幸せという呪縛

秋赤音

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自己中心 ― 閉ざした世界

6.守られている暮らし

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里栖谷家が桐ケ谷家の子を管理を受けいれた後日。
通いなれた森から出た里栖谷 塔夜が向かったのは、自室。
扉を開けて入ると、待っていた氷の麗人に微笑む。

「すべて、片付きそうです。
冬華、少し待っていてください。
お茶を入れますから」

「はい。兄様」

里栖谷 冬華は柔らかな笑みで応えた。
お茶を運んできた塔夜は、里栖谷 冬華の隣に座る。
お菓子を指でつまみ、冬華の口元にさしだすと慣れたように食べる。
食べ終えた里栖谷 冬華は、甘えるように塔夜の膝に頭を預けた。

「しばらくは献上品に困りませんね。
詩季谷家の白銀愛好はいつまで続くか分かりませんが」

「そうですね。
彼らは良い具合に順応しています。
さすがは桐ケ谷家の子。
得手不得手の采配は合っていたようです。
不義理の番人がいるおかげで幸せな人もいるのだから、困ったものです」

甘やかすように深紺の髪をゆっくりと撫でる里栖谷 塔夜は、
心地よさそうにする里栖谷 冬華の様子に目を細めた。

「でしたら、今回はしばらく保ちそうですね。
大きな財と色欲に堕ちる不義理な者は、同じ思想の仲間といればいいのです。
正人様と愛華様は、いつ見学に?」

「一年後ですね。
体がもてば選べる数が増えているだろう、と言っていました」

「我らがご主人様が、楽しそうでなによりです」

里栖谷の兄妹は、詩季谷家と愛人契約を結んでいる。
里栖谷家は、不義理な者を管理する。
詩季谷家は、里栖谷の兄妹を忌み者になる道から遠ざけ守る約束。
白銀を愛する詩季谷家と我が子を守りたい里栖谷家の親同士が決めた契約は、
里栖谷の親は心を伝えることなく、子供に居場所を与えた。
旅立っても続いている。

「そうですね。
仕事さえすれば穏やかに暮らせるのだから、愛人契約は便利な仕組みです」

桐ケ谷 尚人は、詩季谷家の三女である愛華の夫となった。
愛人ばかりではなく夫を選ぶよう親に強いられた詩季谷 愛華だが、
幼い頃からの楽しみである人形遊びの延長のような愛人契約はやめられない。
年ごろの娘が愛人遊びばかりで家の体裁が気になり始めた父親は考えた。
「遊びはやめなくていいから、黙認あるいは許してくれる夫を選べ」と言った。
愛華にとって桐ケ谷 尚人の存在は時期も望みもちょうどいい相手だった。
桐ケ谷 尚人に出された条件は、「暮らしを守り、白銀を自分の自由に扱える」と詩季谷家の、愛華の願い。
暮らしに困らないだけのお金も与えてもらえる契約だった。
里栖谷 塔夜が仲介したそれを、嬉しそうに受け入れた。
甘い結婚生活を期待する桐ケ谷 尚人の考えは、ある意味で叶っている。
不義理で生まれ軟禁することで守っている里栖谷家の子供たちの愛人を立派に務めている。
尚人は、白銀を持つ女性を自由に甘やかし、甘やかされている。

桐ケ谷 七音にも、尚人と同じように役割を与えた。
世間では詩季谷 正人の愛人契約を結んだことになっている桐ケ谷 七音。
女の愛に飢える不義理の男児の慰め。
桐ケ谷家の娘は、独身を貫きながら不義理な子供に愛を注ぎ救っている。
暮らしのためのお金は里栖谷家の管理で、適切に使われている。
暮らしに必要な家具や生活用品、服飾まで。
お金は物資に変わり、慰め生活を支えている。

「一人でも幸せになれるといいですね。
私たちが今穏やかに暮らせるのは、全て母親の成果です。
子を育む力を失くしてくれたから、くだらないしがらみから外れることができた。
感謝しなければいけませんね」

「そうですね。
でなければ、今頃は誰かの愛玩人形になっていたと思います」

里栖谷 塔夜は、安堵したように笑みを浮かべる。
家の決まり事で、里栖谷家の男性は求められれば精を交わす。
女性は、愛玩用として結婚や愛人契約で売られる。
不義理の番人として、一人の人として傷を背負う未来を塔夜たちの母親は拒絶した。
結果、幼い子供から生殖能力を奪うように体を変えた。
すると、あっさりと跡取りからは外された。
夫が家の末席であることも幸いした。

種無しでもできる仕事を与えよう、と家から回ってきたのは見張り役。
白銀を愛でる管理人の詩季谷家と里栖谷家の利害が一致した結果だった。
契約した伴侶でない相手と子を成した場合は、同行をみて身を保護し、必要な処分を行う。
日常で起こる不義理は、見せしめを用意してもなくなることが無い。

「僕たちの暮らしは、まだしばらく穏やかでいられそうですね」

「そうですね」

里栖谷の兄妹は、互いを見つめ微笑む。


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