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128. 夢か現か
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「そんなに状態がよくないのか・・!?」
大塚は京司朗の切羽詰まった声を初めて聞いた気がした。
「俺はまだ診てないからなんとも言えんが、記憶障害を起こしていると胡蝶さんから連絡があった」
「記憶障害・・?」
「ここ、二~三日の記憶がない。熱が40度まで一気にあがったそうだから考えられる原因は高熱だろうな。どっちにしろ精密検査が必要だ」
煙草を携帯灰皿に押し付け、大塚が立ち上がった。
「記憶は・・戻るのか・・」
「わからんな。空の食器よこせ。下げるから」
大塚は食事の終わった京司朗の食器をカートに乗せた。昼食は全てたいらげている。食欲は落ちてはいなさそうだ。カートの食事量記入用紙にチェックし、記入者氏名に大塚は自身の名のサインをいれた。
「お前は10時退院で、お嬢ちゃんの入院は明日の午後だ。検査には必ず俺と胡蝶さんもつくことになってる。付き添いは胡蝶さんと楓さんだ。まあ、惣領も付き添うって言ってるがな」
大塚はカートを押しながら病室を出ていった。
目が覚めてるのに、夢の中にいるようだ。
浮遊感があるのに、体を起こそうと思っても自由にならない。だるい。ひたすらだるい。
最初に目覚めたときは動けたのに。
みふゆは、いまは一人で起きるのも困難になった。
ほんのちょっと前、大塚クリニックから看護師が来ていた。胡蝶の指示のもと導尿の処置がされたのだ。
みふゆは両手を天井に向けて伸ばしてみる。
━━━━腕はちゃんと動く。指は?指はちゃんと動く?
グーとパーを繰り返し、指が動くのも確認してから腕をおろした。
━━━━生きてはいるみたいだ。でも、・・本当に・・?本当は夢の中で生きてるふりをしてるだけなんじゃ・・?
胡蝶が点滴の準備をしながら、みふゆに明日の入院を話した。
「入院・・ですか?」
「そうよ。40度も熱があがったんですもの」
「・・わかりました。・・・でも、あの、若頭、大丈夫なんですか?」
「ええ、大丈夫よ。安心して」
胡蝶が微笑み、みふゆは安心した。
「・・わたし、おかしくないですか・・?」
「どうしたの?急に」
「自分でおかしい気がするんです。なんだか・・」
「なんだか?」
「頭のネジが緩んでるというか一本足りないというか・・・・ふわふわした感じで、夢なのか現実なのか・・もしかしてもう死んでて・・・神様が最後にわたしに都合のいい夢を見せてるんじゃないかって・・家にわたしの死体があるのかもしれない」
みふゆはもう一度腕を伸ばした。
「ちゃんと生きてるわよ。ほら」
胡蝶がみふゆの伸ばした手を両手でそっと握りしめた。
「あたたかいでしょう?」
胡蝶の柔らかな手と温もり。
「・・はい。・・あたたかいです」
「大丈夫。あなたの家はここよ。あなたには会長がついているし、私達もいるわ。病院は惣領の事業のひとつで、屋敷で働いてる皆も通ったりしてる病院よ。検査には私と大塚クリニックの大塚もつくから安心して。大塚のことは覚えてる?」
「はい。・・木が倒れた時に・・・。組長先生、心臓大丈夫なんですか?」
「心臓?会長はどこも悪くないから安心していいのよ。心臓なんか三個あるんじゃないかってくらい丈夫なひとよ。あんな丈夫で健康な人はなかなかいないわよ?」
みふゆは笑った。
「じゃあ、安心です。・・・眠っていいですか?」
「いいわよ」
「胡蝶さん」
「なあに?」
「・・・若頭、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。だから安心して」
「よかったです。ありがとうございます・・・おやすみなさい」
「おやすみなさい」
胡蝶はみふゆの布団を少し直して部屋から出た。扉を閉めようとして、手を止めた。『開けっ放しにしてほしい』とのみふゆの言葉を思い出した。
部屋の入り口の横に、貴之が腕組みをして壁にもたれて立っていた。
「聞いたでしょう?」
リビングで貴之と胡蝶が話している。
「ああ」
「あんな風に会話の所々に京司朗を心配する言葉が出てくるのよ」
「ああ」
「会長のことも心配してたわね。心臓ってどういうこと?」
「ありゃ大塚の悪ふざけだ。何回か聞かれてどこも悪くないと説明したんだが・・」
「でも・・ずっと気になってたんでしょうね。ご両親が若くして病気で亡くなっているから、いつも『もしかしたら』って気持ちがあったのかもしれないわね。お二人とも30代で亡くなったのでしょう?」
「ああ。・・くそっ、大塚の野郎、ぶった斬ってやる」
「斬るのは検査が終わってからにしてくださいな。それより車椅子を準備しないといけないわ。福祉用具会社の佐原に連絡して持ってくるように言ってくれないかしら?」
「ああ、あと必要なものはあるか?」
「あとはいいわ。着替えは楓と私とで揃えるし。そうそう、堀内にも連絡お願いね。あれでもみふゆちゃんの雇用主ですからね」
「雇用主・・か」
そいつが問題なんだ━━━━
堀内は未だにみふゆをあきらめてはいない。
貴之はかねてから、堀内花壇を辞めさせることはできないかと考えてきた。
ただ、みふゆ自身は花屋の仕事を気に入っている。
だから圧力をかけるのは控えてきたが、みふゆの健康状態を理由に、退職に持っていくことはできないものか。
「そんなに状態がよくないのか・・!?」
大塚は京司朗の切羽詰まった声を初めて聞いた気がした。
「俺はまだ診てないからなんとも言えんが、記憶障害を起こしていると胡蝶さんから連絡があった」
「記憶障害・・?」
「ここ、二~三日の記憶がない。熱が40度まで一気にあがったそうだから考えられる原因は高熱だろうな。どっちにしろ精密検査が必要だ」
煙草を携帯灰皿に押し付け、大塚が立ち上がった。
「記憶は・・戻るのか・・」
「わからんな。空の食器よこせ。下げるから」
大塚は食事の終わった京司朗の食器をカートに乗せた。昼食は全てたいらげている。食欲は落ちてはいなさそうだ。カートの食事量記入用紙にチェックし、記入者氏名に大塚は自身の名のサインをいれた。
「お前は10時退院で、お嬢ちゃんの入院は明日の午後だ。検査には必ず俺と胡蝶さんもつくことになってる。付き添いは胡蝶さんと楓さんだ。まあ、惣領も付き添うって言ってるがな」
大塚はカートを押しながら病室を出ていった。
目が覚めてるのに、夢の中にいるようだ。
浮遊感があるのに、体を起こそうと思っても自由にならない。だるい。ひたすらだるい。
最初に目覚めたときは動けたのに。
みふゆは、いまは一人で起きるのも困難になった。
ほんのちょっと前、大塚クリニックから看護師が来ていた。胡蝶の指示のもと導尿の処置がされたのだ。
みふゆは両手を天井に向けて伸ばしてみる。
━━━━腕はちゃんと動く。指は?指はちゃんと動く?
グーとパーを繰り返し、指が動くのも確認してから腕をおろした。
━━━━生きてはいるみたいだ。でも、・・本当に・・?本当は夢の中で生きてるふりをしてるだけなんじゃ・・?
胡蝶が点滴の準備をしながら、みふゆに明日の入院を話した。
「入院・・ですか?」
「そうよ。40度も熱があがったんですもの」
「・・わかりました。・・・でも、あの、若頭、大丈夫なんですか?」
「ええ、大丈夫よ。安心して」
胡蝶が微笑み、みふゆは安心した。
「・・わたし、おかしくないですか・・?」
「どうしたの?急に」
「自分でおかしい気がするんです。なんだか・・」
「なんだか?」
「頭のネジが緩んでるというか一本足りないというか・・・・ふわふわした感じで、夢なのか現実なのか・・もしかしてもう死んでて・・・神様が最後にわたしに都合のいい夢を見せてるんじゃないかって・・家にわたしの死体があるのかもしれない」
みふゆはもう一度腕を伸ばした。
「ちゃんと生きてるわよ。ほら」
胡蝶がみふゆの伸ばした手を両手でそっと握りしめた。
「あたたかいでしょう?」
胡蝶の柔らかな手と温もり。
「・・はい。・・あたたかいです」
「大丈夫。あなたの家はここよ。あなたには会長がついているし、私達もいるわ。病院は惣領の事業のひとつで、屋敷で働いてる皆も通ったりしてる病院よ。検査には私と大塚クリニックの大塚もつくから安心して。大塚のことは覚えてる?」
「はい。・・木が倒れた時に・・・。組長先生、心臓大丈夫なんですか?」
「心臓?会長はどこも悪くないから安心していいのよ。心臓なんか三個あるんじゃないかってくらい丈夫なひとよ。あんな丈夫で健康な人はなかなかいないわよ?」
みふゆは笑った。
「じゃあ、安心です。・・・眠っていいですか?」
「いいわよ」
「胡蝶さん」
「なあに?」
「・・・若頭、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。だから安心して」
「よかったです。ありがとうございます・・・おやすみなさい」
「おやすみなさい」
胡蝶はみふゆの布団を少し直して部屋から出た。扉を閉めようとして、手を止めた。『開けっ放しにしてほしい』とのみふゆの言葉を思い出した。
部屋の入り口の横に、貴之が腕組みをして壁にもたれて立っていた。
「聞いたでしょう?」
リビングで貴之と胡蝶が話している。
「ああ」
「あんな風に会話の所々に京司朗を心配する言葉が出てくるのよ」
「ああ」
「会長のことも心配してたわね。心臓ってどういうこと?」
「ありゃ大塚の悪ふざけだ。何回か聞かれてどこも悪くないと説明したんだが・・」
「でも・・ずっと気になってたんでしょうね。ご両親が若くして病気で亡くなっているから、いつも『もしかしたら』って気持ちがあったのかもしれないわね。お二人とも30代で亡くなったのでしょう?」
「ああ。・・くそっ、大塚の野郎、ぶった斬ってやる」
「斬るのは検査が終わってからにしてくださいな。それより車椅子を準備しないといけないわ。福祉用具会社の佐原に連絡して持ってくるように言ってくれないかしら?」
「ああ、あと必要なものはあるか?」
「あとはいいわ。着替えは楓と私とで揃えるし。そうそう、堀内にも連絡お願いね。あれでもみふゆちゃんの雇用主ですからね」
「雇用主・・か」
そいつが問題なんだ━━━━
堀内は未だにみふゆをあきらめてはいない。
貴之はかねてから、堀内花壇を辞めさせることはできないかと考えてきた。
ただ、みふゆ自身は花屋の仕事を気に入っている。
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