【本編完結】繚乱ロンド

由宇ノ木

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135. 漂う風船

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無邪気な笑顔だ。
ニコニコと笑うみふゆは幼い子供のようだ。
京司朗は優しく微笑むと、小さな子どもを宥めるようにみふゆの頬を撫でた。冷酷さも非情さも影を潜め、ただただみふゆを優しい笑みで包んだ。
「ああ、ピザを作る約束をした。生地から作ってくるくる回すと」
みふゆは頬に寄せられた京司朗の手を、
「わぁ・・、大きな手。大きなピザが作れそうです。大きなピザもくるくる回せますか?」と両手で取った。
京司朗は「もちろん、余裕だ」と答える。
みふゆは京司朗の大きな手をさわりながら、物珍しげにマジマジと眺め、自分の手を合わせた。
「わたしの手よりぜんぜん大きいです」
みふゆの瞳は、幼い子どもの好奇心に輝く瞳と同じだ。

三上は言葉を失った。

以前のみふゆなら、こんな真似はしない。
京司朗に対して馴れ馴れしい態度などとったりはしない。


京司朗は静かに話を続けた。
「それから写真を見せる約束もした」
みふゆはやはり初めて聞いた話のように「写真?」と聞き返した。

みふゆと京司朗を黙って見ている貴之の表情がやるせない。

誰にもなす術はない。

京司朗はほんの数分前に口にしたばかりの同じ答えを繰り返している。
みふゆはニコニコしながら同じ質問を繰り返す。

京司朗にすっかり『なついて』いる、みふゆの心は糸の切れた風船だ。どこに向かっているのかわからない。ともすれば、永遠に宙を漂うかもしれない。

だから京司朗は、優しい笑みで同じ答えを繰り返した。みふゆの心をつかまえて、ふわふわと飛んでいかぬように、迷わぬようにと寄り添っていた。

京司朗は曾祖母がイタリア人だと再び話すと、みふゆはイタリアはどんなところかと聞きたがった。
京司朗はかつてフランスとイタリアを、約三ヶ月かけてまわった。
両国で事業を展開するための下調べ的な滞在だった。そのなかでシチリア島は最も長く滞在した土地だった。

フランス・ニースからイタリア・サンレモに入り、ジェノバ、ミラノ、フィレンツェ、ローマ、ナポリへ。そしてシチリア島へ。

シチリア島は、シチリア王国としての歴史と、ナポリ王国との統一で両シチリア王国となった歴史を持つ。アフリカやアラブの影響も受けたシチリア料理・クスクスやカポナータは有名だ。首都パレルモはマグロ漁の拠点でもある。日本でもシチリア産レモンは有名で知られている。イタリア国内の七割がシチリア産レモンで、ピスタチオやアーモンドなど、質の高いナッツの産地でもある。

みふゆは楽しそうに京司朗の話に耳を傾けた。


周辺国から次々と侵略を受け、数多あまたの戦いを経て統一された国、イタリア。

みふゆは古い歴史の話になると特にキラキラと瞳を輝かせた。話の途中でポツリと「ちびたりあ」と呟いたが、京司朗はなんのことかわからず、笑ってごまかした。
「おい、ちびたりあって何だ?」
貴之が不思議そうに訊いた。
「ヘタリアってマンガに出てくるキャラクターですね」
三上が答えた。
「そうなんです。かわいいんです!」
みふゆが嬉しそうに言った。
「おい三上、おめーやっぱり」
貴之が三上の襟首を掴んだ。
「ゆ、有名なんですよ!アニメにもミュージカルにもなってて世界的にも有名な作品なんですよ!」
三上は必死で答えた。
(ちびたりあ・・日丸屋秀和氏の国を擬人化した漫画「ヘタリア」に登場するイタリアの幼少期キャラクター。一番かわいい。「まるかいて地球」の、ちびたりあバージョンは泣ける)

そんなイタリアは、1964年、6月2日国民投票により王政廃止となり、現在のイタリア共和国となった。

シチリアだけでなく、ジェノバにしろフィレンツェにしろ、どの地にも歴史の遺物があり、陽気で明るい人々の暮らしがあったと京司朗はみふゆに語った。

イタリアの話の間も、みふゆは京司朗に『何か約束をしていないか』と繰り返していた。そのたびに話は戻ったが、京司朗の優しさは変わることなくみふゆに注がれ、京司朗は微笑んで同じ答えを繰り返した。









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