瞬く間に住む魔

秋赤音

文字の大きさ
84 / 86
合いし愛して

5-1 両想い

しおりを挟む
フィーナと再会して6か月リンと再会して6か月が過ぎた。
穏やかな日々が続くと、虚しく奇跡を願ってしまった。
わかっていた。
でも、フィーナと過ごす時間に終わりの気配がすると辛くなる。リンと生きられる時間は思っていたよりも少ないのが悲しい。
ついに宣告された期日余命を大切に、できる限りを共に過ごす。
しかし、求めるものは当たり前の日常だけ。
知らないことを分かち合い、同じ景色を見て互いの感性で語り合う。
穏やかで、温かく、痛みまで分け合って、心通う時間を、少しでも長く。
俺たち私たちはこれでいい。
愛している。
愛している。
最後まで、生き別れても、フィーナリンを愛している。

夜ごとに交わり採取をする。
フィーナの細い体は日ごとに弱っていく。
互いに時間を惜しみながら、なにかに縋るように触手も使った体全てで、愛し合う。
フィーナの拍動を感じながら目覚めるリンリンの温もりに包まれて目覚めるフィーナは、安堵して身を寄せ合う。
涙の一滴までキスで吸い合って、昨日という1日の終わりと今日という始まりを祝う。

「「おはよう」」

重なる声に思わず瞬いて、惜しみながら離れて身を起こす。
必ず互いの気配が感じられる距離感で過ごす時間でしか安心できない。
そうまでしても安心しきれないのは、離れても必ず同じ場所に揃うのが当たり前と思えないから。
誰かが呑気に心配症と言ったとしても、俺たち私たちはこれでいい。

ある日。
フィーナが実家に呼び出された。
宣告されたとおりの5日後に帰ってきたが、元気になっているフィーナから思い出したくない香りをまとう。
消えたフィーナと再会した苦い記憶を思い出す。

フィーナが戻らないまま1ヶ月になった頃。
同じ頃に出会ったラフィーナと共に外出して街に出たが、別行動の後の待ち合わせに来ない。
すれ違ってはいけないと待っていると、近くで悲鳴が聞こえたので走る。
途中、ぶつかったフィーナを抱き寄せると、フィーナに混じる知らない香りに苛々する。
が、自分も同じだと気づき言葉を飲んだ。
同時に悲鳴の主がラフィーナだと気づいたが、声が遠くなった先を見てもすでに何処かへ消えていた。

「フィーナ、このまま帰りますか?買い物があれば言ってください」

「帰っていいの?」

「俺たちの家ですよね」

「そうね。私たちの家よ」

俺は悲鳴を聞かなかった事にしてフィーナと家に帰った。偶然に出会った人だから、偶然に別れるのも良いと思った。

あれから1年過ぎ、フィーナは3ヶ月に一度は実家へ行くようになった。
1か月すれば元気になって必ず帰ってくる。
俺はフィーナと俺の家で待っている。
一人の時間も考え方を変えて寂しさも凪いだ気持ちで受け入れられるようになった。
フィーナが帰った時も快適に過ごせるように手入れをして過ごす。
「必ず帰る」と言うフィーナを待てるのは、俺だけだから。と言い残して出かけられるのは、リンが待っているから。
「ただいま」と「おかえり」をあと何度繰り返せるだろう。
これが最後かもしれないと思いながら、次もあってほしいと願う瞬間に愛しい人を想う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

処理中です...