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133. 約束 (2)
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「京司朗が来たわよ」
胡蝶の呼び掛けに、車椅子に乗って窓から外を眺めていたみふゆが振り向いた。
京司朗は目を見張った。
車椅子に乗っていることは聞いていたが、実際目の当たりにすると、胸が軋んだ。
「若頭、お帰りなさい」
みふゆがニコリと微笑んだ。そして、車椅子を手でゆっくりと動かし、京司朗に近づこうとしていた。
京司朗は慌ててみふゆに近づいた。急に動いたせいか、左肩の傷に痛みが走ったが、顔には出さなかった。
車椅子の前で京司朗は膝まづき、みふゆの視線に合わせ、「ただいま」と言った。
頬がかすかに痩けている。みふゆはこんなにも小さかっただろうか?一回りも小さくなった気がする。それだけ体力を消耗したのか。
「わざわざすみません。帰って来たばかりなのに気を遣わせてしまって」
みふゆは申し訳なさそうに京司朗をみつめなおした。
「聞きたいことがあって・・」
「会長からも聞いたが何か約束をしたと」
「はい。約束をしませんでしたか?」
「・・・ピザをつくる約束をした。生地から作って、くるくる回すと」
みふゆはホッとした笑顔で「くるくる回してくれるんですか?」と聞き返した。
「ああ。きちんと食べられるようになって退院したら」
京司朗も笑顔でみふゆに答えた。
「・・が、がんばります。食べるの・・・」
みふゆは先生に注意された子供の表情で視線を下げた。
「それからあと2つ」
「あと2つ?全部で3つ約束があったんですか?」
「そうだ。ひとつは写真を見せる約束だ」
「写真?」
「俺の曾祖母の写真だ。曾祖母がイタリア人だと教えたら興味を持ったみたいだったから」
「イタリアの人・・。だから若頭も背が高いんですか?」
「ああ。曾祖母の家系は背の高い人間が多かった。曾祖母も女性にしては背が高く、170ほどあったと聞いている。顔も、俺と曾祖母はよく似ている」
「若頭とひいお祖母様が似てるなら、ひいおばあ様はとても美人だったんですね。ぜひ見たいです。写真!」
京司朗は苦笑いをこぼした。曾祖母を通して『美人』と褒められてしまった。
京司朗は素直に『褒められた』と感じたのだ。
容姿を良く言われたことは数えきれないほどにある。その度に京司朗は冷めた見方しか出来なかった。容姿を言及する女は、京司朗にとっては鬱陶しいだけだった。
胡蝶は、京司朗とみふゆを微笑ましい気持ちで見ていた。
やはり京司朗の気持ちはみふゆに傾いている。
血の繋がった親族の話しはタブーともいえる京司朗が、作り笑いとは違う穏やかな笑みで話しているのだ。みふゆに対して多少の同情は入っているかもしれないが、互いに想いあっている感情が伝わってくる。このまま二人を婚約という形に持っていけないかと、胡蝶は思案を始めた。
「あとひとつは・・?」
みふゆは京司朗に問いかけた。
「俺を名前で呼ぶと」
「え?名前で??」
「そうだ。名前で」
「・・ど、どういう経緯で・・・」
「誰も『若頭』と呼んでないのに自分だけ『若頭』と呼ぶのはおかしいから、『仙道さん』と呼んでもいいかと言われた」
「あ、それ、気になってたんです。じゃあ仙道さんと呼んでもいいですか?」
「却下だな」
京司朗はクッと笑ってサラリと答えた。
みふゆは小声で「どうしてダメ・・?」とこぼした。
「舎弟になりてぇなら『仙道さん』でもいいがなあ」
貴之が腕組みして京司朗の後ろで代わりに答えた。
「舎弟???」
「『仙道さん』てのは舎弟か全然見ず知らずの他人の呼び方だ。お前は俺の娘だから呼ぶなら呼び捨てだ」
「出来ません。年上なのに呼び捨てなんて」
「あの時も同じセリフを言った。俺が呼び捨てでいいと言ったら、年上を呼び捨てに出来ないと。で、俺達は適度な所で妥協した」
「妥協??」
「会長が俺を『京』と呼ぶから『京』と呼べばいいと提案したが、どうしても呼び捨ては出来ないと。だから『京』に『さん』をつけることで俺達は折り合いをつけた」
「京さん・・?」
「そうだ」
みふゆはしばらく口をつぐんだ。
「・・・あの・・」
「どうした?」
「・・えーと・・当分、『若頭』と呼んでもいいですか・・・?」
みふゆはバツが悪そうに言った。
「みふゆ、考えが後退してるぞ」
貴之が意地悪く言うと、みふゆは
「じゃあ・・わたし舎弟になります!」とキッパリ言った。
「だから『仙道さん』と呼んでもいいですか?」
『舎弟になります!』と宣言され、その場にいた全員が目を剥いた。
当然、京司朗と貴之が、
「却下だ」「許さん!」と同時に返した。
みふゆは「えーっ?!」と不満の声を出し、三上が笑いを堪え、胡蝶は淑やかに声を出して笑った。
「京司朗が来たわよ」
胡蝶の呼び掛けに、車椅子に乗って窓から外を眺めていたみふゆが振り向いた。
京司朗は目を見張った。
車椅子に乗っていることは聞いていたが、実際目の当たりにすると、胸が軋んだ。
「若頭、お帰りなさい」
みふゆがニコリと微笑んだ。そして、車椅子を手でゆっくりと動かし、京司朗に近づこうとしていた。
京司朗は慌ててみふゆに近づいた。急に動いたせいか、左肩の傷に痛みが走ったが、顔には出さなかった。
車椅子の前で京司朗は膝まづき、みふゆの視線に合わせ、「ただいま」と言った。
頬がかすかに痩けている。みふゆはこんなにも小さかっただろうか?一回りも小さくなった気がする。それだけ体力を消耗したのか。
「わざわざすみません。帰って来たばかりなのに気を遣わせてしまって」
みふゆは申し訳なさそうに京司朗をみつめなおした。
「聞きたいことがあって・・」
「会長からも聞いたが何か約束をしたと」
「はい。約束をしませんでしたか?」
「・・・ピザをつくる約束をした。生地から作って、くるくる回すと」
みふゆはホッとした笑顔で「くるくる回してくれるんですか?」と聞き返した。
「ああ。きちんと食べられるようになって退院したら」
京司朗も笑顔でみふゆに答えた。
「・・が、がんばります。食べるの・・・」
みふゆは先生に注意された子供の表情で視線を下げた。
「それからあと2つ」
「あと2つ?全部で3つ約束があったんですか?」
「そうだ。ひとつは写真を見せる約束だ」
「写真?」
「俺の曾祖母の写真だ。曾祖母がイタリア人だと教えたら興味を持ったみたいだったから」
「イタリアの人・・。だから若頭も背が高いんですか?」
「ああ。曾祖母の家系は背の高い人間が多かった。曾祖母も女性にしては背が高く、170ほどあったと聞いている。顔も、俺と曾祖母はよく似ている」
「若頭とひいお祖母様が似てるなら、ひいおばあ様はとても美人だったんですね。ぜひ見たいです。写真!」
京司朗は苦笑いをこぼした。曾祖母を通して『美人』と褒められてしまった。
京司朗は素直に『褒められた』と感じたのだ。
容姿を良く言われたことは数えきれないほどにある。その度に京司朗は冷めた見方しか出来なかった。容姿を言及する女は、京司朗にとっては鬱陶しいだけだった。
胡蝶は、京司朗とみふゆを微笑ましい気持ちで見ていた。
やはり京司朗の気持ちはみふゆに傾いている。
血の繋がった親族の話しはタブーともいえる京司朗が、作り笑いとは違う穏やかな笑みで話しているのだ。みふゆに対して多少の同情は入っているかもしれないが、互いに想いあっている感情が伝わってくる。このまま二人を婚約という形に持っていけないかと、胡蝶は思案を始めた。
「あとひとつは・・?」
みふゆは京司朗に問いかけた。
「俺を名前で呼ぶと」
「え?名前で??」
「そうだ。名前で」
「・・ど、どういう経緯で・・・」
「誰も『若頭』と呼んでないのに自分だけ『若頭』と呼ぶのはおかしいから、『仙道さん』と呼んでもいいかと言われた」
「あ、それ、気になってたんです。じゃあ仙道さんと呼んでもいいですか?」
「却下だな」
京司朗はクッと笑ってサラリと答えた。
みふゆは小声で「どうしてダメ・・?」とこぼした。
「舎弟になりてぇなら『仙道さん』でもいいがなあ」
貴之が腕組みして京司朗の後ろで代わりに答えた。
「舎弟???」
「『仙道さん』てのは舎弟か全然見ず知らずの他人の呼び方だ。お前は俺の娘だから呼ぶなら呼び捨てだ」
「出来ません。年上なのに呼び捨てなんて」
「あの時も同じセリフを言った。俺が呼び捨てでいいと言ったら、年上を呼び捨てに出来ないと。で、俺達は適度な所で妥協した」
「妥協??」
「会長が俺を『京』と呼ぶから『京』と呼べばいいと提案したが、どうしても呼び捨ては出来ないと。だから『京』に『さん』をつけることで俺達は折り合いをつけた」
「京さん・・?」
「そうだ」
みふゆはしばらく口をつぐんだ。
「・・・あの・・」
「どうした?」
「・・えーと・・当分、『若頭』と呼んでもいいですか・・・?」
みふゆはバツが悪そうに言った。
「みふゆ、考えが後退してるぞ」
貴之が意地悪く言うと、みふゆは
「じゃあ・・わたし舎弟になります!」とキッパリ言った。
「だから『仙道さん』と呼んでもいいですか?」
『舎弟になります!』と宣言され、その場にいた全員が目を剥いた。
当然、京司朗と貴之が、
「却下だ」「許さん!」と同時に返した。
みふゆは「えーっ?!」と不満の声を出し、三上が笑いを堪え、胡蝶は淑やかに声を出して笑った。
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