瞬く間に住む魔

秋赤音

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同じ傘の下で

0.笑みに隠して

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偶然の再会だった。
月明かりだけが頼りの、サンルーナ国のどこかにある路地裏。
生きるためのしている見回りの仕事中に、できれば起きないことを願っていた声が聞こえる。
子種を求める甲高い女の声がする場所に向かうと、懐かしい顔がいた。
女に迫られ冷たい壁に背を預ける男が見回り係の女を見て目を大きく開ける。

「お静かに、お願いします。
愛を語らうなら、穏やかに、もっと衛生環境の整った場所を推奨します」

「わ、私たち、愛し合って…ねえ」

「断っている声を無視する相手は、永遠に遠慮します」

「なによ…せっかく子種に選んであげたのに!」

言葉を吐き捨てた女は靴音を鳴らしながら消えた。
男は女を見て微笑みながら、歩いてくる。
そして、隣に立ち、誘うような笑みで止まった。

「ありがとうございます。
助かりました。リディ」

「いえ。どうして、こんな時間に、ここに?」

「仕事の帰りに酒の席で薬を盛られた…結果が。
まだ少し痺れが残っているから、宿まで支えてもらえると助かります」

「承りました。無事にシア様を送ります」

女が男の差し出した手をとり支える。
一歩進もうとすると、男が女の腰を抱き、寄せた。

「様はいらないと、あの時に言いました」

「あ…申し訳ありません」

「身分が変わっても主と慕ってくれるのは嬉しいですが…区別してください」

「はい。シアさん」

男は回答に満足し、足を動かした。
道中、あと少しで宿に着く直前。
別の女が男に危害を加えようと液体薬をまき散らす。
男を守るように液体薬をあびた護衛は、難が去った後、熱に浮かされたような目をした。
償いたいと誘う男の目を見て、うなずいた護衛に男は微笑む。
男女が揃ったように、まるで踊るように弾む足取りで歩く。

「昔を思い出します」

「今日は、二人だけの舞踏会…ですね」

互いに笑みを交わし、約束の宿の、扉の内側に消えた男女。
扉が開いたのは、五つ夜が明けた翌日だった。

一年後、彼らは公の舞踏会で再会した。
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