代償 ー願いの対価ー

秋赤音

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5.掛違い

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それは、よくある出来事だった。

舞踏会で、一夜限りの夢を見るのは未婚の紳士淑女だけではない。
ワカラナケレバイいいだけだった。
そして、自覚ある者たちは互いの不貞を見ないことにする。だから、
紳士が淑女を誘っていても助けは来ないし咎めもない。社交場でもあるから、誰と踊っても許される。
例えそれが痴情混じりだとしても。

踊りを終えた一組の男女は、花場の環から外れた。
美丈夫な褐色の指先は、完全に娘から離れて壁の花となっている華奢な紅天使に向かい合い、手を差し出す。
すでに潤みとろける紅の瞳で迷う細く白い指先と紙一重の距離で、熱を伝える。
深い青の瞳は柔らかく笑み、慈悲を願い乞う。

「今宵は、その美しい紅宝の瞳に私を映していただけますか」

「私…っ、夫が、いますから」

「今宵は咎める者もいません。叶うなら、二人だけでダンスの続きがしたい」

男の言葉に女の瞳が揺らぎ、唇から甘い吐息がこぼれる。その隙を逃さない男は女の手をとり、意味深に指を撫で滑らせる。

「でも…っ、…っっ」

「楽園へ案内することを約束しよう」

「…っ、…今宵、だけ…なら」

女は男と繋がる指に力をこめた。

「ありがとうございます」

女は男に腰を抱かれて歩き始める。踊っている時から蕩ける笑みと赤らむ肌は発情した雌そのものだが、本人に自覚はない。客室の扉に鍵がかかると、男の両腕に抱き上げられた。ベッドに降りた女の視界は、壁をみる間もなく天井と男の顔が支配した。

「シンヤと、呼んで?私の紅天使様の名は?」

「シンヤ様…?私はカレン…っぁ、あ…っ、足、みないで…っ」

男はドレスで隠れていた足を暴き、わざとゆっくり指を這わせて付け根へ向かう。抵抗しない女は小さく体を震わせ喘ぐだけ。男の指が水音を立てる陰部を撫でると、女はびくりと背を反らせながら声高く喘ぐ。

「カレン…私の、紅天使。深いところまで私を刻むから、受け止めてほしい」

「ぁっ!ナカ、指ぃ…っ!んぁあっ!」

浅く、深く出入りする指に翻弄されて蜜と甘い悲鳴をこぼす女は腰をふる。

「私だけの天使になってくれたら、全てを愛し繋がれるのに…」

「全て…ん、…っ!ぁひっ!く、も…っ!だめ、だめっだめぇええっ!!」

勢いよく潮を吹きながら、さらに快楽を求めて揺れる細い腰。男は誘う尻ごと押えつけ、わざと浅い愛撫へ変えた。

「ぁあ、どぅして?」

「あなたの方からほしいと言うまで、このままです」

男の言葉に女は揺らぐ。素直な体は強請るように腰を押しつけ、半ば相手の体を使った自慰行為を始めた。

「ぃやあぁっ、あんっ」

「さすがは麗しき後妻様。誘惑が上手い。白亜の天使も、男の欲望には素直だったのですね」

男は煽り返すように、ナカとさらに陰核へも柔い愛撫をする。もどかしそうに喘ぐだけの女は泣き始める。

「んぁあっ、イジワルしないで…っ、ほしぃの……っ」

「なにが、ほしいのです?」

「シンヤ様の愛が、ほしい…全部を愛してほしいの…っ」

「はい。最初で最後に、愛を」

ゆっくりと、悔いを確かめるよう擦り合わせながら、繋がった。

「あぁんっ、もっとぉ…っ、はぁああんっ……シンヤ様ぁ…っ」

「カレン。私の紅天使…私の愛を、覚えて…ください、ね」

たった一夜の出来事。
されど、一夜の出来事。
熱く愛された体は熱愛に飢えて、滴る疼きを夫へと向ける。

「私、マシロ様がいないと生きていけないの…愛してるからぁっ」
「カレン…カレン」

瞼を閉じて夫の楔を受け入れる妻は、夫が瞼を閉じて妻を抱くことを知らない。
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