輪廻の終わりで

秋赤音

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死後の幸彩

2.消生に別れを

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妻と名乗る彼女、瑠璃るりさんが帰った翌日。
ぼんやりと生前を思い出した。平凡といえば平凡な人生だった。
どこにでもありそうな、聞き流されそうな平凡さだった。
人と違う事は、生まれつきある腕の痣。他は優秀と呼ばれる人より劣り、世渡り下手ながら真面目だけが取り柄だった。
平凡に勉強し、就職し、結婚した。妻であり母となり、時には恋人のように過ごせる女性と、平凡な苦楽を噛みしめながら子を育てていた。
子供が学び舎や習い事で忙しくなると、仕事へ復帰した妻。子供は義両親に見てもらうと、妻だけで決められた。顔を合わせる時間は減るばかりで、すれ違う日々が続いた。
いつからか冷めた夕飯すらなく、自分が早めに帰る日に作った食事は手つかずも当たり前になった。それでも、いつかはまた会えると信じていた。
寒空のある日、仕事の帰りに明後日に迫る子供の誕生日の祝いに贈る品を選んでいた。すると、少し遠くから懐かしい妻と子供の声が聞こえた。傍らには知らない男がいて、子供も懐いた笑顔を向けていた。聞こえる会話は平凡な家族のようだった。
呆然としていると、こちらに気づいたらしい妻の目が微笑む。唇が音もなく動く。邪魔しないで、と。変わらない無邪気な笑みは人の群れに消えた。
家に帰り、渡していいのか分からなくなった贈り物を眺める。食欲はなく、明日は休日だと思い出し、明後日は。思い描けなかった。目を背けていた可能性の一つが現実になって虚しかった。
知らなければ生きる糧を失わずにいられたかもしれなかった。
でも、無理だった。認めてもらえるよう、許されるよう、自分にできることはしたけれど。
妻だけでなく、子供も、両親も、自分を必要としていない。自分でなければいけないことは、何もないのだろう。誰でもいいのだ。願いが叶えられる誰かになれない自分は、誰からも必要とされない。
いても、いなくてもいいなら。
しかし、もう死んだ身には関係もなくなった。ふと瑠璃るりさんを思い出す。彼女は自分を選んだようだが、やはり用が済めば別れがくるのだろう。


約束の日になり、彼女は現れる。同じことの繰り返し。
だが、今日は少し違った。彼女の腹にある模様が、自分の腕にある痣と同じだと気づく。
羅生らいと呼ばれる名が何故か懐かしい。
うわ言のように呟く言葉は、切なくこの再会が永遠に変わることを願うようにも聞こえる言葉ばかり。
覚えがないだけで、過去に会ったことがあるのだろうか。



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