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始まらない御伽噺
10.新しい始まり
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祝福の鐘が鳴っている。
老いた夫婦や家族、
友人たちに見守られながら愛を誓うのは一組の若い男女。
祝いの言葉をもらいながら、
帰路へ向かう人たちを見送っている。
「紗羅。幸せになりなさい」
「おばあちゃん、今も幸せだよ」
老夫婦は微笑んで通りすぎた。
「天然な紗羅の相手ができる人は貴重だからな。
大切にしろよ」
「当たり前!和樹お兄ちゃんこそ、奥さんを大切にね」
「当たり前だ。俺の最愛だからな」
女性を連れた若い男性は、
隣にいる女性の肩を抱きながら過ぎていく。
「お父さん。お母さん」
「その、支え合う心を持ち続けてください。
俺の娘ならできますね?」
「当たり前です。むしろ、親を越えて見せます」
「楽しみにしてます」
男性に寄り添うように立つ女性は、静かに笑みを浮かべている。
男性は女性の手をひき、歩みを進めた。
誰もいない駐車場。
帰るために呼んでいた車へ乗ろうとすると、
老夫婦が男女へ近づく。
「お疲れ様でした。姫羅、和真さん。
卒業してすぐに結婚するとは思わなかったけど、幸せそうでなによりです。
これからは、
ひ孫を楽しみに自分たちの時間を穏やかに過ごしてくださいね。
若い時に生んで育てたから、まだまだ時間も体力もあるんです。
これからも、二人で仲良く、幸せになりなさい」
老女は、静かな笑みを絶やさない女性を見て言った。
「ありがとうございます」
「姫羅。今、幸せですか?」
老人は静かな声で女性に問うが、
答える間を与えないように老女が老人の腕をひく。
「恋して愛する人と共にいるのだから、幸せに決まっています!
さ、私たちも帰りましょ」
老人は言葉を出さずに微笑む女性を見た後、
腕をひく老女に視線を戻した。
男女は、離れていくその背を見送ると車へ乗る。
誰一人言葉を紡ぐことなく車は家へ着く。
すると、男性は女性の手をひいて玄関を通る。
「和真。お疲れ様でした」
「姫羅も、お疲れ様でした」
男性は長椅子へ座ると、女性を横抱きにして膝の上にのせる。
女性は男性へ甘えるように腕を首へ回して、男性の胸へもたれた。
「今は家です。二人だけですから」
「そうでした」
女性は回した腕を膝の上にのせて、力なくため息をつく。
「和真」
「なんですか?」
「"恋愛"を、しました。
"愛する人と結婚"を、しました。
"愛する人の、子供を生んで、慈しみ、育て"ました…。
これからは、"仲の良い親夫婦"を演じなければいけないのですね」
「そのようですね」
「和真。恋とは、なんですか?
私は知らなければいけません。
子育てが落ち着いたので、
あの人が求めるものが高くなる可能性もあります」
女性の問いに、男性は微笑む。
「自分が恋だと想えば、それは恋だと。
俺は、思います」
「自分が想う…和真は、知っているのですね?」
「知っています。
姫羅は、どうしても、恋が知りたいんですか?
男性は、はっきりと確信ある声で女性へ告げた。
「知りたいです。和真、教えてください」
「自分で気づかないと、意味がないですよ。
愛しい妻が新しいことに挑むなら、夫として手伝います。
俺と一緒に見つけませんか?
姫羅だけの恋を」
「私だけの恋…愛する和真となら、見つけられる気がします」
「きっと、見つかります。
"愛する人"を決められた姫羅なら、必ず。
姫羅。この先も、俺と共に時間を歩んでくれますか?」
男性は女性の手をとり、まっすぐに見つめる。
女性は、その視線の先にある瞳をとらえた。
「和真と共に時間を歩みたいです。
もし、恋をするなら、和真がいいです」
「姫羅…俺も、姫羅が恋をするなら俺だと嬉しいです」
「…どうして、ですか?」
男性は女性の手の甲にそっと口づけ、甘く、柔らかく微笑む。
女性は、頬を染めて息をのみ驚いた。
「どうして…かは、考えてください。
とりあえず。まずは、ただいま…ですね。
俺が帰るのは、いつだって姫羅の傍だと。
覚えておいてください」
「は、はい!…和真、おかえりなさい」
微笑む女性は、男性の手を握る。
「とりあえず、脱がせてもいいですか?
お風呂へ連れてからですが」
「お風呂は分かります。
お先にどうぞ。
あと、自分で歩けます。
自分で脱げます」
男性は女性の手を簡単に解いて、包み返す。
「まあ、そう言わず。
今日は、親卒業記念と言うことで、
結婚初夜…初心に戻りませんか?
久しぶりに思いきり抱きたい気分です」
「初夜って…十八の、成人したばかりの体力と今を考えてください。
あんなの…無理です…っ、ぁ…っ」
男性は女性の唇を塞いだ。
深く重なる口づけから解放された女性は、
力が抜けた体で浅い呼吸をしながら男性を見ている。
「大丈夫です。
そこは年相応にゆっくりと、時間をかけて愛でます」
「…優しく、してください」
「優しく、します。
姫羅、好きですよ」
女性が男性の首へ腕を回すと、
柔らかに微笑む男性はそのまま抱き上げ、浴室へ向かった。
老いた夫婦や家族、
友人たちに見守られながら愛を誓うのは一組の若い男女。
祝いの言葉をもらいながら、
帰路へ向かう人たちを見送っている。
「紗羅。幸せになりなさい」
「おばあちゃん、今も幸せだよ」
老夫婦は微笑んで通りすぎた。
「天然な紗羅の相手ができる人は貴重だからな。
大切にしろよ」
「当たり前!和樹お兄ちゃんこそ、奥さんを大切にね」
「当たり前だ。俺の最愛だからな」
女性を連れた若い男性は、
隣にいる女性の肩を抱きながら過ぎていく。
「お父さん。お母さん」
「その、支え合う心を持ち続けてください。
俺の娘ならできますね?」
「当たり前です。むしろ、親を越えて見せます」
「楽しみにしてます」
男性に寄り添うように立つ女性は、静かに笑みを浮かべている。
男性は女性の手をひき、歩みを進めた。
誰もいない駐車場。
帰るために呼んでいた車へ乗ろうとすると、
老夫婦が男女へ近づく。
「お疲れ様でした。姫羅、和真さん。
卒業してすぐに結婚するとは思わなかったけど、幸せそうでなによりです。
これからは、
ひ孫を楽しみに自分たちの時間を穏やかに過ごしてくださいね。
若い時に生んで育てたから、まだまだ時間も体力もあるんです。
これからも、二人で仲良く、幸せになりなさい」
老女は、静かな笑みを絶やさない女性を見て言った。
「ありがとうございます」
「姫羅。今、幸せですか?」
老人は静かな声で女性に問うが、
答える間を与えないように老女が老人の腕をひく。
「恋して愛する人と共にいるのだから、幸せに決まっています!
さ、私たちも帰りましょ」
老人は言葉を出さずに微笑む女性を見た後、
腕をひく老女に視線を戻した。
男女は、離れていくその背を見送ると車へ乗る。
誰一人言葉を紡ぐことなく車は家へ着く。
すると、男性は女性の手をひいて玄関を通る。
「和真。お疲れ様でした」
「姫羅も、お疲れ様でした」
男性は長椅子へ座ると、女性を横抱きにして膝の上にのせる。
女性は男性へ甘えるように腕を首へ回して、男性の胸へもたれた。
「今は家です。二人だけですから」
「そうでした」
女性は回した腕を膝の上にのせて、力なくため息をつく。
「和真」
「なんですか?」
「"恋愛"を、しました。
"愛する人と結婚"を、しました。
"愛する人の、子供を生んで、慈しみ、育て"ました…。
これからは、"仲の良い親夫婦"を演じなければいけないのですね」
「そのようですね」
「和真。恋とは、なんですか?
私は知らなければいけません。
子育てが落ち着いたので、
あの人が求めるものが高くなる可能性もあります」
女性の問いに、男性は微笑む。
「自分が恋だと想えば、それは恋だと。
俺は、思います」
「自分が想う…和真は、知っているのですね?」
「知っています。
姫羅は、どうしても、恋が知りたいんですか?
男性は、はっきりと確信ある声で女性へ告げた。
「知りたいです。和真、教えてください」
「自分で気づかないと、意味がないですよ。
愛しい妻が新しいことに挑むなら、夫として手伝います。
俺と一緒に見つけませんか?
姫羅だけの恋を」
「私だけの恋…愛する和真となら、見つけられる気がします」
「きっと、見つかります。
"愛する人"を決められた姫羅なら、必ず。
姫羅。この先も、俺と共に時間を歩んでくれますか?」
男性は女性の手をとり、まっすぐに見つめる。
女性は、その視線の先にある瞳をとらえた。
「和真と共に時間を歩みたいです。
もし、恋をするなら、和真がいいです」
「姫羅…俺も、姫羅が恋をするなら俺だと嬉しいです」
「…どうして、ですか?」
男性は女性の手の甲にそっと口づけ、甘く、柔らかく微笑む。
女性は、頬を染めて息をのみ驚いた。
「どうして…かは、考えてください。
とりあえず。まずは、ただいま…ですね。
俺が帰るのは、いつだって姫羅の傍だと。
覚えておいてください」
「は、はい!…和真、おかえりなさい」
微笑む女性は、男性の手を握る。
「とりあえず、脱がせてもいいですか?
お風呂へ連れてからですが」
「お風呂は分かります。
お先にどうぞ。
あと、自分で歩けます。
自分で脱げます」
男性は女性の手を簡単に解いて、包み返す。
「まあ、そう言わず。
今日は、親卒業記念と言うことで、
結婚初夜…初心に戻りませんか?
久しぶりに思いきり抱きたい気分です」
「初夜って…十八の、成人したばかりの体力と今を考えてください。
あんなの…無理です…っ、ぁ…っ」
男性は女性の唇を塞いだ。
深く重なる口づけから解放された女性は、
力が抜けた体で浅い呼吸をしながら男性を見ている。
「大丈夫です。
そこは年相応にゆっくりと、時間をかけて愛でます」
「…優しく、してください」
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