輪廻の終わりで

秋赤音

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守られる街

願われた音

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今日も、抱きまくらは先に起きられなかった。

「おはよう。秋」
「おはようございます。春さん」

毎日、姿勢は変わるが、起きたときと寝る前のキスに慣れて快楽を覚えるようになり、困っている。
ある日、「辛そうだけど大丈夫ですか?」と聞かれた。正直に胸が疼くといえば、揉みほぐしてくださるようになった。下腹が疼くと伝えれば、足を開くよう命じられる。初めは驚いたが、春様の手でわざわざ熱くて疼くを鎮めてくださる。手間をかけさせてしまい、申し訳ない日々。

今日もキスをして、うつ伏せに組み敷かれる。一方的に支えてもらうのは気が引けるので頑張っていたら、筋力が鍛えられている気がする。

「…っ、ぁ……んっ、は、ぁ…ぅっ」
「ん…っ……そろそろ、辛そうですね。今日は濡れている下を重点にします」
「あ…申し訳ありまっ…んはぁんっ…あっ、あふっ」
「これも一緒に処理するので、気にしないでください」
「あっ、ぁ…足、閉じますからっ、ぁ、ぁあっ、あんっ」
「秋。足、擦れて痛いですか?」
「いえっ、痛くなぃ、ですっ…ぁあんっ」
「で、ます…っ」
「んっ、はぁいっ、あぅっ、ぁ、あああああっ」

出されてシーツに落ちた、子種だったもの。これが注がれていたかもしれないと思うと、怖くもあり惜しくもなる。やはり、私は恋人を平然と作れる親の子らしい。ハルアキさんの、いえ、春様。世話人が主人の精をほしがるなんて。

「大丈夫です。これは、あげません」
「はい…ありがとうございます」

微笑むあなたは綺麗で、公園で話をしていたときより明るいからよく見えて。私の主人の春様は、きっと優しくて残酷な人。


春様が、本邸に呼ばれた。
なぜか私も行くことになった。着慣れない綺麗な春色をまとい、丘の上に並び立つもう一つの家へ向かう。
やはりお屋敷だった。歴史を感じる建物と整った庭。綺麗な服の世話人が玄関を開けてくれる。

「ようこそ、冬夏家の本邸へ。秋様。改めて、弟の歌鈴です。おかえりなさい、兄さん」

相変わらず、人懐っこい笑顔。よく見ると、目の色が違う。黄と緑。

「初めまして。姉のカレンです。華の蓮です。おかえりなさい、兄さん」

柔らかく笑む華蓮様は、緑と赤。妊娠しているらしい。まとうドレスは上品さを保ちながらも、締め付けはない。
春様は私から離れて華蓮様と歌鈴様の隣に並ぶ。

「華蓮。無理をしてはいけない」
「これくらい、大丈夫ですわ」

春様と並ぶ華蓮様は、絵になる。
整った顔もだが、よく見れば鍛えているらしい歌鈴様も揃えば、さらに美しい日常の絵だ。
華蓮様は、公園で見たときと変わらず綺麗。命を宿す姿は、むしろ女神のよう。
整った顔、くっきりと谷間ができる豊かな胸に、緩やかなくびれと命を宿すお腹、大きくも引き締まっているお尻。
私は?平凡な体。比べることすら失礼だろう。
春様を改めて見ると、目の色は黄だけ。優しい眼差しで華蓮様を見つめている。
かける言葉を探していると、春様が隣にきた。

「秋。緊張して当然です。大丈夫です。
今日は、少し勉強してもらいますが」

何故か肩を抱かれて、春様の目に映る私は赤い。勉強、なにをするんだろう。

「ありがとうございます」
「時間が惜しいので、部屋へ案内します。形式だけだった僕の部屋が役に立ちますね」
「兄さん…あ、秋様。客室に宿泊の用意もしてます。教本、多いから「秋様の着替えは私が用意します。無理せず、ゆっくり学んでください。原素の方々には、ゆっくり過ごしていただくのが決まりですので」

言葉を重ねた歌鈴様と華蓮様は、有無を言わせない圧のある笑みを浮かべている。聞き慣れない言葉だが、明らかに春様と、世話人の私にも向けられた言葉は特別な響きを持っている。

「げんそ?」
「秋、僕たちのことです。ここでは両目が揃いの者は特別扱いが普通です。気にしないで、別邸のように過ごしてください」
「はい。春さん」

腰を抱かれながら部屋に入った。これでは世話人というより、恋人か愛人のよう。すでにテーブルへ積まれている書物たちは、勉強の道具だろう。
春様は書物の前にある長椅子に座り、私を膝の上に乗せる。耳元へ口を寄せられ、吐息に思わず身を縮めてしまう。すると、唇へキスを与えられる。離されると、そのまま這うように首筋へ。胸元へ。鎖骨を甘噛されて、体が震える。

「…っ…ぁ…っ」
「秋。ここ、盗聴されています。でも、別邸のように過ごします。僕の部屋ですから」

服の上から胸を包み頂を摘まれる。恥ずかしい。熱くて、苦しい。でも、我慢したら命令に背くことになる。春様は、別邸のように過ごすのを望まれている。

「んっ…はいっ、お勉強は、ぁ…っ」
「始めています。読まなくても覚えていますから、音読します」
「はい…っ…お願い、しますっ」
「まず、僕たちは元素という存在。繁栄の元となる素体ということ。子孫繁栄を義務つけられています。姉と弟は、進素。交配して進んだ素体。春の幼い親族となる者も進素。彼らもまた、繁栄の義務がある。繁殖の相手は、己の弱点を補う者が良いとされています」
「はい…っ…んっ……っ」

涼しい顔で説明をしながら、胸を弄ぶ手は止まらない。刺激に耐えながら、正しく聞き取るよう意識を集中する。

「次は、言い伝えの役割のこと。危機感と初心で金の木になる種を蒔き春を過ごす伝えから、黄の瞳を持つ者は『ハル』に関わる名を与えられ、何かの防衛を担う。
今代は、僕を含めた親族が街の、旧街の治安を維持しています。どこにいても分かるので、安心してください」
「…は、い…っ…んぁっ」
「正直いえば、僕は愛人の子で。偶然に元素だから優遇と責任を面倒ながら続けていました。秋を見つけてからは、役得なので、楽しいです」

春様は静かな怒りを宿した目で私を見た。胸を激しく弄び、唇は塞がれ、耐えきれずに絶頂する。開放された唇で呼吸を整えようとするも、焦らすような加減で硬いままの胸の頂を中心に弄び始める。時間が惜しい中の勉強だから、忙しいのだろう。快楽を拾う体を抑えて、気を引き締める。

「続きです。夏は引き続く財を維持しながら芽吹いた種を活かす伝えから、緑の瞳を持つ者は『ナツ』に関わる名を与えられ、調整役を担う。姉や弟は、二季の所属です。夏と、他。活躍適正が広いので、重宝されています」
「ぁああ……んっ…っ」

足が開かれ、すでに蕩けている女の体を、春様の指がさらに弄ぶ。男を受け入れる用意をするように、差し出される指は増えていく。繁殖の義務も、勉強のうちなのだろう。この体も、いつかは、誰かを受け入れなければいけない。春様ではない誰か。嫌だと思う私情は封じなければ。

「秋。苦しそうだから、少し休みますか?」
「ぁ…いぇ…わたし、だいじょぶ、ですっ…からぁあんっ」
「よかった。このまま、続けます」
「は、ぃっ…あっ、ぁあっ、そこ、今、は、ぁああっ」

焦らされた後の急な刺激と深い絶頂に、目眩がする。春様の肩にもたれた私を叱ることなく、なぜかご褒美のような優しいキスを与えられた。

「収穫と出費が多い秋は祝いとなるか呪いとなるかは運次第との伝えから、吉凶の象徴となる赤は『アキ』に関わる名を与えられるが、采配が難しい。難しいと言われながら、多くの『アキ』が様々な用途で使い捨てられてきた。秋。秋は、僕が守ります。だから、僕を受け入れてくださいね?」

姿勢を変えられ、服が乱され、男女が睦む前のように性器が触れ合っている。主人が、春様が望むなら、私は、ハルアキさんに捧げたい。

「はい。春様を、受け入れます」
「ありがとう。秋は、僕だけを見ていればいいんです」
「ぁっ、あっ…は、い…私は、春さ、まだけ…んっぁっあぁあああっ」



本邸の別室では、深いため息が二つ揃う。
テーブルに積まれた二つの山は、お見合い相手の資料。淡々と、手早く分けられていく。

「寒さと次の春に備えて見直しをする伝えから、『フユ』に関わる名を与えられ青の瞳を持つ者は見守る役割を担う。でしたわね」
「はい。博打要素の高い『アキ』は掛け捨ててでも能力を上げたい者には人気で、無難な組み合わせは『フユ』か『ハル』…でしたね」
「先代達は欲が出て、才能を掛け合わせるために、愛人を公認することにした。男は多くの種をまき、女は年ごとに違う男の子を生む。そして、産まれた子は両目の色が違うことが多かった。奇跡的に両目が揃いの色で生まれると四季の名を付けて特別扱いをするようになった。…何度、おさらいしても面白い話だよ」
「そうね。初めは揃いの目だったのに、おかしな話だわ。能力が強化された揃いの目が欲しかっただけ、でしょうけれどね」

勉強といっても、実践にはいったままの勉強。盗聴しているとわかっていれば、踏みとどまると思っていた。

「説明くらいはする、と思っていたけど」
「歌鈴、甘いわ。見守り監視を率先して、秋様を孤立させたのは誰だと思っていて?」
「兄さん…そうだった。秋様に近づく他の末裔の縁談、まとめてたね。接点ができる前に…僕が甘かった」

「春様」と、「ハルアキさん」と甘く啼く秋様。主従か、身分違いの恋のように聞こえる事情。
おそらく、兄さんは家風を使ってでも、叶わない片思いのまま傍に置きたいんだろう。
秋様のような境遇も、先代からよくある、特別扱いをして孤立させた末路だ。

「おかげで、私達の縁談も安全な中から選べるのだから感謝ね。妊娠までの相手だけど、選べるようになった。また、育ちの良い『アキ』持ちを作るわ」

姉さんは、少し寂しそうに笑う。目の色だけで素質を決める家風は、身を守る盾であり、人を遠ざける棘になる。力を得るためだけに使い捨てられる器でしかない。

「そうだね。姉さんも幸せになってね」
「歌鈴、あなたも幸せになるのよ。きっと、歌鈴と歌鈴の愛を受け入れてくれる人がいるわ。春のように、どこかにいるはず」

兄に『アキ』が揃えば、と思っていた。叶わないだろうから冗談と、半分は本気で思っていた。
その誰かなら、四季を共に歩んでくれそうで。
冬夏歌鈴にも『アキ』が見つかって、報われる気がして。初めて会った秋様は、すでに兄さんへ好意を寄せていたから諦めた。
僕は僕だけの『アキ』を探す。無難な二季持ちだから、確率は高いと思っている。

「そうだね。見つけたら、兄さんと同じくらい、それ以上に大切にする」
「待って。それ以上って、何をするのよ」

望み通りの結果は得たが、民衆からは良き管理人として距離を置かれるようになった。
だが、代が変わるごとに目的を忘れ、手段だけが行われ、ますます民衆からは避けられている。街を守るようなら、開き直って棲み分けしながら相手を探してもいいだろう。

「いつか、『アキ』を街という大きな籠で、自由に歩けるようにする。秋様が例外なだけで、姉さんも他の子も屋敷から出るときは親族の監視付きだ」
「それは…でも、私、歌鈴となら楽しいのよ。監視役だとしても、家族でお買い物するのは大切な時間だわ」
「姉さん…ありがとう。僕も、姉さんとお出かけするの楽しいよ」
「そう。ありがとう。歌鈴が弟でよかったわ」

儚く笑む姉さんは、お見合い相手を淡々と見定めている。お互いに決まれば、それぞれ屋敷の空き部屋で事を済ませるだけ。
言い伝えを守る人は味方につけながら、少しずつ望む関係を得られるように近づいてきた。
まずは姉さんを、秋様の幸せを守りたい。いつか出会う、僕の『アキ』を幸せにするために。
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