輪廻の終わりで

秋赤音

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守られる街

繋がれた音

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どうして、こうなったんだろう。
公園で寝ていると、知らない人に襲われそうになって。
しかたないって、諦めていたらあなたが来た。
助けてくれて、犯人も逃げて。
今夜は安全な場所に、と連れられたのは丘の上。
誰もいない豪邸。手入れはされているが、建て方にも歴史を感じる。
用意された客室。室内に通路があって、向こうにある隣は、あなたの部屋。
なぜか客室で過ごすあなた。

「ご両親に、保護と長期滞在の許可をとっているところです。ここにいるときは、ハルと呼んでください。アキさん」

あなたは、私を抱えて眠る日々。ここの給仕には、『抱きまくら』も含まれるようだ。
なぜか外に出なくても困らない暮らし。
寝るときも風がない場所。寒ければ毛布まで出てくる快適空間。

「はい。主人の命令ですから従います。ハル様」
「主人?ああ…住み込みで給仕をしてもらうし。そうですね。僕の専属で、様ではなく。せめて、さん付けです。出かけるときは、必ず僕も一緒です」
「はい。よろしくお願いします」

あなたは、笑う。名のとおり、春のように暖かく笑う。そのまま眠ったあなたを追いかけるように眠る。ここは、良いところだ。よく手入れされた屋敷と庭。仕事もあるし、居場所も用意されていて、温かい。



冬夏家の本邸では、悩みのタネで眉間にシワを寄せる男女がいた。
テーブルに向かい合う男女は、それぞれ手を伸ばして布が敷かれている板へ頬を乗せる。触れ合わない手は同じ動きで宙に絵を描く。

『黃で春を迎え、緑の夏で育み、赤い秋で祝い、青い冬が浄め改める。そして、また春から巡る。片寄りなく、全てに恵みを』
冬夏家と春夏家にだけ伝えられている、先代からの言い伝え。家名に二つの季が無いのは、協力して街を守るように。
だが、権力を持つと慢心するのも人間。だから、蓄えるのが得意な冬夏と使うのが得意な春夏に分けられて数代が過ぎた。
新しく開発された場所は除き、旧街は日々の監視を代償に守りが強化されている。
先代からの教えを守る親族も減り、保守派と順応派に分かれた今代。しかし、繁殖の推奨という快楽的な事はやめられないのは同じ。名付けの決まりも目安となり、血統が持つ能力だけが残り、文化は歴史に消えつつある。

「兄さん。ついにやってしまったわ。倫理観の崩れが噛み合いすぎて、ある意味で問題だわ」
「やってしまったな。保護はいい、が。仕事を与えるのもいいんだが」
「そうね。女性が公園で寝起きしていて今まで無事だったのも奇跡で。まあ、どうせ。どうせね。店という店、街を出入りするもの全てを管理しているし」
「そう。まあ、そうなんだけど。地下の部屋はアキさんに見せられない。先代からの習わしと償いとはいえ、甘やかしている僕たちにも責任はあるけど」
「まあ………いいか」
「まあ………いいわ」

先代とは違う一般的な感覚も知る二人は、家風と世間のズレも知っている。ぐるぐると考えを巡らせ、ぐったりとしながら互いは納得した。幸せそうな兄を守ることにした。

「春夏家が一度出した子を引き取ったのは良い。本人が望んであの暮らしだとしても、そろそろ辞め時ということで」
「そうね。秋さんには一生、あの家で死ぬまで給仕してもらうわ」
「盗聴しているからって報告を後回しにしようとしているのは、許さないけどね」

冬夏家と春夏家は、狂っている。跡取り候補のため子供の数を望まれた文化遺産は、歴史でしか無くなった今ではマニアックな性癖扱い。利害が一致した互いは、互いの隠れ蓑になり遊ぶ。生まれた子供の人生なんて、どうでもいいと遊ぶ。合意がない他人に迷惑をかけていないから、止める人もいない。
愛人を囲って楽しく過ごすなか、生まれた子供は血筋で分けられて育てられる。愛人の子供は施設へ出すか、世話人と別邸で暮らすのが約束。
親の替わりでも愛を与える冬夏家と、愛することを放棄した春夏家の影響で求め方が違うだけ。互いに、自分だけを愛してくれる誰かがほしかった。育った環境が違うだけで、抱える寂しさは近い。

まだ暗い朝の丘の上の別邸で、静かに慌ただしく世話人が廊下を移動する。走る呼吸を整え、ドアをノックした。

「春様。至急お伝えします」
「入って」
「失礼します」

ドアが閉まる。寝起きの冬夏春は、まだ眠る春夏秋の頬にキスをしてベッドから離れた。


テーブルに置かれた書類。一通りみながら冬夏春は笑う。

「春夏家は、養子の保護の承知と管理責任の放棄しました。何をするにも許可を取らなくていいそうです」
「そう。一応、念書も…ある」
「当然です」
「ありがとう」
「失礼します」

世話人が去ると、冬夏春はベッドへ戻る。
春夏秋を抱きしめ直すと、無防備な首筋にキスを落としながら微笑む。

「秋。僕の秋」
「ハルさま?」

寝ぼけている春夏秋の頬にキスをして、腕で閉じ込めるように強く抱く。

「秋。寒いから、温めてください」
「はい。ハルさま」

背中に腕を回し眠った春夏秋を抱いたまま、冬夏春も目を閉じる。

朝。
ベッドから出ることもなく、春夏秋は押し倒されてキスを要求された。

「はい。どこへすればいいですか?」

冬夏春は細い腕を掴んで誘導し、指先を口に含んで舌で転がす。春夏秋は、頬を赤らめ喉を鳴らした。

「ここ…やり方は、わかりますね?」
「はい。初めてなので…上手くできなかったら」
「大丈夫です。毎朝と毎晩、お願いしますから。慣れます」
「はい。承知いたしました」

冬夏春の首に腕が回され、静かに重なった唇。しだいに濡れた音を立てながら、深まっていく。

「…ぅ…っ…んんっ…っはぁ」
「…っ、はぁ…次は今晩です」
「はい。ハルさん」

ベッドに背を預けてとろんとした目が、冬夏春からそらされる。すでにしっかりと勃っているソレを感じてか、体も固い。

「これは無視してください。大丈夫です」
「はい。申し訳ありません」
「ですが、少し相手をしてもらえると助かります」
「はい。なにを、すればいいですか」

冬夏春は組み敷いていた腕を解き、座って正面から抱き寄せる。耳たぶを軽く噛み、首筋を舌先でなぞる。

「このまま、体を触ります。動かないで、声を抑えないでください。服は、脱がなくていいです」
「はい。ぁ…んっ……ぁ、あっ」
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