瞬く間に住む魔

秋赤音

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同じ傘の下で

3.当たり前の日常と

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夫妻で過ごす環境に慣れてきたのか、従者らしい緊張感は薄くなっているリディ。
ただの、どこにでもいる少女のような、女性のような表情が増えている。
言うと努めて気を引き締めそうなので、あえて言わないままだ。
従者と保護対象でなければ、貴族の頃にも見られたかもしれない無邪気な笑顔や睨み顔。
全てが愛しく、本当は誰にも見せたくない。
街を歩けば自然と集まってしまうリディへの視線が煩いので、睨む。
顔を青くして目を逸らす様にも苛立ちはする。
が、不機嫌になるリディが可愛らしく僕を呼ぶから一瞬で気にならなくなる。

「シアさん。ほどほどにしてください」

リディいわく、街の女性が僕を見て頬を染めているらしい。
羨ましいと叫ぶ不快な声と同じ者も混じっていると知り、さらに不快になった。
誰とでも交わす愛を繰り返す者たちの生きざまは、否定しない。
関わってこなければ問題ない。
ふと、隣をすぎる影が近くで止まる。

「おねーさん。そんなやつより、俺と遊ぼうよ」

関わらなければ、問題ない。
関わらなければ。
リディの腰を抱き寄せ、男から隠す。
すると聞こえた煩い声に周囲もざわめいている。

「妻に何か御用ですか」

できる限りの笑顔をはりつける。
すると、男は顔を青くして後ずさる。
よかった。
これでリディの前で汚いものを晒さなくていい。

「い、いえ。用ないですーーー」

腕の中で固まっているリディの聞き取れない声を聞きながら、逃げた男の背中を見送った。


帰宅して長椅子に座ると、隣に座ったリディが珍しく肩に頭を預けてきた。
傍で感じる温かさを味わいながら、髪を撫でる。

「私、は…シアさんの妻、です」

囁く声にまじる嬉しそうな色。
いまさらな言葉だが、偶然の重なりであり当たり前ではないことを思い出す。
幸せ。
共にいられる時間は貴重なものなんだ。

「はい。リディは僕の妻で、僕はリディの夫です。
リディだけを、永遠に愛しています」

「シアさん…私も、あいして…っ」

ほころび笑む頬を撫で、そっと唇を塞いだ。
いつもより感度もよく、積極的だった。
「たまには街中で体に触れるのもいいかもしれない」と言うと、拗ねるリディ。
少しだけだとお願いすると、「いいですが、たまには、です」と可愛く笑った。
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