幸せという呪縛

秋赤音

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自己中心 ― 閉ざした世界

5.幸せになるために

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桐ケ谷 七音は、兄たちに嫉妬していた。
里栖谷家から直々に声がかかったのだから。
私はどれだけ話しかけても相手にしてもらえない塔夜様と会ったのだ。
一つ年上で一番上の兄である夏樹は、青緑の目と茶髪。
里栖谷家の縁談を受けて家を出た。
一つ年上で二番目の兄である尚人と私は同じ父親だと母親は言ったが、似ているのは顔の造形だけ。
父親譲りの茶の目と、母親と同じ艶やかな黒の髪は、異性を魅了するものらしい。
兄たちは双子だけど、父親が違うせいかあまり似ていない。
尚人も夏樹と同じ時に縁談をもらったらしく、受け入れる報告を聞いてからは会っていない。
姉の七美は、別の母親から生まれたが一人だけ父親の血をもつ子供。
緑の目に冬明お父様と同じ深緑の髪。
私と同じ髪の色なのに、私は後継者に選ばれなかった。
そして、姉は安定した桐ケ谷家の跡継ぎという椅子をあっさりと手放し、縁を切って家を出た。
兄も姉もいなくなった家にいるのは私だけ。
私が家を守らなければいけない。
愛する人と幸せにならなければいけない。


「兄に関わるのは、やめた方が良いです」

妹の冬華様は、塔夜様に振られた後でたまに現れた。
きっと、お兄様をとられるのが寂しいのね。
私より一つ上の歳なのに、まだ兄から離れられないらしい。
双子の仲が良いのは知っているが、大人になったのだから程度を考えればいいと思う。

「私は塔夜様がいいのです。
嫉妬も過ぎれば、可愛いものではなくなりますよ。
塔夜様の妹様」

「…そうですね。
ご忠告、ありがとうございます」

愛想笑いは、悔しいが美しかった。
里栖谷家の者は皆美しい容姿をもっている。
立ち去ったのを確認し、自分の部屋へ戻った。

あれから、冬華様は現れなくなった。
安心して、今日も愛しの塔夜様に会いに行く。
男の本能を煽るような装いと仕草は、母親の背中を見て学んだ。
学び舎では、私を好きにならない人はいなかった。
男性も女性も私の体を求めてくれた。
大人であれば応えていたが、あの頃は子供だった。
きっと大丈夫。
私は魅力しかないのだから。

「塔夜様、私と過ごす時間を作ってください」

「…婿探しなら他を当たってください」

「嫌です。塔夜様でないと、私…好き、です。
初めて見たときから塔夜様しか見ていません」

儚く、健気に、可愛く、艶やかに。
声も、仕草も、視線も相手から良く見えるように。

「…なんでも、しますか?」

初めてだった。
塔夜様が私を見た。
避けるような相槌ではない、初めての答え。
これは、逃してはいけない。

「はい。なんでもします」

「わかりました。
あなたの身は自由にしていいと、ご両親の許可は得ています。
ついてきてください」

「はい」

塔夜様の背を追いかけていくと、立ち入り禁止とされている森に入った。
遠くに大きな屋敷が見えるが、目的地だとしたらまだ先のようだ。
会突いていると、だんだんと周囲が肌寒い空気に変わっていく。
そして、屋敷に入る。

「この先に風呂場があるから、身を清めて。
着替えも用意してあります」

背中しか見えないまま告げられた言葉に胸が躍った。
積極的な行動は、今までの行動が実を結んだのだ。
言葉は少ないが、だからこそ情熱を感じる。
丁寧に身を清めると、用意されていたドレスに袖を通す。
いつでも眠れるような可愛らしいナイトドレスは、私のために仕立てられたようにちょうどいい。

「おまたせしました」

「こちらです」

私を見るとすぐに視線を他へ向けた塔夜様。
きっと照れているのね。
意識してもらえている嬉しさに高揚する。
歩いていると、地下に降りる階段を歩き始めた。
何度も通り過ぎた客間らしい扉は無視されている。
部屋で過ごすのだと思っていたが、窓すらない場所へ誘う塔夜様は独占欲が強いのかもしれない。
背中を追って歩いていると、灯りが少なく冷たい暗い場所にある扉の前で足を止めた。

「今日からここがあなたの部屋です」

きっと素敵な調度品で彩られた二人で愛を育む部屋が待っている。
踊りだしそうな感情を抑えて、促された先に一歩踏み出す。
目の前には、考えた以上に美しい部屋があった。
立派な応接間だが、奥に別室があるような造りで家具が配置されてある。

「塔夜様。こんなに素敵なお部屋、嬉しいです」

「気に入ってもらえてよかった。
食事や身の回りのことは、あなた専属の従者に言えば整えてくれます。
ここで、少し待っていてください」

「はい」

移動する背を目で追うと、いくつかある扉の一つに品の良い所作で入っていった。
私のために従者を用意しているなんて。
まあ、当然よね。
私は塔夜様の妻になるのだから。
部屋から出てきた塔夜様は、白銀の目をした女性を連れていた。

「あとは、まかせます」

「はい。塔夜様」

従者と挨拶をした塔夜様は、部屋を出ていこうとする。
なぜだろう。
もしかすると、まだ仕事があるのかも、
だったら、私が手伝えば早く終わるはず。

「塔夜様。お仕事なら私も手伝い「あなたは、ここで役割に務めてください」

「やく、わり?」

「詳しいことは従者に聞いてください。
なんでもする、と言いましたね。
書類の手続きは、こちらで全て行います。
では、失礼します」

「塔夜様!「七音様。今日からお世話をする璃々と申します」

遠くなる背を追おうとすると、従者に止められた。

「私は里栖谷家の女主人になるの。夫の傍にいてもいいでしょう」

「いいえ。七音様は、こちらで与えられた仕事をしていただきます。
世間から隠された里栖谷の不義理な者たちを慰めてください。
ここから二度と出ることはできませんが、快適な暮らしは約束されます。
隣の屋敷では尚人様も同じ仕事に励んでいます。
慣れれば楽しい仕事ですから、安心してください。
では、夕刻になりましたら食事をお持ちします。
失礼します」

一方的に話をした従者は、足を止めることなく部屋を出ていった。
直後、いくつかあるうちの一つの扉があいた。
そして、男性が五人でてきた。
皆、髪色か瞳に白銀をもっている美形揃いだ。

「七音様…我らが女神様。
どうか、哀れな俺たちに愛を恵んでください」

男性たちは、薄ら笑いで近づいてきた。
逃げたいのに、怖さで身が震えて動けない。

「七音様…」

周囲を囲まれ、腰や胸に這わされる不快な腕や指の感触。
先に待つ展開は見えたが、抗う方法を知らない。

「ぃやああああああああああ」




同刻。

桐ケ谷 尚人は、窓もない地価の部屋で体に白銀を持つ美女に囲まれたいた。
左右に、正面に、背後に。
どこを見ても必ず尚人を見つめる熱く甘い視線を合う。
大きなベッドでは尚人の愛を待つ女性たちが、焦がれる視線を向けている。

「順番に」

「「はぁい」」

少し離れた場所にある長椅子から甘い声で応えれば、蕩けた笑みに変わる美女たち。

「尚人様ぁ…はい、あーん」

「君も。口を開けて?」

「ん…美味しいですわ」

「私も」

「私にも」

身を寄せ合う美女たちの頬を撫でた尚人は、優美に微笑む。

「順番、待てるよね?」

「ぁ…っ」

「はぃ…っ」

囁くように告げれば、頬を真っ赤に染めた美女たち。
交互に甘えるような所作で尚人に身を寄せ、ナイトドレス越しに肌を押しつけていた。


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