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自己中心 ― 守られた自由
1.ちょうどいい距離
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学校は楽しい。
勉強をしていればいいから。
学校は楽しい。
家族がいないから。
学校は楽しい。
会話ができる誰かがいるから。
お母さんがお父さんではない男の人と会っていたのをきっかけに、
お父さんと会えなくなった。
俺はお父さんと一緒にいたかったけど、お母さんから睨まれた。
「皆は、命がけで生んでくれたお母さんを選ぶのですよ」と言っていた。
俺は最後までお父さんの傍にいたいと願ったが、会えなくなった。
「新しいお父さん」になった人は、あまり俺と話をしたくないらしい。
挨拶をしても無視をして、俺が挨拶をしなかったら怒る。
「誰のおかげで暮らせているのか、わかっているのか」と叩かれる。
痛いのは嫌だから、失敗したら同じ事はしない。
家に帰ると、今日がいつなのか分からなくなる。
同じ事の繰り返しで感覚が鈍くなる。
まずは、挨拶。
「ただいま」
目の前を通り過ぎて出ていく両親は、互いを見つめ合い微笑んでいる。
いつもより綺麗な服を着ていた。
「どこに行くの」と聞いたら叩かれるから、聞かない。
手帳を見ると、今日は金曜日と書いてあった。
学校にいたときは覚えていたことだった。
月曜日の夜までは帰らない両親。
塵一つ無いように見える居間に、俺の居場所はない。
唯一許されている自室に入ると、袋が置いてあった。
確認して、三日分の食事があることに安心する。
両親は「虐待を疑われては困るから、仕方ない」と言いながら用意している俺のご飯。
自分で作ろうとしたが、台所は使わせてもらえない。
「汚すかもしれないから」と言われた。
しだいに、「仕事が忙しい」と言ってほとんど家に帰らなくなった両親。
小学校を卒業するころには、家の家事をするのが当たり前になっていた。
渡されたお金を考えて使って買い物をして、自分が食べるためのご飯を作る。
たまに両親g帰ってくると、床に埃を見つけて大きな声を出しながら道具を使って叩く。
とても痛かったから、隅の角までよく見て掃除をするようになっていた。
色んな汚れの綺麗な落とし方を長期休暇で出された実験課題にすると、
友達や先生たちは「良いことを聞いた」と明るい声で笑ってくれた。
楽しそうに笑っているのが、とても嬉しかった。
中学校の生活が残り半分になった頃。
久しぶりにおじいちゃんとおばあちゃんと会った。
二人は、「会いたくなってきた」と言った。
週末で両親がいない日だった。
いると思っていた両親がいないことに驚いた二人から。
どのように暮らしているのかを聞かれた。
話をすると、なぜか二人は怒り始めた。
怒る理由が分からないので、何を言えばいいのかも分からない。
急に寂しくなって、お父さんに会いたくなった。
でも、もう会えない。
二人はなぜか一緒に家の掃除をしてくれた。
埃が残っていても大きな声で怒られなかった。
どうすれば綺麗になるか、教えてくれた。
一緒にご飯を作ったし、一緒に食べた。
理由はわからないが、一人よりは早く終わったし、楽しかった。
「今日はここに泊る。一緒に寝よう」と言ってくれた。
俺の部屋では狭かったから、居間に布団を並べてひいた。
眠る直前まで楽しく過ごせたのは初めてだった。
明日もお休みの日。
昼までは一緒にいてくれると、約束した。
翌朝。
珍しく両親が帰ってきた。
いつもなら明日の夕方に帰ってくるのに。
「お母さん。なんで家にいるの」
「娘と孫に会いに来ただけだよ。
あなたは、子供を一人にしてどこに行っていたの?」
「私はもう良い大人なのに、束縛しすぎ。
離婚にも再婚にも文句言って。
子供の幸せを願ってくれないの?
私は母親である前に一人の人間なのよ。
母親は、生き抜きも許されないの?
主人のご両親を少しは見習ってよ。
理解はあるし、口出しもしない。
会いに来いと言わないし、会いに来ることもしない。
ご両親のご再婚する条件とおり、子供の面倒はみてるし暮らしに不便はさせてない」
睨む目でおばあちゃんを見るお母さん。
揃っていると、外見はよく似ていて親子らしくて羨ましくなった。
お母さんの明るい茶の髪はおばあちゃん、白金の目はおじいちゃんからもらったんだ。
俺は、お父さんからもらった紺の髪とおじいちゃんと同じ白金の目なんだ。
当たり前だが、改めて家族のつながりを意識した。
「まさか…あなた……子供は学校に通わせて、寝る場所と食事を与えればいいと思っている?」
おばあちゃんの質問に困った顔をするお母さん。
父親は鋭く光る赤い目でおばあちゃんを睨んでいる。
「何か問題でも?
自分は同じように両親に育ててもらいましたが、暮らしに不便はなかったです。
両親は出会い方が浮気だっただけで再婚しても幸せに過ごしていますし、
親も一人の人として過ごす時間があってこその子育てに間違いないと思ってやっています。
学校がある日は仕事を除けば留守にはしていませんし。
他の男の子供の面倒を見てあげているんですから、
我が家の方針に口出ししないでください」
「そのように言うのでしたら、焔螺は私たちで育てます。
負担になっているならば、無理に古森を名乗らせる必要もありません。
我が家に養子で迎えてもいいです」
「あー…男の子だから、そう言うんですよね?
そういうの、良くないですよ。
いくら近くに我が子が皆いないからって」
父親はおじいちゃんをみて馬鹿にしたように笑う。
お母さんは何故か怒った顔をした。
「そうよ。お父さん、ひどい。
子供は親の面倒を見てくれる道具ではないのよ。
甘やかしてばかりだと、将来一人で何もできない人間になる。
だから、あえて一人にして生きる力を育てているのに」
両親にとって俺は邪魔な存在でしかない。
日々の態度と会話で、俺は結論を出してしまった。
「俺、おじいちゃんとおばあちゃんと暮らす」
会話に割り込んで、大きな声で宣言する。
「焔螺」
俺の名前を呼んでくれる優しい声が嬉しかった。
「いいですか?
俺、一緒にいて役に立たないかもしれないです。
でも、叶うならおじいちゃんとおばあちゃんの傍にいたいです」
「いいんだよ。分からないことは、一緒に覚えればいいから。
今日からでも、一緒に暮らそう。
学校は今まで通り通えるように、おじいちゃんが相談してくれるから大丈夫」
俺の肩に手を置く二人の手は温かい。
「育ててやってるのに、内を言っているんだ」
「そうよ。お父さんに悪いと思わないの?」
俺には味方がいる。
だから、怒る両親も怖くなくなった。
思い出にいる唯一の俺のお父さんも心の支えだ。
きっと、困ったら俺を助けてくれる。
「お父さん,お母さん。
お世話になりました。ありがとうございます」
「焔螺。自分の荷物はどこにある?」
おばあちゃんは、俺に聞く。
自分の荷物は学校道具と制服だけ。
置いてある場所に向かって歩き始める。
遠くなる背中に聞こえるのは、大きな声を出す両親と話をするおじいちゃん。
夕方、荷物と一緒に二人について家を出た。
翌日からの登校は、特例で新しい家から通えるようになった。
ぎゃくたいされた子供を守るため、と先生は言っていたが意味が分からなかった。
先生が離し終えると、おじいちゃんは言った。
「話し合いの結果新しい父親の古森の名前は同じだが、
暮らしは養父母としてのおじいちゃんとおばあちゃんと一緒だ」と。
新しい家での暮らしは驚くほど穏やかだった。
間違ったり機嫌を損ねても叩かれない。
怒っても大きな声を出さない二人に理由を聞くと苦い顔をされた。
「これからは、今の家の暮らし方を覚えてね」と温かな手が俺の髪を撫でた。
二人は、会えないと思っていたお父さんにも会わせてくれた。
お父さんは「今まで、たくさん頑張ったな」とほめてくれた。
知らない女の人と、お父さんと女の人に似た一人の子供にも会った。
俺に弟がいることを知った。
たまに会うようになると、弟の方から「お兄ちゃん」と遊びに誘ってくれるようになった。
楽しかった。
学校も、新しい家の暮らしも、お父さんたちと過ごす時間も。
今までとは何かが違う気持ちで時間は流れ、あっという間に中学校の卒業式。
綺麗な服を着たおじいちゃんとおばあちゃんと一緒に写真を撮った。
家に帰ると、綺麗な服を着たお父さんたちとも写真を撮った。
「おめでとう」と言われた。
何がおめでとうかは分からないが、無事に卒業できたのは皆のおかげだ。
「ありがとうございます」と背を伸ばして答えた。
選んだ高校は、全寮制。
初めてできた友人は、似た経験をした人たちだった。
再婚同士の両親と仲良く暮らす乃山 雷明。
離婚して、同じ人と再婚をした両親と距離を置く長男の緒川 一樹。
同じ敷地に学び舎があるため会う機会がある次女の汐竜と三男の風真
なんとなく、用事があれば話をするだけの関係だが、遠すぎないし近すぎない距離感が心地よかった。
俺たちは、周囲に関わると面倒な人だと認識されている。
どこからか流れてきた真実交じりの嘘は、上辺だけの友人作りをしなくていい助けになった。
放課後。
寮の個室で勉強をしていると、扉が静かに叩かれた。
「はい。今行きます」
扉を開けると、予想通りの人が立っていた。
歳が一つ下で一樹の妹。
にっこりと愛嬌のある笑みを浮かべている。
「焔螺、課題で分からないところがあるのだわ。
教えて?」
「汐竜。いいけど、夕方には部屋に戻れよ。
お兄さんが心配するから」
「一樹兄さんなら大丈夫。
焔螺なら許すーって言っていたのだわ」
だから問題ない、と言いたそうな笑みだった。
思い浮かぶ言いたいことは明日の放課後に一樹へ伝えることを決めた。
まずは、目の前にある課題だ。
「一樹…とりあえず、どうぞ」
「はーい。お願いします・・・っわ、と…っ」
危なかった。
廊下でこけそうになった汐竜の肩を支える。
「大丈夫か?」
「…ぇ?あ…うん、だい、じょうぶ。ありがとう」
なぜか赤い顔をする汐竜。
日々の疲れが出ているのだろうか。
何かあれば一樹も心配するから、念のため明日伝えよう。
「本当に大丈夫か?熱冷ましなら「大丈夫!それより、課題。課題を教えてだわ?」
「汐竜?」
肩から俺の手を外した汐竜は、俺の手を持ったまま机へと向かう。
慌てている汐竜の顔を見ると、赤い顔がまた赤くなった。
潤んだ薄黄の瞳は一瞬だけ俺を見て目を伏せた。
「…ほむら、本当に、大丈夫だから」
「わかった。辛くなった無理しないで言えよな」
「うん」
椅子に座って課題を始めた汐竜。
何故か、俺と目が合うと頬を赤くする。
偶然に指先があたると細く悲鳴をあげ、慌ててた。
いつもと違った様子だったが、無事に課題を終えて部屋に戻った。
勉強をしていればいいから。
学校は楽しい。
家族がいないから。
学校は楽しい。
会話ができる誰かがいるから。
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お父さんと会えなくなった。
俺はお父さんと一緒にいたかったけど、お母さんから睨まれた。
「皆は、命がけで生んでくれたお母さんを選ぶのですよ」と言っていた。
俺は最後までお父さんの傍にいたいと願ったが、会えなくなった。
「新しいお父さん」になった人は、あまり俺と話をしたくないらしい。
挨拶をしても無視をして、俺が挨拶をしなかったら怒る。
「誰のおかげで暮らせているのか、わかっているのか」と叩かれる。
痛いのは嫌だから、失敗したら同じ事はしない。
家に帰ると、今日がいつなのか分からなくなる。
同じ事の繰り返しで感覚が鈍くなる。
まずは、挨拶。
「ただいま」
目の前を通り過ぎて出ていく両親は、互いを見つめ合い微笑んでいる。
いつもより綺麗な服を着ていた。
「どこに行くの」と聞いたら叩かれるから、聞かない。
手帳を見ると、今日は金曜日と書いてあった。
学校にいたときは覚えていたことだった。
月曜日の夜までは帰らない両親。
塵一つ無いように見える居間に、俺の居場所はない。
唯一許されている自室に入ると、袋が置いてあった。
確認して、三日分の食事があることに安心する。
両親は「虐待を疑われては困るから、仕方ない」と言いながら用意している俺のご飯。
自分で作ろうとしたが、台所は使わせてもらえない。
「汚すかもしれないから」と言われた。
しだいに、「仕事が忙しい」と言ってほとんど家に帰らなくなった両親。
小学校を卒業するころには、家の家事をするのが当たり前になっていた。
渡されたお金を考えて使って買い物をして、自分が食べるためのご飯を作る。
たまに両親g帰ってくると、床に埃を見つけて大きな声を出しながら道具を使って叩く。
とても痛かったから、隅の角までよく見て掃除をするようになっていた。
色んな汚れの綺麗な落とし方を長期休暇で出された実験課題にすると、
友達や先生たちは「良いことを聞いた」と明るい声で笑ってくれた。
楽しそうに笑っているのが、とても嬉しかった。
中学校の生活が残り半分になった頃。
久しぶりにおじいちゃんとおばあちゃんと会った。
二人は、「会いたくなってきた」と言った。
週末で両親がいない日だった。
いると思っていた両親がいないことに驚いた二人から。
どのように暮らしているのかを聞かれた。
話をすると、なぜか二人は怒り始めた。
怒る理由が分からないので、何を言えばいいのかも分からない。
急に寂しくなって、お父さんに会いたくなった。
でも、もう会えない。
二人はなぜか一緒に家の掃除をしてくれた。
埃が残っていても大きな声で怒られなかった。
どうすれば綺麗になるか、教えてくれた。
一緒にご飯を作ったし、一緒に食べた。
理由はわからないが、一人よりは早く終わったし、楽しかった。
「今日はここに泊る。一緒に寝よう」と言ってくれた。
俺の部屋では狭かったから、居間に布団を並べてひいた。
眠る直前まで楽しく過ごせたのは初めてだった。
明日もお休みの日。
昼までは一緒にいてくれると、約束した。
翌朝。
珍しく両親が帰ってきた。
いつもなら明日の夕方に帰ってくるのに。
「お母さん。なんで家にいるの」
「娘と孫に会いに来ただけだよ。
あなたは、子供を一人にしてどこに行っていたの?」
「私はもう良い大人なのに、束縛しすぎ。
離婚にも再婚にも文句言って。
子供の幸せを願ってくれないの?
私は母親である前に一人の人間なのよ。
母親は、生き抜きも許されないの?
主人のご両親を少しは見習ってよ。
理解はあるし、口出しもしない。
会いに来いと言わないし、会いに来ることもしない。
ご両親のご再婚する条件とおり、子供の面倒はみてるし暮らしに不便はさせてない」
睨む目でおばあちゃんを見るお母さん。
揃っていると、外見はよく似ていて親子らしくて羨ましくなった。
お母さんの明るい茶の髪はおばあちゃん、白金の目はおじいちゃんからもらったんだ。
俺は、お父さんからもらった紺の髪とおじいちゃんと同じ白金の目なんだ。
当たり前だが、改めて家族のつながりを意識した。
「まさか…あなた……子供は学校に通わせて、寝る場所と食事を与えればいいと思っている?」
おばあちゃんの質問に困った顔をするお母さん。
父親は鋭く光る赤い目でおばあちゃんを睨んでいる。
「何か問題でも?
自分は同じように両親に育ててもらいましたが、暮らしに不便はなかったです。
両親は出会い方が浮気だっただけで再婚しても幸せに過ごしていますし、
親も一人の人として過ごす時間があってこその子育てに間違いないと思ってやっています。
学校がある日は仕事を除けば留守にはしていませんし。
他の男の子供の面倒を見てあげているんですから、
我が家の方針に口出ししないでください」
「そのように言うのでしたら、焔螺は私たちで育てます。
負担になっているならば、無理に古森を名乗らせる必要もありません。
我が家に養子で迎えてもいいです」
「あー…男の子だから、そう言うんですよね?
そういうの、良くないですよ。
いくら近くに我が子が皆いないからって」
父親はおじいちゃんをみて馬鹿にしたように笑う。
お母さんは何故か怒った顔をした。
「そうよ。お父さん、ひどい。
子供は親の面倒を見てくれる道具ではないのよ。
甘やかしてばかりだと、将来一人で何もできない人間になる。
だから、あえて一人にして生きる力を育てているのに」
両親にとって俺は邪魔な存在でしかない。
日々の態度と会話で、俺は結論を出してしまった。
「俺、おじいちゃんとおばあちゃんと暮らす」
会話に割り込んで、大きな声で宣言する。
「焔螺」
俺の名前を呼んでくれる優しい声が嬉しかった。
「いいですか?
俺、一緒にいて役に立たないかもしれないです。
でも、叶うならおじいちゃんとおばあちゃんの傍にいたいです」
「いいんだよ。分からないことは、一緒に覚えればいいから。
今日からでも、一緒に暮らそう。
学校は今まで通り通えるように、おじいちゃんが相談してくれるから大丈夫」
俺の肩に手を置く二人の手は温かい。
「育ててやってるのに、内を言っているんだ」
「そうよ。お父さんに悪いと思わないの?」
俺には味方がいる。
だから、怒る両親も怖くなくなった。
思い出にいる唯一の俺のお父さんも心の支えだ。
きっと、困ったら俺を助けてくれる。
「お父さん,お母さん。
お世話になりました。ありがとうございます」
「焔螺。自分の荷物はどこにある?」
おばあちゃんは、俺に聞く。
自分の荷物は学校道具と制服だけ。
置いてある場所に向かって歩き始める。
遠くなる背中に聞こえるのは、大きな声を出す両親と話をするおじいちゃん。
夕方、荷物と一緒に二人について家を出た。
翌日からの登校は、特例で新しい家から通えるようになった。
ぎゃくたいされた子供を守るため、と先生は言っていたが意味が分からなかった。
先生が離し終えると、おじいちゃんは言った。
「話し合いの結果新しい父親の古森の名前は同じだが、
暮らしは養父母としてのおじいちゃんとおばあちゃんと一緒だ」と。
新しい家での暮らしは驚くほど穏やかだった。
間違ったり機嫌を損ねても叩かれない。
怒っても大きな声を出さない二人に理由を聞くと苦い顔をされた。
「これからは、今の家の暮らし方を覚えてね」と温かな手が俺の髪を撫でた。
二人は、会えないと思っていたお父さんにも会わせてくれた。
お父さんは「今まで、たくさん頑張ったな」とほめてくれた。
知らない女の人と、お父さんと女の人に似た一人の子供にも会った。
俺に弟がいることを知った。
たまに会うようになると、弟の方から「お兄ちゃん」と遊びに誘ってくれるようになった。
楽しかった。
学校も、新しい家の暮らしも、お父さんたちと過ごす時間も。
今までとは何かが違う気持ちで時間は流れ、あっという間に中学校の卒業式。
綺麗な服を着たおじいちゃんとおばあちゃんと一緒に写真を撮った。
家に帰ると、綺麗な服を着たお父さんたちとも写真を撮った。
「おめでとう」と言われた。
何がおめでとうかは分からないが、無事に卒業できたのは皆のおかげだ。
「ありがとうございます」と背を伸ばして答えた。
選んだ高校は、全寮制。
初めてできた友人は、似た経験をした人たちだった。
再婚同士の両親と仲良く暮らす乃山 雷明。
離婚して、同じ人と再婚をした両親と距離を置く長男の緒川 一樹。
同じ敷地に学び舎があるため会う機会がある次女の汐竜と三男の風真
なんとなく、用事があれば話をするだけの関係だが、遠すぎないし近すぎない距離感が心地よかった。
俺たちは、周囲に関わると面倒な人だと認識されている。
どこからか流れてきた真実交じりの嘘は、上辺だけの友人作りをしなくていい助けになった。
放課後。
寮の個室で勉強をしていると、扉が静かに叩かれた。
「はい。今行きます」
扉を開けると、予想通りの人が立っていた。
歳が一つ下で一樹の妹。
にっこりと愛嬌のある笑みを浮かべている。
「焔螺、課題で分からないところがあるのだわ。
教えて?」
「汐竜。いいけど、夕方には部屋に戻れよ。
お兄さんが心配するから」
「一樹兄さんなら大丈夫。
焔螺なら許すーって言っていたのだわ」
だから問題ない、と言いたそうな笑みだった。
思い浮かぶ言いたいことは明日の放課後に一樹へ伝えることを決めた。
まずは、目の前にある課題だ。
「一樹…とりあえず、どうぞ」
「はーい。お願いします・・・っわ、と…っ」
危なかった。
廊下でこけそうになった汐竜の肩を支える。
「大丈夫か?」
「…ぇ?あ…うん、だい、じょうぶ。ありがとう」
なぜか赤い顔をする汐竜。
日々の疲れが出ているのだろうか。
何かあれば一樹も心配するから、念のため明日伝えよう。
「本当に大丈夫か?熱冷ましなら「大丈夫!それより、課題。課題を教えてだわ?」
「汐竜?」
肩から俺の手を外した汐竜は、俺の手を持ったまま机へと向かう。
慌てている汐竜の顔を見ると、赤い顔がまた赤くなった。
潤んだ薄黄の瞳は一瞬だけ俺を見て目を伏せた。
「…ほむら、本当に、大丈夫だから」
「わかった。辛くなった無理しないで言えよな」
「うん」
椅子に座って課題を始めた汐竜。
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