輪廻の終わりで

秋赤音

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死後の幸彩

3.願った再会と永遠

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瑠璃るりは、番の男が冥府の門を通った瞬間に動いた。
小さな家の庭で、家族と花を愛でていた。
傍にいる美しい息子は子を宿す番から離れないまま、私を見た。

「お母様?」

瑠唯るい、お母様はお父様を迎えに行きます。
しばらくは戻らないので留守はまかせます」

「お父様に会えるのですね。番と一緒に待っています。いってらっしゃい」

「いってきます」

別れを強いられたあの日から、次に再会を永遠の始まりにすると決めていた。
まずは体を冥府へ慣れてもらう。一緒にいられるはずだった時間にしたかったことをしよう。
羅生らい。私の羅生らい。私だけの羅生らい


予定通りに魂を転移させ、動けない彼に私を覚えさせる。
理性を奪った体の本能は、忠実に雌を孕ませようと刺激に反応した。
一方的に精を貪るのも良いが、そろそろ少しずつ馴染んで動けるはず。
私に意識が向けば現世での名は浄化され、番として過ごすはずだった本来の時間に戻される。
あの日のように番に別れを告げて、笑って送り出す必要はない。
早く、私を求めて羅生らい
大丈夫。
焦らなくても、一度目の時も同じだった。
次の儀式も無事終えればいい。
充実した疲れと安堵を抱いて眠ることができる今を大切にすればいい。


懐かしい夢を見ている。
番を決めていなかった私がいる。
見えているのは、番の候補を選ぶよう言われてから辺りを歩き回っている頃だった。
もう少しで、出会う。あの時、出会ったから今がある。
過去の私は、土に触れ草花の手入れをしながら生まれ変わりを待つ青年の無名な魂を見つけた。
澄んだ目が雷の光みたいで、羅生らいと名づけた。
その場は瀬花せなと名乗れば、花の守り人と驚かれすぐに敬い態度に変わった。
だが、あえて見上げる敬い態度を許さなかった。
せっかく出会えた守り人の同胞と、同じ目線で会話がしたかった。
それから、毎日一度は必ず会って他愛ないことを話した。
私は見れば土や草花の状態が分かるし、直接触れなくても手入れができる。
でも、出来心で手入れを手伝うと、思ったよりも楽しくて。
次の日も、手入れを手伝っていた。
あの日は二人きりの花園にいた。
一時の別れを知っている今の私は、思い出す光景に懐かしさと寂しさが募る。
ふと目が合って、優しく笑む姿に胸が痛んだ。
初めて知る感覚に戸惑い動けないでいると、羅生らいが照れたように頬を染めた。
気づけば、私の指先は羅生らいの腕に触れていた。
気づけば、羅生らいの唇を塞いでいた。
離れて、意識しても、心地よい温かさだった。
だから、ほしくなった。
迷わず、羅生らいの耳元に唇を寄せた。

「私の番になって。ずっと一緒にいて」

「番、ですか?」

疑問を返す羅生らいに、言い改めた。
番に選ばれようと媚びを売ってくる輩は見慣れている。
が、羅生らい興味すらないのか知らないようだった。

「私が羅生らいの妻になる」

「ということは、僕が瀬花せなの夫になるのですか?」

「そう。そして、ずっと一緒にいてほしいの」

「雇い主ではないのですね」

「そうよ。瀬花せなの番になるの。私、瑠璃るりの夫に」

柔らかな土の上に、ゆっくりと羅生らいを押し倒した。
羅生らいは抵抗しなかった。

「僕でよければ、ずっと一緒にいます」

「ありがとう。同じ花の守り人としても、頼りにしているの」

真っすぐに向けられた視線は優しかった。
その場で純潔を捧げたことを後悔したことはない。
仮契約の証が互いの体に宿ったことを目で確認するたびに嬉しかった。
そして、毎日誰もいない場所で儀式として快楽を共有した。
13度目の射精を受け入れ終えると、ようやく体ごと番になれた。
嬉しくて、嬉しくて、熱を持て余す身体で羅生らいに番としての行為を強請った。
儀式の名残で潤む体は羅生らいの逞しい熱さを難なく受け入れた。
本能で、個としての感情で求められる動きに応じれば、羅生らいも欲を重ねてくれた。
嬉しかった。
懐かしい。
あのまま永遠にいられたら、よかったのに。


目が覚めると、羅生らいはいなかった。
見慣れた私室の天井と、冷たい部屋。
早く羅生らいに会いたい。
儀式でも良いから。
思い出を忘れたままでも良いから。
一秒でも、一刻でも、今の私と時間を重ねてくれるだけでいいから。
羅生らい
瀬花《私》番の羅生らい
瑠璃だけの羅生らい
ずっと一緒にいると、もう一度だけ約束して。
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