【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

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134. 止まった時間

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和やかに時間は過ぎていた。

みふゆの言動も態度もこれまでとなんら変わりない。

三上は病室内の『家族』のふれあいを見守りながら、貴之の言ったことはいささか大袈裟だったのではないかと感じていた。
たぶん父親としてそれだけ心配だったのだ。

━━━━お嬢さんは体の調子が戻れば退院も早いはずだ。たとえ車椅子のままだとしても、屋敷は広いし、不都合な場所は改築すればいい。人員もじゅうぶんに揃っている。あっという間に終わる。ただ、お嬢さんが屋敷に帰ってきたときに、仙道さんのケガがどの程度回復しているか・・・。皆、お嬢さんには仙道さんのけがを教えたくないのだから。


みふゆがちらちらと三上を見ているのに貴之が気づいた。
「三上が気になるのか?」

「はい。あの・・三上さん」

みふゆが遠慮がちに三上に声をかけた。

「背中、あれからどうですか?まだ重くなったりしますか?」

三上はすぐにみふゆに一礼して答えた。
「いえ、重苦しくなることは全然なくて、快調です。ありがとうございました」

三上は京司朗がまだフランスに滞在していた頃に、みふゆに背中を祓ってもらっていた。
惣領家の屋敷には堀内花壇から定期的に花が届けられる。届けにくる店員はたまに山形友江が来るが、ほぼ毎回みふゆだった。

その日は三上が屋敷の常駐組の一人で、みふゆに対応していた。
みふゆが屋敷の玄関の花を生け終わって、帰り際だった。
門まで送るため、三上はみふゆの前を歩いていた。すると、みふゆが後ろから、
「あの、背中に何かついてます。はらっていいですか?」
と言った。
三上は「え?ええ、お願いします」と返した。
みふゆが二~三度、パシンパシンと叩くように背中をはらった。
「これでもう大丈夫だと思います」
みふゆは微笑んで三上を見た。三上はみふゆの言葉に奇妙さを感じたが、
「ありがとうございます」と礼を言った。
みふゆが門前のタクシーに乗り、帰っていったのを見送り、屋敷内に戻ろうとした三上は、足を止めた。

背中がやけに軽い。
あんなに重苦しく、ガチガチだった肩や、背中のしびれがなくなっている。

『何かついてます』
━何か憑いてます━
『はらってもいいですか?』
━祓ってもいいですか?━

さっきのみふゆの声が三上の頭の中に響いた。

三上は振り返った。みふゆはもういなかったけれど。

偶然?
・・・待てよ、
そういえば誰かが話していたことがあったな。

『あのお嬢さん、ちょっと不思議なんだよな・・』

三上は何のことかわからなかったが、身をもっていまその意味を知ったのだ。


「よかった。少し気になってたんです。鉄の塊みたいだったから」
みふゆは笑顔だ。花を届けに来ていた頃と同じ笑顔だった。
「おいおい、何の話だ?三上、まさかお前俺の娘にちょっかい出したんじゃねぇだろうなぁ?ああ?」
貴之が凄む。
貴之は何の話なのか知っているが、わざと三上に絡んだ。
「い、いや、出してませんよ!」
三上は真剣に否定した。理由を知りつつ絡んできてるとわかっているが、目前に迫ってきた貴之の形相が恐ろしい。ウソでも殺されそうだ。
「あらあら、会長ったら。みふゆちゃんと接する男は全員殴り倒しそうな勢いですわね」
胡蝶がからかうと貴之は、
「おう!ちょっかい出す奴は殴りとばしてやるぜ!」と右手で握り拳を作り、左の掌にパシンと打ち付けた。
「まあ、困った父親ですわねぇ」
胡蝶が呆れてため息をつき、みふゆはクスクスと笑い、京司朗も笑っていた。

みふゆは「あ、そうだ!」と思い出したように声をあげた。

「ん?なんだ?みふゆ」
貴之がみふゆに聞き返した。

「わたし、若頭と何か約束をしていませんでしたか?」

みふゆがニコニコと無邪気な笑顔で言った。
まるで、今、初めて京司朗と会った顔をして、みふゆは京司朗に問いかけた。

三上は冷水を浴びせられたような気がした。

貴之が言っていたことは決して大袈裟ではなかった。

病室内に流れていた和やかな時間は止まってしまった。






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