幸せという呪縛

秋赤音

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自己中心 ― 閉ざした世界

3.幸せ契約

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俺たちは、性別らしさが体に現れるまで目の色でどちらかを見分けられていた。
姉様の遥香は、母親によく似た緑の瞳。
俺は、母親でも父親の色でもない青い瞳。
髪の色は同じ深緑で、似せようと思えば鏡写しのようになれたから。
両親は俺たちを見ると、苦い顔も笑顔になる。
でも、両親が目線を交わしたところを見たことがない。

「琴美。食事は?」

「できています」

母親は、宝石のような緑の目に父親を映すことは無かった。
綺麗に手入れされている茶の髪を愛でるのは、いつも父親の兄である桐ケ谷家のご主人の冬明様。
澄んだ青い目に母親を映すとき、母親はうっとりと目を細めて桐ケ谷 冬明様の深緑の髪を撫でていた。
父親の春人は、おそらく知らない母親の顔。
豊かな大地を閉じ込めたような茶の目は、何をみているのだろうか。
人々を癒す葉のような深緑の髪は綺麗に手入れされているが、
一度も母親に褒められたことがない。

「春斗。遥香を呼んできて」

「わかった」

部屋を出て歩きながら考えるのは、今日のご飯はなにか。
考えた通りになると楽しい密かに行う二人遊び。
待っていた姉様は、俺の顔を見ると微笑む。

「今日は、野菜のスープと肉の料理だわ」

一緒に食卓を見ると、だいたい姉様の考えは合っている。
姉様の意見に合わせるのではなく俺の考えで当てるのが楽しいんだ。
穏やかな毎日が続けばいい、と思っていた。


不義理の子供。
自分が両親の浮気を世間に知らせる生きる証になっている頃を自覚したのは、
7歳になって通い始めた学び舎だった。
大人になるために必要な勉強は楽しかった。
お金の仕組みや結婚と子供を育てる方法を知ると、
育ててくれている両親の大変さを知ることができた。

知って気づいてしまうと、知らなかった時には戻れないことも学んだ。、
きっかけは、参観日という親が授業を見学する行事だった。
何度目かの参観日で、父親が仕事で来れなくなった。
仕事が忙しいと家にいる時は少なかったが、ついに行事にも来れないくらい忙しいらしかった。
母親だけでくると思っていたが、当日の教室には母親の隣に父親のお兄様がいた。
あの日は、なぜか目の色が違った。
言葉遣いは同じでも声が少し違うだけ。
桐ケ谷家のご主人である冬明様は、
見た目だけなら父親と見間違うかもしれなかった。
帰って理由を母親に聞くと、嬉しそうに微笑んで答えてくれた。

「冬明が人の目を気遣って父親の代わりを願い出てくれたのよ。
皆ご両親がそろっているに、母親だけだと目立つだろうって」

父親がいない夕食が当たり前だと思っていたが、他の家では家族そろって食べると友人が言っていた。
知らない光景に憧れた。
たまに実現すると疲れるので慣れた形が一番落ち着くことも知っていた。

寝る準備をしていると、珍しく父親が帰ってきた。
すると、母親は俺をみて微笑む。

「春斗。遥香が呼んでいたわ」

「わかった」

別室にいる姉様のところへ行くため部屋を出る直前に聞こえた言葉。
できれば、耳を閉じたかった。

「これからは兄さんに頼めばいい。父親だろう」

「でも」

「姫香が寂しがっている。
尚人と七音も会いたいと言っている。
君は、子供から父親を奪うのか?
それでも母親か?
愛する人と結ばれた幸せを知った今なら、わかるだろう。
君の友人の綾は上手くやっている。
我が家は親の反対でできなかったが、
克樹は子供を学び舎に通わせないで世間から守っているようだ。
見た目なら目の色を変えれば非難される心配はない。
兄さんとは、どうせ鏡合わせだ」

声が遠くなるように速く歩いた。
走ると姉様に異変を気づかれてしまうと思ったから。
姉様が待つ部屋で俺を見た姉様は、微笑んで俺を抱きしめてくれた。

「大丈夫。私たちは、何があっても一緒だわ。
私たちは、双子。
世界で唯一の永遠を約束されているのだわ」

目を合わせるだけで心が通うのは姉様だけだった。
言わなくても言いたいことが伝わるのも姉様だけだった。
どんなときでも愛情をくれるのも姉様だけだと、幼い俺は姉様に助けを求めた。
姉様は願いを聞きいれて、思考がとけそうなくらい甘やかしてくれた。


大人の優しさが、子供の好奇心を刺激する始まりになった。
小さな声は噂となって大きくなった。
いわく、話し方と雰囲気が違う、らしかった。
ついに聞かれた「来栖谷 春斗と遥香のお父様はどっち?」の問い。
俺は、何を言えばいいか分からなかったから、とりあえず笑って言った。

「どっちって…お父様は、お父様だ」

遊び相手が有栖谷家の子供だけだった頃は何も考えていなかった。
同じ年の双子の秋生と晶斗は、お姉様の朱音と似てはいなかった。
でも、仲の良い姉弟だったから家族だと思った。
俺たちは互いの容姿に違和感を覚えたが、考えないようにした。
知りたくなかったのかもしれない。
でも、誤魔化すのも限界だったのだろう。
俺と姉は、不義理の子供。
想い合って結婚しても、結婚は想いが続く約束ではないことを自分の体で証明している。
でも、大丈夫。
俺と姉様は、何があっても永遠に一緒だ。
だって、双子の姉弟だから。


成人が近くなり、姉様と俺は大人と同じ背丈になった。
見ただけで男女の区別がつくくらい大人になっていた。
食事会に招かれると、必ず美しい姉様に集まる下心の視線を牽制していた。
すると、姉様は甘く微笑んで俺の頬に口づけをくれるのが普通だった。
他者は俺たちを好奇な目で見るが、どうでもよかった。

ある日、姉様は夕食の後で俺を呼んだ。
機嫌が良いらしい姉様は、女神のような至高の笑みを浮かべている。
長椅子に座るよう促され、座った。
すると、姉様は自然と当たり前のように俺の膝にのる。
俺も姉様の背を腕で支える。
姉様が俺によりかかると伝わってくるのは、自分の大人になった体。
淑女を支え守れるだけの血肉で、服を着ていても分かる体の柔らかさと豊かな胸の温かさを抱く。

「私たちを愛玩用に買いたいと言う大人がいるのだけれど」

問いかける姉様は、至高の笑みに艶を含ませ囁いた。

「俺、たち?」

「そう。私たち。春斗も一緒でないといけないの。
私たちが愛し合う様を閉じ込めて守りたいそうだわ。
家を、くれるの。
私たちだけの家で、皆と同じように暮らせばいいと。
家柄も身元も確認して、お母様たちも納得している。
春斗は、どうしたい?」

問題が解決しているなら、俺の答えは決まっていた。

「俺は、遥香と一緒にいたい」

「嬉しい。私も春斗と一緒にいたいのだわ。
私たちは、心から愛し合っている。
不義理も不相愛もないのに、どうして離れなければいけないの」

姉様の声は儚く震えて、瞳は涙で濡れていた。
初めてみるか弱い姿に衝撃が走った。
守りたい。
もう、守られてばかりの立場に甘えなくてもいんだ。
俺に守らせてくれるんだ。
これからは、俺だけの姉様になってくれるんだ。
やっと、姉様だけの俺になれるんだ。
高揚する感情を抑えながら、落ちそうになる雫を唇ですくった。

「そうだ。俺たちは愛し合っている。
誰も、俺たちを邪魔することはできない。
良い理解者が現れて幸いだ」

「そうだわ。本当に…春斗、愛しているわ」

「遥香、愛している。永遠に」

誓いをこめて甘く誘う唇を塞いだ。
舌を絡めて深く熱を伝えるとこぼれてくる微熱まじりの声。
瞼は閉じられることなく交わす視線に欲望を含み女の顔をする姉様は、
続きをねだって舌をからめてくる。
今夜はどんな風に愛し合おうか。
夜は長い。
二人の望みは、二人で決めればいい。
抱き寄せてさらに深く口づけを交わし、二人だけの時間に浸った。

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