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アンバーの叫び声に、駆けつけてきたのは城の医師・コーネリアスだった。
長身に、肩までの黒髪を後ろで結び、眼鏡をかけた奥の瞳は水色だ。ストライプの白いシャツにネクタイ、濃紺のスラックスのコーネリアスは、昨夜舞踏会が行われた城にはふさわしくない現代的な格好だった。
コーネリアスは部屋のドアを乱暴に開けると、すぐさま使用人の女性に問い質した。
「どうしたんだ?!」
「わかりません、昨夜の舞踏会のお話をしたら突然悲鳴をあげて」
使用人の女性がオロオロしながらコーネリアスに説明をした。
「帰して!私を家に帰して!」
アンバーは泣きながら家に帰してくれと叫び続けた。
コーネリアスは叫び続けるアンバーのベッドまで近づき、「落ち着いて、お嬢さん」と、アンバーの血の気を失った両手をそっと握った。
溢れ落ちた涙に濡らされた青白い手が、徐々に柔らかなピンク色になる。
アンバーはコーネリアスの手がもたらす温かさに落ち着きを取り戻し始めた。
「私はこの城の医師でDr.コーネリアスです」と、名乗った。
「お・・お医者様・・?」
医師という身分に反応して、アンバーはコーネリアスに顔を向けた。
コーネリアスは使用人の女性に下がるように伝えると、使用人は一礼をして部屋から出ていった。
出ていく姿を見届け、コーネリアスは、アンバーの手を握ったまま、
「昨夜の舞踏会で何か嫌なことでもありましたか?・・その、・・無礼な真似をされたとか」
と、柔らかな表現で尋ねた。
アンバーは何か思い出したのか、大きく身震いをし、両手で自分の体を抱き締めた。そして、ゆっくりと言葉を発した。
「・・・い、犬に・・」
「犬?」
「犬に・・襲われたわ・・・」
アンバーは『犬に襲われた』と言うしかなかった。
例え城の医師でも、強要されたとは言え、どうして複数の犬と性的な関係を持ったと言えようか。ましてやそれを自らが受け入れてしまったなどと。
「城の中でですか?」
「そ、そうよ・・。ドレスを着替えようと連れていかれた部屋で・・」
「誰があなたを連れていったのですか?」
「ス、スタイリストと言ってた・・若い青年で・・・」
「僕だよ。コーネリアス」
聞き覚えのある声だった。アンバーの体が硬直するのがわかった。
アンバーは声の主を確かめはしなかった。出来なかったのだ。動けなかった。
恐怖が再び体を支配していた。
「ケイン様・・」
「コーネリアス、二人きりにしてくれないか」
「は、しかし」
「いや!行かないで!この人と二人にしないで!」
アンバーは震えながらコーネリアスの胸にしがみついた。
コーネリアスは震えて浅い呼吸を繰り返すアンバーを気遣って、「ケイン様、この方は興奮状態が酷いのです。落ち着かせますので部屋を出ていてもらえませんか?終わったら、そのあとにお呼びしますから」と、躊躇しつつ、医師として意見した。
ケインは二人を無表情に眺めていた。
コーネリアスならどんな人間でも完全に癒せる事ができるとケインは知っている。
なぜならコーネリアスは、かつては『癒しの大天使ラファエル』として、天界で活躍していたからだ。
この程度は簡単に癒せるだろう。
だが、その役目は僕のものだ。
アンバーを癒し庇護できるのは僕しかいないと刷り込まなければならない。
彼女はいま、雛鳥なのだ。
ケインはクスリと小さく笑った。
「僕は同じことを言うのが嫌いなんだが、もう一度だけ言おうか。コーネリアス・・・君が出ていきたまえ」
次はない━━
ケインの口調は強いものだった。
「いや!行かないで!」
アンバーはコーネリアスにしがみついて離れようとはしない。
ケインはため息をついて、指をパチンと鳴らした。
「アンバー、君がその男から離れないなら無理やり引き剥がすことになる。周りをごらん」
「ケイン様!?何を・・・!」
コーネリアスが驚きの声をあげた為、アンバーもしがみついていた力を緩め、わずかばかり周囲を確かめた。
唸り声がする。
まさか━━━
アンバーの全身から冷や汗が滲みでる。
ベッドの周囲、アンバーとコーネリアス二人を、数頭の黒犬が鋭い牙を剥き出しにして取り囲んでいる。
そのうちの一頭が、コーネリアスの足を噛んでいた。
長身に、肩までの黒髪を後ろで結び、眼鏡をかけた奥の瞳は水色だ。ストライプの白いシャツにネクタイ、濃紺のスラックスのコーネリアスは、昨夜舞踏会が行われた城にはふさわしくない現代的な格好だった。
コーネリアスは部屋のドアを乱暴に開けると、すぐさま使用人の女性に問い質した。
「どうしたんだ?!」
「わかりません、昨夜の舞踏会のお話をしたら突然悲鳴をあげて」
使用人の女性がオロオロしながらコーネリアスに説明をした。
「帰して!私を家に帰して!」
アンバーは泣きながら家に帰してくれと叫び続けた。
コーネリアスは叫び続けるアンバーのベッドまで近づき、「落ち着いて、お嬢さん」と、アンバーの血の気を失った両手をそっと握った。
溢れ落ちた涙に濡らされた青白い手が、徐々に柔らかなピンク色になる。
アンバーはコーネリアスの手がもたらす温かさに落ち着きを取り戻し始めた。
「私はこの城の医師でDr.コーネリアスです」と、名乗った。
「お・・お医者様・・?」
医師という身分に反応して、アンバーはコーネリアスに顔を向けた。
コーネリアスは使用人の女性に下がるように伝えると、使用人は一礼をして部屋から出ていった。
出ていく姿を見届け、コーネリアスは、アンバーの手を握ったまま、
「昨夜の舞踏会で何か嫌なことでもありましたか?・・その、・・無礼な真似をされたとか」
と、柔らかな表現で尋ねた。
アンバーは何か思い出したのか、大きく身震いをし、両手で自分の体を抱き締めた。そして、ゆっくりと言葉を発した。
「・・・い、犬に・・」
「犬?」
「犬に・・襲われたわ・・・」
アンバーは『犬に襲われた』と言うしかなかった。
例え城の医師でも、強要されたとは言え、どうして複数の犬と性的な関係を持ったと言えようか。ましてやそれを自らが受け入れてしまったなどと。
「城の中でですか?」
「そ、そうよ・・。ドレスを着替えようと連れていかれた部屋で・・」
「誰があなたを連れていったのですか?」
「ス、スタイリストと言ってた・・若い青年で・・・」
「僕だよ。コーネリアス」
聞き覚えのある声だった。アンバーの体が硬直するのがわかった。
アンバーは声の主を確かめはしなかった。出来なかったのだ。動けなかった。
恐怖が再び体を支配していた。
「ケイン様・・」
「コーネリアス、二人きりにしてくれないか」
「は、しかし」
「いや!行かないで!この人と二人にしないで!」
アンバーは震えながらコーネリアスの胸にしがみついた。
コーネリアスは震えて浅い呼吸を繰り返すアンバーを気遣って、「ケイン様、この方は興奮状態が酷いのです。落ち着かせますので部屋を出ていてもらえませんか?終わったら、そのあとにお呼びしますから」と、躊躇しつつ、医師として意見した。
ケインは二人を無表情に眺めていた。
コーネリアスならどんな人間でも完全に癒せる事ができるとケインは知っている。
なぜならコーネリアスは、かつては『癒しの大天使ラファエル』として、天界で活躍していたからだ。
この程度は簡単に癒せるだろう。
だが、その役目は僕のものだ。
アンバーを癒し庇護できるのは僕しかいないと刷り込まなければならない。
彼女はいま、雛鳥なのだ。
ケインはクスリと小さく笑った。
「僕は同じことを言うのが嫌いなんだが、もう一度だけ言おうか。コーネリアス・・・君が出ていきたまえ」
次はない━━
ケインの口調は強いものだった。
「いや!行かないで!」
アンバーはコーネリアスにしがみついて離れようとはしない。
ケインはため息をついて、指をパチンと鳴らした。
「アンバー、君がその男から離れないなら無理やり引き剥がすことになる。周りをごらん」
「ケイン様!?何を・・・!」
コーネリアスが驚きの声をあげた為、アンバーもしがみついていた力を緩め、わずかばかり周囲を確かめた。
唸り声がする。
まさか━━━
アンバーの全身から冷や汗が滲みでる。
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