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125. 失われた記憶
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唐突に開いた瞳に写ったのは白い天井だった。
見覚えがある。
お屋敷の藤の間の天井だ。
「・・・・・?」
夢??
今は何時??
仕事は?休日?公休日?
頭のなかに矢継ぎ早に沸き上がる疑問は、あちらこちらにとっ散らかって、みふゆは体を起こした。
ふらつく。熱が出たのか。いったいいつ?
みふゆはこれまでの人生で、度々こんな風に発熱を経験している。
霊的な能力を使ったあとに現れる症状は、物理的身体の限界値を示す。
けれど、なんだろう?
何か大きな予知をした?
憑き物祓った?熱が出るほど連続で祓ったわけじゃないのに・・
━━━━ああ、そういえば支店に来た怪しい茶髪男がわたしにコーヒーをかけようとしたのを予知した。
みふゆに思いあたるのは今はそれくらいだった。
━━━━でもあの程度で熱を出すなんて。
見たくないものが見えてしまう苦しさは、自己の精神に大きく負担となってきた。しかし、危険を回避という点では、自身の役にたってきた部分もある。
「時間・・」
みふゆはスマホを探した。
辺りを見回しバッグをみつけた。
ソファの上にあり、横には医療カートがあった。
何故ここにある?
ベッドのヘッドボードの後ろには点滴のスタンド。
「???」
ほんとは病院の部屋?・・そんなわけない。
みふゆはゆっくり起き上がり、ベッドから足をおろした。
体が重い。クラクラする。
スーッとドアが開く気配にみふゆは動きを止めた。
「・・まあ、よかったわ。目が覚めたのね」
胡蝶が淑やかな笑みで現れた。着物に白い割烹着を着用している。
「胡蝶さん・・」
「どうしたの?トイレ?」
「バッグを・・。何時かと思って・・。スマホで確認しようと・・・」
「バッグはとってあげるわ。まだ起きちゃだめよ。高熱が出たあとなのよ」
「高熱?」
「そうよ。車の中で熱が出て、ここに着いてから一気に40度まであがったのよ」
胡蝶はたおやかに微笑み、何があったのかを教えてくれ、バッグをみふゆに渡してくれた。
みふゆはバッグを受け取り、ぼんやりとして
「40度・・」
と、呟いた。
「さあ、ベッドにちゃんと入って」
胡蝶の言うとおり、バッグからスマホを出してからみふゆはベッドに入った。
「胡蝶さん、車の中って・・」
「駅前プラザに行く途中よ。熱が出たからプラザには行かずに屋敷に帰ってきたの。道路の冠水も解消されてきてるしね」
「駅前プラザ・・?」
「ええ、避難所を手伝いに行くはずだったのでしょ?」
「避難所・・?避難所って・・、何かあったんですか?」
淑やかな笑みの胡蝶の表情が変わった。
本郷二条総合病院の特別室の関係者は、誰にも知られず病院から出ることができる。専用の地下駐車場から私道を通り、一般道へと抜けることができるのだ。この日、貴之もそのような形で一般道、国道へと出た。
運転手の桐島が、「屋敷に戻られますか?」と聞くと、貴之は考えたあと、
「いや、京司朗のマンションに行ってくれ」と言った。
京司朗のマンションに置いてあるみふゆの荷物を持ってこなくては。自宅から持ちだしたふたつのバッグの中身は恐らく愛着のあるものだ。
長年使ってきたものがそばにあったほうが気持ちも落ち着くはずだ。
それにしても、と貴之は思った。
貴之は京司朗と三上におおまかな報告をさせていた。
報告の中には『十二単の女』と『顔の見えない男』の報告もあった。
京司朗も三上も、『十二単の女』に助けられたと言っていた。
食い違いがあるとすれば、京司朗は『十二単の女』と呼び、三上は『十二単の少女』と言っていた点だった。
現れたのは間違いなく水無瀬礼夏だ。
みふゆの母親、貴之の愛した女。
男の方は風見順だ。いつも礼夏のそばにいた男だ。礼夏に付き従い、守り、礼夏のために死んでいった男。礼夏に忠誠を誓った男。
死んでもなお礼夏を守り付き従っているのか。
懐の電話が鳴った。
胡蝶からだった。
「どうした?何かあったか?」
《会長、いまどちらにいらっしゃいますの?》
「京司朗のマンションにみふゆの荷物を取りに行ってくる。そのあと屋敷に戻る」
《そうですか、ではお待ちしてますわ》
「なんだ?みふゆに何かあったのか?」
《・・それが・・電話では詳しくは・・・》
胡蝶の口が珍しく重くなった。
「何があった」
《まだ・・、はっきりとはしないのですが・・・》
ためらう胡蝶の声が、貴之の耳にひとつの事実を伝えた。
みふゆの記憶が失われている━━━━と。
唐突に開いた瞳に写ったのは白い天井だった。
見覚えがある。
お屋敷の藤の間の天井だ。
「・・・・・?」
夢??
今は何時??
仕事は?休日?公休日?
頭のなかに矢継ぎ早に沸き上がる疑問は、あちらこちらにとっ散らかって、みふゆは体を起こした。
ふらつく。熱が出たのか。いったいいつ?
みふゆはこれまでの人生で、度々こんな風に発熱を経験している。
霊的な能力を使ったあとに現れる症状は、物理的身体の限界値を示す。
けれど、なんだろう?
何か大きな予知をした?
憑き物祓った?熱が出るほど連続で祓ったわけじゃないのに・・
━━━━ああ、そういえば支店に来た怪しい茶髪男がわたしにコーヒーをかけようとしたのを予知した。
みふゆに思いあたるのは今はそれくらいだった。
━━━━でもあの程度で熱を出すなんて。
見たくないものが見えてしまう苦しさは、自己の精神に大きく負担となってきた。しかし、危険を回避という点では、自身の役にたってきた部分もある。
「時間・・」
みふゆはスマホを探した。
辺りを見回しバッグをみつけた。
ソファの上にあり、横には医療カートがあった。
何故ここにある?
ベッドのヘッドボードの後ろには点滴のスタンド。
「???」
ほんとは病院の部屋?・・そんなわけない。
みふゆはゆっくり起き上がり、ベッドから足をおろした。
体が重い。クラクラする。
スーッとドアが開く気配にみふゆは動きを止めた。
「・・まあ、よかったわ。目が覚めたのね」
胡蝶が淑やかな笑みで現れた。着物に白い割烹着を着用している。
「胡蝶さん・・」
「どうしたの?トイレ?」
「バッグを・・。何時かと思って・・。スマホで確認しようと・・・」
「バッグはとってあげるわ。まだ起きちゃだめよ。高熱が出たあとなのよ」
「高熱?」
「そうよ。車の中で熱が出て、ここに着いてから一気に40度まであがったのよ」
胡蝶はたおやかに微笑み、何があったのかを教えてくれ、バッグをみふゆに渡してくれた。
みふゆはバッグを受け取り、ぼんやりとして
「40度・・」
と、呟いた。
「さあ、ベッドにちゃんと入って」
胡蝶の言うとおり、バッグからスマホを出してからみふゆはベッドに入った。
「胡蝶さん、車の中って・・」
「駅前プラザに行く途中よ。熱が出たからプラザには行かずに屋敷に帰ってきたの。道路の冠水も解消されてきてるしね」
「駅前プラザ・・?」
「ええ、避難所を手伝いに行くはずだったのでしょ?」
「避難所・・?避難所って・・、何かあったんですか?」
淑やかな笑みの胡蝶の表情が変わった。
本郷二条総合病院の特別室の関係者は、誰にも知られず病院から出ることができる。専用の地下駐車場から私道を通り、一般道へと抜けることができるのだ。この日、貴之もそのような形で一般道、国道へと出た。
運転手の桐島が、「屋敷に戻られますか?」と聞くと、貴之は考えたあと、
「いや、京司朗のマンションに行ってくれ」と言った。
京司朗のマンションに置いてあるみふゆの荷物を持ってこなくては。自宅から持ちだしたふたつのバッグの中身は恐らく愛着のあるものだ。
長年使ってきたものがそばにあったほうが気持ちも落ち着くはずだ。
それにしても、と貴之は思った。
貴之は京司朗と三上におおまかな報告をさせていた。
報告の中には『十二単の女』と『顔の見えない男』の報告もあった。
京司朗も三上も、『十二単の女』に助けられたと言っていた。
食い違いがあるとすれば、京司朗は『十二単の女』と呼び、三上は『十二単の少女』と言っていた点だった。
現れたのは間違いなく水無瀬礼夏だ。
みふゆの母親、貴之の愛した女。
男の方は風見順だ。いつも礼夏のそばにいた男だ。礼夏に付き従い、守り、礼夏のために死んでいった男。礼夏に忠誠を誓った男。
死んでもなお礼夏を守り付き従っているのか。
懐の電話が鳴った。
胡蝶からだった。
「どうした?何かあったか?」
《会長、いまどちらにいらっしゃいますの?》
「京司朗のマンションにみふゆの荷物を取りに行ってくる。そのあと屋敷に戻る」
《そうですか、ではお待ちしてますわ》
「なんだ?みふゆに何かあったのか?」
《・・それが・・電話では詳しくは・・・》
胡蝶の口が珍しく重くなった。
「何があった」
《まだ・・、はっきりとはしないのですが・・・》
ためらう胡蝶の声が、貴之の耳にひとつの事実を伝えた。
みふゆの記憶が失われている━━━━と。
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