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『君は城の舞踏会で踊っただけだ。誰がいて、どんな者達が集って何が起きたか話してはいけない』
何が起きたか?
言わない。言えるわけがない。
けれどこれで帰れるのだ。
忘れてしまおう。
全部夢だったのだ。
非日常の世界を断ち切って、いつもの自分の日常に帰ろう。
ケインと最後の繋がりを持ち、アンバーは一緒に来ていた叔父の車で、共に帰ることとなった。
やけに霧が出ている。
何もなかったらロマンチックだと思ったかもしれない。
城の使用人の女性が二人ほど見送りに来ており、「舞踏会に参加して頂きありがとうございました」と、にこやかに一礼をした。
叔父のカール・シュワルツは、城の従者らしき背の高い男と話をしている。
何かを手渡されて、二人は互いに挨拶をかわし、叔父はアンバーの元へと戻ってきた。
「車をもってくるから少し待っててくれるかい?」
「いいえ!駐車場所まで歩くわ」
アンバーは一刻も早く城から離れたかった。
車の置いてある場所まで二~三分歩いただけなのに、振り返ると城がやけに遠くに見える。
霧が濃くなり辺りを包む。城はあっという間に見えなくなってしまった。
「大丈夫かい?びっくりしたよ。具合が悪くて別の部屋でずっと休んでいたなんて。すまなかったね、気づかなくて」
車を運転するアンバーの叔父、カール・シュワルツが後部座席でだるそうに背もたれているアンバーに話しかけた。
母親の兄にあたるカールは若い頃は音楽家だったが、勉強をしなおして経済学を学び大学教授となった、アンバーの尊敬する人でもあった。
「いいのよ。酔っただけよ。お酒を飲んで踊ったから余計に酔ってしまったんだわ」
「私はどちらにしろ仕事で参加は昨夜だけだったからいいが、アンバーはもう少しいたかったんじゃないのか?舞踏会は趣向を違えて三日三晩続くから」
「いいえ、もう十分楽しんだわ。ありがとう、おじ様。私少し眠るわ」
アンバーは体を横にした。
「ああ、着いたら起こすよ」
カール・シュワルツはバックミラーでアンバーの様子を覗いていた。
━━メスの匂いがする。
どうやらずいぶん可愛がってもらったようだな。
下卑いた視線でニヤリと笑みをつくったカールの顔は、血の繋がった姪を見る表情ではなかった。
魔界の饗宴と知って参加したカールは、悪神サタンに忠誠を誓った悪魔信仰者だ。人脈を広げ、生け贄を得るために大学教授になり、既に多数の女子学生を毒牙にかけていた。
今回は、たまたまアンバーが舞踏会に行きたいといったので、生け贄として連れていったのだ。
多数の学生達を毒牙にかけても何一つ問題にならなかったのは、ほとんどの者が一般社会に戻っているからだ。
大概は人間としての尊厳と心を悪魔に奪われ、記憶を消されて人間界に戻される。
帰されない者は、ショックが大きく気の触れた者、記憶の消去が難しかった者だ。これらの者達は肉体も魂も奪われて魔界で奴隷となり、例え死んだとしても人間に生まれ変わることは不可能となる。
人間に生まれ変わるには、冥界を通じて、魂は天界の神の元に召されなければならないからだ。
カールは後部座席で眠りについたアンバーの発する匂いにとらわれていた。
悪魔と肉体の交わりを行った者は独特の匂いを発することがあった。時間がたてば薄れるが、これだけ芳しい匂いだと今朝も交わったはずだ。そして、ある程度上級の悪魔のはずだ。
それにしても昨夜の饗宴ではどういった連中に凌辱されたのだろうか。
そこに自分がいなかったことが残念だった。
どうせ記憶を消すのだから、思い切り━━━
カールの心はざわついた。
体中の血液が沸き上がる感覚に襲われて熱くなった。
このまままっすぐ山を降りればこんなチャンスはもうないかもしれない。
カールはハンドルを左にきった。山の中に入っていく道を選んだ。
城の従者に、アンバーに対して"決して邪な思いを抱くな"と言われた。
恐らくアンバーに手をつけた悪魔はそこそこ名の知れた悪魔だったのだろう。だから所有権を振りかざしたい為に手を出すなと釘を打ってきたのだとカールは思った。
しかし、カールが直接仕えている悪魔はベルゼブブだ。魔界の四大実力者の位置にいる。何かあっても大抵の悪魔はベルゼブブの名を聞くだけで逃げ去る。
そうだ。私にはベルゼブブ様がついている。
悪魔のお手付きで一般社会に戻されるのだ。これからは激しい性欲を満たすためにサバトに出入りしなくてはならない。どうせ男あさりをする運命だ。それならいま自分が満たしてやってもよいではないか。
山の中の道ともいえない道を走り、カールは車を止めた。
鬱蒼とした木々が日の光を遮る。
カールは後部座席に移動して、眠っているアンバーのブラウスのボタンを外して、なだらかな丸みを帯びた胸を露にさせた。
何が起きたか?
言わない。言えるわけがない。
けれどこれで帰れるのだ。
忘れてしまおう。
全部夢だったのだ。
非日常の世界を断ち切って、いつもの自分の日常に帰ろう。
ケインと最後の繋がりを持ち、アンバーは一緒に来ていた叔父の車で、共に帰ることとなった。
やけに霧が出ている。
何もなかったらロマンチックだと思ったかもしれない。
城の使用人の女性が二人ほど見送りに来ており、「舞踏会に参加して頂きありがとうございました」と、にこやかに一礼をした。
叔父のカール・シュワルツは、城の従者らしき背の高い男と話をしている。
何かを手渡されて、二人は互いに挨拶をかわし、叔父はアンバーの元へと戻ってきた。
「車をもってくるから少し待っててくれるかい?」
「いいえ!駐車場所まで歩くわ」
アンバーは一刻も早く城から離れたかった。
車の置いてある場所まで二~三分歩いただけなのに、振り返ると城がやけに遠くに見える。
霧が濃くなり辺りを包む。城はあっという間に見えなくなってしまった。
「大丈夫かい?びっくりしたよ。具合が悪くて別の部屋でずっと休んでいたなんて。すまなかったね、気づかなくて」
車を運転するアンバーの叔父、カール・シュワルツが後部座席でだるそうに背もたれているアンバーに話しかけた。
母親の兄にあたるカールは若い頃は音楽家だったが、勉強をしなおして経済学を学び大学教授となった、アンバーの尊敬する人でもあった。
「いいのよ。酔っただけよ。お酒を飲んで踊ったから余計に酔ってしまったんだわ」
「私はどちらにしろ仕事で参加は昨夜だけだったからいいが、アンバーはもう少しいたかったんじゃないのか?舞踏会は趣向を違えて三日三晩続くから」
「いいえ、もう十分楽しんだわ。ありがとう、おじ様。私少し眠るわ」
アンバーは体を横にした。
「ああ、着いたら起こすよ」
カール・シュワルツはバックミラーでアンバーの様子を覗いていた。
━━メスの匂いがする。
どうやらずいぶん可愛がってもらったようだな。
下卑いた視線でニヤリと笑みをつくったカールの顔は、血の繋がった姪を見る表情ではなかった。
魔界の饗宴と知って参加したカールは、悪神サタンに忠誠を誓った悪魔信仰者だ。人脈を広げ、生け贄を得るために大学教授になり、既に多数の女子学生を毒牙にかけていた。
今回は、たまたまアンバーが舞踏会に行きたいといったので、生け贄として連れていったのだ。
多数の学生達を毒牙にかけても何一つ問題にならなかったのは、ほとんどの者が一般社会に戻っているからだ。
大概は人間としての尊厳と心を悪魔に奪われ、記憶を消されて人間界に戻される。
帰されない者は、ショックが大きく気の触れた者、記憶の消去が難しかった者だ。これらの者達は肉体も魂も奪われて魔界で奴隷となり、例え死んだとしても人間に生まれ変わることは不可能となる。
人間に生まれ変わるには、冥界を通じて、魂は天界の神の元に召されなければならないからだ。
カールは後部座席で眠りについたアンバーの発する匂いにとらわれていた。
悪魔と肉体の交わりを行った者は独特の匂いを発することがあった。時間がたてば薄れるが、これだけ芳しい匂いだと今朝も交わったはずだ。そして、ある程度上級の悪魔のはずだ。
それにしても昨夜の饗宴ではどういった連中に凌辱されたのだろうか。
そこに自分がいなかったことが残念だった。
どうせ記憶を消すのだから、思い切り━━━
カールの心はざわついた。
体中の血液が沸き上がる感覚に襲われて熱くなった。
このまままっすぐ山を降りればこんなチャンスはもうないかもしれない。
カールはハンドルを左にきった。山の中に入っていく道を選んだ。
城の従者に、アンバーに対して"決して邪な思いを抱くな"と言われた。
恐らくアンバーに手をつけた悪魔はそこそこ名の知れた悪魔だったのだろう。だから所有権を振りかざしたい為に手を出すなと釘を打ってきたのだとカールは思った。
しかし、カールが直接仕えている悪魔はベルゼブブだ。魔界の四大実力者の位置にいる。何かあっても大抵の悪魔はベルゼブブの名を聞くだけで逃げ去る。
そうだ。私にはベルゼブブ様がついている。
悪魔のお手付きで一般社会に戻されるのだ。これからは激しい性欲を満たすためにサバトに出入りしなくてはならない。どうせ男あさりをする運命だ。それならいま自分が満たしてやってもよいではないか。
山の中の道ともいえない道を走り、カールは車を止めた。
鬱蒼とした木々が日の光を遮る。
カールは後部座席に移動して、眠っているアンバーのブラウスのボタンを外して、なだらかな丸みを帯びた胸を露にさせた。
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