影に鳴く

秋赤音

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影に鳴く

2.寄り添う光

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※BLです
暴力表現あります。法律がない世界の話。

「こんにちは」

その女性は、レンの客で初めて挨拶をしてきた。
消毒薬の香りがするその人は、レンと共に部屋へ入った。
今日の客は昼食も一緒だと聞いている。

「食事を持ってきました」

「はいれ」

「失礼します」

一歩部屋に踏み入ると、いかにも事後らしい雰囲気の二人が待っていた。
レンの香水と消毒薬の香りが混ざって、空間に不快な香りが漂っている。
早くここから出たい。

「まあ、美味しそう」

「コイツの飯は美味しい」

「では、失礼します」

「お待ちになって。ねえ、レン。三人で一緒に食べない?」

この客は何を言っているのだろう…と思ったが、そういう客もいるのを思い出す。
俺はBの恋人役だ。奪うことを好む客だと、たまに仕事を与えられることもある。
なんにせよ、俺はレンの指示を待つだけ。

「コイツの席はない」

「あるわよ。あなたの膝の上。
恋人のように振る舞って。客の願いは叶えてもらえるわよね?」

「はいはい。つーことで、座れ」

俺は指示に従う。
プレイでなければ座らない場所で食事を食べるのは新鮮な気分だ。

「客の希望だ。俺が食わせてやる」

居心地の悪い食事が終わり、やっと部屋から出られると思ったが、なぜか乗せられたまま。
客は俺のことを気にせずレンの唇を奪い、
それから二人は甘い口づけを交わしている。
ふと、客の手が俺にのびてきた。
すると、レンがその手を絡めとる様が目に入る。

「少しは、拗ねたらどうだ」

「別に」

レンの指が客の下肢へ向かうと下品な水音と悦び喘ぐ声が聞こえてくる。
突然のことだが、今回は"そういう契約"だと思うことにした。
近くにあった本を手にとり、文字を読み進める。
ページが残り半分になったところで、二人が玩具で遊んでいる音が聞こえ始めた。
今さらだが、座ってるレンの膝に湿り気がないことに気づいた。
レンの指先は玩具の遠隔操作で忙しそうだ。

「おい」

「はい」

「そこにあるのをナカに突っ込め。自由に遊んでいい」

そこ…とは、おそらく視線の先にある玩具のことだろう。
本を置いて、指示通り、蜜を滴ながら何かを待つ客が晒している秘部へ挿入する。
手元の遠隔操作機を使い適当に扱うと、時折潮をふきながら何度も高みへと昇っている。
だんだんと枯れていく声は、吐息だけをこぼしながら快楽を貪り続けている。

「もういい」

「はい」

玩具をそのままにして、手を離す。
無機質な音もやんだ。

「ぁ…待って、まだ…」

「時間だ。契約通り後ろの玩具はそのまま…あ、面倒だから両方でいい」

「あ…っ」

「淫乱。早く帰って続きを楽しめばいい」

レンがあざ笑い客を見下ろすと、
客は頬を乙女のように赤らめて秘部から新たな水をおとす。

「ぁ…んぅっ…レン、次はいつ」

「早く帰れ」

強く睨まれた客はますます興奮した。
着崩していた服を直し、靴音を鳴らして速足で帰った。

「レン、掃除を」

「シアはしなくていい」

レンは、浄化魔法を使い一瞬で何もなかったことにした。

「さて。仕事は終わりだ。シア、疲れただろう」

俺の服に手をかけながら額や頬へ口づけをおとしているレン。
触れられるたびに感じていた不快感ごと消えていく。

「突然で驚いただけ」

「あの女、生きてると思うか?」

「わからない」

「大丈夫だ。ここには裁く法律がない。
なにが転がっていようとゴミとして処分されるだけだ」

「レン…」

俺をベッドへゆっくり押し倒し、柔らかな笑みを向けてくるレン。
その頬へ片腕をのばして、もう片腕を首の後ろへ回す。
この体温がないと、誰かに触れた不安で潰れそうだ。

「久しぶりの他人は怖いか?」

「怖い」

「忘れろ。二度と会うことはない」

「どうして」

「シアに触れようとした」

レンは俺の頬に触れ、そっと唇を塞がれた。

「それだけ?」

「それだけだ」

その不敵な笑みに思わず笑う。

「それでいい。シアは俺だけ見ていればいい」

「レン」

「シア」

大切な何かを呼ぶような穏やかな声に笑みを返す。
そして、与えられる深い口づけに身を委ねた。



数日後。
一人分の女性遺体が新地へ向かった。
死因は、何らかの毒による細胞の死滅。
詳しく調べられた後、治療薬の生成に使われることとなった。
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