輪廻の終わりで

秋赤音

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他様生

6.綺麗事

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使う用途が無くなったら、整理されて捨てられる。
ただ、それだけだった。

母親は、途中で育てられなくなった私を捨てた。
『それでも、初めは望まれて生まれてきた』と院長先生は言っていた。
確かに、そうだったのかもしれない。
『ずっと好きだと言っているのに。相手を知る努力もしないお前も悪い』と、刃物を持った自称同郷の強姦魔は言った。
確かに、誰か知らないけど受け入れる努力もしていないまま拒否した。
『どんな理由でも、たとえ犯罪被害の結果でも、授かった命は生む方がいい。手術も薬も、結局は母体へ負担がかかる』と医者は言った。
確かに、脅されて受け入れた私も加害者かもしれない。
が、子まで犯罪者ではない。
幸い、父親は捕まっている。顔は目隠しをされて見えなかった。
『お金がもらえるし、無理なら孤児院がある。』と同じ経験をした友人は言った。
産むか迷っていた私に、秘密出産を教えてくれた。
確かに、私でなくても誰かが幸せにしてくれるかもしれない。
『今は、孤児院に空きがない。空くまで、できれば産んだ親が世話をした方がいい。』と院長先生が言った。
確かに、産んだ責任がある。
だから、頑張ることにした。
でも、我が子の存在そのものを愛することがまだできない私。幼いときは、私も我が子も始めから出来なくても仕方ないからまだ良かった。
『父親は不在でも育つから大丈夫』と、父親役を探しては失敗する私に院長先生は言った。
ついに空くことなく、体だけ大人になった我が子。真っ当に育てられない罪悪感にも、堪えられなくなった。
互いに精神が不安定だった。
一方的な暴言から、初めて連絡が取れなくなった我が子。帰らない不安と、帰らないかもしれないことに安心している自分がいて嫌になった。
見つけたときは、すでに骨だった。腹には子がいたが、共に焼かれたと聞く。
残されていたのは謝罪だった。
『これは、私が決めたこと。
だから、誰も悪くない。
みんなは、あなたは、私に何でもくれる。
私は、みんなへ、あなたへ何もあげられない。
今まで、ありがとう。
ごめんなさい』
自死を選んだことへの批判や、気づけなかった後悔にキリはない。
でも、せめて健康体に育って平凡に助け合えると人並みの範囲で期待して、何が悪い。
愛は無償であるべきだが、無償でいられなくなる。
しかし、失った虚しさが胸の内を苦しめる。
だが、我が子が完全にいなくなったことで負担は減った。治る見込みはなく、対処療法だけの医療費。産むことも、育てることもできない弱い体への配慮。効率が悪いと分かって任せていた家事時間。大人になっても働けない一人分まで稼ぐ労力。
社会的には手間しかかかっていなかった事が、解放されて初めて分かった。せめて、どこか一つでも生産性があれば楽ができただろう。
死んでよかったとは思わない。
だが、あのまま生きて手間ばかり増えることを考えると。
先に老いて残す不安も無くなった。
何が、正しいのだろうか。
わからない。
できることは、我が子がいない事を受け入れるだけだった。

きっかけは、日々に積み重なった不安を崩す一瞬だったかもしれない。
養いきれなくなるのが現実に迫りながら、追い立てても成功率が下がるゆえの見守り時間が焦りを貯める。失敗するたびに、弱くなる度に、気落ちする。
私の育て方も悪いのだろう。
何をすればいいのだろう。
仕事で疲れ、困らない程度の頭痛がしていた。
相変わらず中途半端な家事。社会の基本を言っても改善が遅い身なり。引きこもっているゆえか、実年齢に求められるところまで至らない幼い言動。
『肩を解そうか?』と言われたが、苛々した。
誰のせいで働く時間が多いか、家事までしなければいけないのか。
「良い大人が自分だけで生活できていないのに、偉そうな事を言わないで」
「…はい、ごめんなさい」
気まずくなり、そのまま互いの部屋に戻った。

翌日。珍しく朝から部屋を出て関心した。散歩に出るだけマシだ。
仕事を終えて帰るが、まだ帰っていない。
食事を終えるが、まだ帰らない。
日付が変わろうとしているが、帰らない。
警察は、『大人相手へ心配が過ぎるのでは』と言った。

骨は、海に全て撒いてもらった。
家に帰ると、片付けて広くなった部屋がある。
こんなことになるなら、産まなければよかった。
望まない出産を悔いても、遅すぎた。
それでも、誰かのためになっている安心感がほしい。
食事を作る気にもなれず、暗い外へ。
繁華街の外食店は賑わっている。
ふと、背後から腕を引かれた。
「お姉さん、一人?」
爽やかな笑顔の青年だった。


私は、また罪を重ねた。
何かにすがりたい気持ちが満たされて、危険な腕を払えなかった。
青年に誘われるまま食事をして、ホテルに行った。食事のお礼に、と望まれる通りに全身で奉仕をした。
前儀だけでことを終え、安堵しながら眠った。
お腹の違和感で目が覚めると、彼は私を犯していた。壊されている貞操帯。無防備に繋がっている陰部からは甘い香りがする。嫌なのに、メスとしての本能が彼を求めているようだ。
「んっ…ぇ、ぁっ、あんっ……なんで…っ」
「昨日のお礼?気持ちよかったし。帯を壊した代わりに、改造した玩具があるからね」
「帯が…っ…はぁああんっ…くるし…ぃやぁあっ」
強制的に押し付けられる快楽を逃がそうとしても、玩具仕様の貞操帯が許さない。彼と繋がったまま、陰核も刺激されて腰が浮く。
「綺麗な胸もかまってあげる。玩具でね」
乳首は吸盤に密着され、先にある卑猥さを隠すようなビキニ水着に包まれる。下からの突き上げも弱まり、今のうちに逃げなければと思った。
「ん……っ、は…ぁぅううっ…胸、とれるぅっ…乱暴にしないで……ひぃゃあぁあっ」
壊れる。
「あ。あとは、これか。穴は全部、塞がないとね」
「ゃめ、てっ。やめ、ゃ、や…お尻、んっ…んんっ…んふぅっ…んぁんっ」
舌をねっとりと奪われ、お尻の穴まで重い圧に揺れ始める。体の全部が強引に弄ばれて、強すぎる快楽に壊れてしまう。
「……っ、家に、案内、してくれるね。続き、シよ。着いたら、玩具は外してあげる」
「んっ、あっ、あんっ、ゃっ…やぁああんっ……ぁ、あっ…んっ、案内するっ…だから、やんんっ」
行為を否定しなくなるまで続いた。抵抗する気力のない体で、玩具をつけたまま着ていた服を着た。
家に着いて施錠がされると、本当に外してくれた。だが、また服は奪われる。
「大丈夫。僕は子供デキないから」

あれから、何日が過ぎたのだろう。
仕事は解雇されて、行くことができない。食事も、何もかもを管理された。朝晩の性行為と彼が出て戻るまでは玩具と遊ぶ日々。
異常な暮らしが日常になって、体も慣れてしまった。
ある日、目覚めると彼がいない。彼の物が全てなくなって、部屋のどこにも気配がない。
「ぁあ…ぁ、あ…どう、して……解放、された。のに」
飼いならされた体は彼の温度を求めて濡れる。ベッドへ戻ると、一つだけ残された玩具があった。
「待ってるから……早く、はっ、やぁんっ…んふぅううっ…足りない、足りないよぉおっ」

服を着て、外へ出た。
毎日、毎日、疲れても歩き続けて。
唯一の癒しになっている玩具の電池も無くなった。
一ヶ月が過ぎた頃。毎日きている彼と初めて出会った夜の繁華街で見つけた、のに。
酒が回っている赤い顔の女の腰を支え抱いている彼は、私に気づいても艷やかに微笑むだけ。見せつけるように、あの日の私と同じようにホテルへ消えた。
「……っ」
最中と同じに笑みを見るだけで、体が震えて絶頂した。もう、彼がいなければ感じることすらできない。空気の冷たさも、街並みに溢れる人の気配も彼あってのことだった。
彼がいない世界なんて、どうでもいい。
あの日常が戻らないなら、消えてしまおう。
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