魔力が無い者は、生きていく術が限られる世界で、魔力を封じると言うのだから。

「はい。十五歳になったらフィリスを迎えてください。
機会は作ります。
この国に、この子の幸せがあるとは思えません」

「わかりました。
王や妃、王子にも相談してからになりますが…おそらく承認されます。
"聖霊が祝福している者に何かあれば、暮らしができなくなる"伝承を我が国は信じて守っていますから」

従者は、ニヤリと悪戯を考えるような笑みを浮かべる。

「お願いします。
この子には、明るく温かい場所で幸せになってほしいんです」

「はい。お任せください。
精霊の祝福…あれはもはや加護でしょうから、丁重にお迎えできるよう相談します」

従者は、少年に声をかけ少し離れたところへ行く。
耳元で何かを話している。
すると、少年は嬉しそうに微笑んだ。
そして、こちらへ戻ってくると、
じっと少年を見続けているフェリスの手をとり、甲へ口づけた。

「俺はスレイヴです。必ず、迎えにくるから。あなたの名前は?」

「私はフィリスです。ずっと、スレイヴさんがくるのを待ってる」

二人は手を繋ぎ、額を合わせて小さく笑っていた。
それが合図となり、フィリスの魔力と記憶は消えた。
魔力を失った反動で気を失ったフィリスを抱き支えるスレイヴさんは、私に何かを差し出す。
形が同じ二つの小さな装飾品だ。
私は、それを受け取らず、お願いをすることにした。

「スレイヴさんが、つけてください。
フェリスの道しるべになるように」

「はい」

スレイヴさんは、切ない表情を浮かべながらそれを耳につけた。
装飾品をつけることは珍しくなく、魔法の練習をして作ったと言えば、
聞かれてもなんとかなるだろう。

「フィリスさん。必ず、また会おうね」

スレイヴさんはそう呟いて、姿を消した。
おそらく、彼は水の聖霊から祝福と加護を受けている。
従者は唇に指をあて、私を見た。
ここで見聞きしたことは、今は二人の…そして、関係者だけの秘密だ。
私はうなずき応える。

気を失っていたフィリスは、従者の合図で目を覚ます。
もう一度、挨拶から始めた二人は元気に庭を駆け回る。
時間になると、王たちが庭に来る。
王子も加わり、賑やかな声がする庭を王たちは眺めている。

「子供は元気が一番ですね」

「そうですね」

二人の王は、穏やかに笑っていた。



空の明かりは眠る夜。
ガラス越しに炎が照らす部屋に、二人はいた。

「王。報告があります」

「風は水と惹き合いましたか?」

「はい。少女の名はフィリス。今は魔力と記憶を封じています。
解除は、私かスレイヴしかできません。
十五歳になったら、機会を作ると王妃は言いました。
王妃は、子供の幸せを願っています」

王は沈黙する。
そして、わずかな間のあと、ゆっくりと口を開く。

「では、こちらも用意を始めよう。
"息子の妻探し"なら、あれも食いつきそうですね。
魔力無しの娘の使い道を必死に考えると思いますから。
あとは、大地を戻す方法ですね…」

「炎と光が、道を照らすかもしれません」

唸る王に、従者は言葉を紡ぐ。

「ああ…そうですね。
案外と、勝手に事が進むかもしれません」

二人は窓の向こうを見る。暗闇の先を見据える瞳に星が瞬く煌めきを宿しながら。
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