【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

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81. 捨てられぬ思い (1)

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みふゆが心配げに一度振り向いた。
胡蝶は淑やかに微笑み手を振った。
みふゆと会長・惣領貴之が場を離れたのを確認すると、胡蝶はようやく口を開いた。

「京司朗」
「はい」
「あの、注意してあげなさい」
「みふゆさんですか?」
「・・名前で呼ぶようになったのね」
つい最近まで『お嬢さん』と呼んでいたのに。
「『お嬢さん』と呼ぶと『気恥ずかしい』と言われたので」
胡蝶はその時のみふゆを想像して「そう、」とクスリと笑い、少しの間、胡蝶は沈黙を続けた。
京司朗は不思議に思い、胡蝶に問いかけようとしたが、
「・・・あの、寂しさに慣れすぎてて危ういわ。ほんの少しのことでふらりと飛び降りてしまうわよ」
と、ため息まじりに言った。
「━━━━━」
「あのを一人にさせないようにしなさい」
「わかりました」
「強引でもすぐに会長の屋敷に住まわせた方がいいのだけど。楓や黒岩にも注意するように私から伝えておきます」
「はい。・・では会長の耳にも入れたほうが」
「いいえ。そんなことをしたらかわいさのあまり、あの娘を閉じ込めかねない。束縛してしまうでしょう。それでは逆効果よ。亀裂が入ってしまうわ。だから周りが気をつけなければ。私はね、会長には昔のような思いはもうさせたくないのよ。大切な人を失わせたくないの」
「昔のような思い・・」
事故に見せかけて殺された、
会長の夫人と子供━━━━

「・・お前も・・家族を突然失う辛さはわかるでしょう?」

胡蝶は去り際に京司朗に言葉を残した。



京司朗の両親は心中だった。
発見したのは小学四年の京司朗だった。
学校から帰ってきた京司朗が、首をつっている父親と、血の海で事切れた母親をみつけたのだ。

京司朗の心を襲ったのは、家族を突然失った辛さよりも、父親を裏切ってしまった自責の念と、裏切られた悔しさと怒りだった。

この事態は両親からの罰なのだと京司朗は思った。

例え子供だった自分が騙されたのだとはいえ、父親を追い込んでしまったのは自分だったのだから。

京司朗を騙し、父親の会社の重要な情報を盗みとったのは、誰からも信頼されていた、真面目な優しい女だった。
京司朗自身、その女にとても懐いていたが、女のそれは、全て演技だった。女の心根は醜い塊だった。

京司朗がそれに気づいた時は、もう何もかも遅かったのだ。



京司朗は去っていく胡蝶の後ろ姿を見ていた。
胡蝶の向こう側に惣領貴之とみふゆが仲睦まじくバラを見ているのが京司朗の瞳に映っていた。





「オスカル・フランソワとアンドレ・グランディエです。濃いピンクが王妃アントワネットです」
飛田さんが案内してくれたコーナーには三種類のバラがあった。
「きれいな白ですねぇ。オスカル様そのものです。わたし、アントワネットは真っ赤なイメージがあったけど・・、この濃いピンクもすごく素敵。ネットの画面で見るよりもずっと素敵な色です」
「作ったのはフランスの名門・メイアン社ですし、原作者の方が監修にはいってますから。日本では京成バラ園(千葉県)が関わっていてサイトにはバラが作られた経緯も載っていますね」
「いつか京成バラ園も行ってみたいです」
あこがれのバラ園のひとつだもの。
「なんだ、行きてえなら連れてってやるぞ。いつがいい?・・・っつても満開はもう過ぎたか・・?」

「バラは冬まで咲いてますわよ」

胡蝶さんが戻ってきた。

若頭は・・、電話してる。忙しい人だなぁ。
あれだけ忙しいと、花を見るのもスケジュールでも組まないと無理そう。

「で、いつ行く?」

「え!?どこに??」
急に話をふられてわたしはビックリした。
「京成バラ園」
「え・・・?」
「会長、いまはバラ選びをしてくださいな。あれこれ多すぎて、みふゆちゃんが迷ってしまいますでしょ?」
「お、おう、そうか、そうだな」
組長先生がしゅんとしてる。珍しい。
わたしは口元を手でかくし、ひそかに笑った。
もしかして一番強いのは胡蝶さんかもしれない。
「飛田、新しいバラが咲いたと言ってたわね。見せてくれる?」
「はい、こちらです」

飛田さんがさらに奥へと案内してくれた。
扉があった。
別棟があるっぽいな。研究用とか。

飛田さんが扉の横のスイッチを押すと、扉が自動で横に開いた。すごい。
飛田さんのための扉かな?

別棟に入るとまた様々なバラがあった。

飛田さんはそのなかでも白いバラのコーナーにわたし達を案内した。

そこには小ぶりの、咲きかけた白いバラがあった。








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