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174. 過ぎてゆく時間は思い出になる -6-
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病室のドアが開いた。
貴之だ。
後ろに京司朗がいる。
みふゆと胡蝶の会話が止まった。
胡蝶が「まあ、京司朗、お帰りなさい」とベッド横の椅子から立ち上がった。
京司朗は胡蝶に軽く頭を下げ、「ただいま戻りました」と挨拶をした。
とても背の高い男の人だ。
どこかで見たことがある人だとみふゆは思った。
心のずっと奥底で、待ってたような気もする。
でも、この人は誰?
記憶の線がごちゃごちゃと絡まって解けない。
みふゆは京司朗から目が離せなかった。
思い出そうとしていた。
「みふゆ、こいつが京司朗だ。覚えてるか?」
みふゆの間近まで来て、貴之が京司朗を紹介した。
近くで見ると京司朗はよけいに大きかった。
貴之もじゅうぶん背が高いのに、京司朗はさらにその上をいく。
京司朗の身長は190センチを超えているのだ。
みふゆは無言でただジッと見ている。
京司朗は以前にも同じ場面があったことを思い出した。会ってからまだ間もなかった。
スーパーで見かけたみふゆに声をかけたらみふゆにジッと見られた事があったのだ。
『誰だお前は』的な目は、あの時と同じだ。
京司朗は懐かしくてふっと笑った。
「なんだ?」
「いえ、不審者と思われてるのかと」
「ははは、仙道京司朗を不審者扱いか。色男もかたなしだな。まあお前みたいなバカでかい男は日本人にゃ珍しいしな。そういやぁ初っぱなからお前を使いっ走りにしたんだっけな」
「アイスクリームだけ運ばされましたね」
貴之が笑い、京司朗も微笑んだ。
みふゆは京司朗の笑みに表情が緩んだ。
「みふゆ、大丈夫だぞ。こいつは不審者じゃねえからな。デカいのもイタリア人の血をひいてるからだ」
貴之が言うと、
「イタリア・・?」
みふゆは首を少し傾げて反復した。
「俺のひいおばあさんはイタリアの人だよ」
京司朗が優しく声をかけた。
「ピザのくにのひと?」
「ああ、そうだ。ピザは好き?」
みふゆは頷いて
「うん!だいすき!!」
とやっと笑顔を見せて答えてくれた。
ピザがきっかけで、みふゆと京司朗の会話ははずんだ。そのうちに、みふゆは母親の話を始めた。
母親が料理ができなかったため、父親が料理をしていたこと。父親不在の時はピザをよく買いに行ってたことなどの思い出話だった。
貴之だけを父親としている現在のみふゆは、思い出話の内容を、ちくいち貴之に確認しながら話した。
「おかあさんはおりょうりできなかったけど、おとうさんはじょうずなの。おいしいんだよ。チャーハンとからあげがとくいなの。ねえ?おとうさん!」
みふゆが父親の料理上手を自慢する。
貴之がこたえる。
「ああ、お父さんはなんでも上手だからな」
やるせない笑みの貴之だ。
貴之がチャーハンと唐揚げが得意だった事実などない。
京司朗と胡蝶は、貴之が予定を早めた理由を察知した。
みふゆの記憶から、父親としての青木重弘が消されて貴之にすり替わっている。
貴之はみふゆに起きている現象を知り、事の重大さに改めて気づいたのだ。
京司朗と胡蝶は貴之を見た。貴之は二人と視線は合わせず、みふゆだけをみつめている。
みふゆをみつめる貴之に胡蝶が「コーヒーのおかわりはいかが?」と声をかけた。貴之は「ああ、頼む」とソファの背もたれに片手をかけ、話に花を咲かせているみふゆと京司朗を眺めた。
みふゆはすっかり京司朗に打ち解けた様子だ。
「おにいさんはピザつくるの?」
みふゆが質問を続けた。
「作るよ」
「ほんとう!?くるくる回せる?!」
「もちろん。回せるよ」
「みたいみたい!ここでつくれる?!」
みふゆは素直にキャッキャッとはしゃぐ。
「ここは━━━」
京司朗が病室内のキッチンに視線を移した。一通りの設備はあるが、ここはあくまでも病室だ。
ソファから貴之が、
「ここはちょいと無理だな。退院したらうちで作ってもらおう」
と、みふゆに言った。
「おうちで?ママ!わたしいつたいいんできるの?」
胡蝶を『ママ』と呼んだみふゆに京司朗が「え?」と驚いた。珍しく目を丸くしている。
「京、いろいろ事情があるんだ。スルーしてくれ」
眉間をおさえた貴之がすかさず言った。
「ねー、ママ、いつ?」
「そうね、本格的な退院はまだだけど、外出ならいいわよ」
「がいしゅつ?」
「明日、京司朗のマンションでピザを作ってもらいましょう」
胡蝶が淑やかに微笑んだ。
みふゆは大喜びした。
図らずも、明日の外出の自然な理由ができた。
その後もみふゆは京司朗を質問攻めにした。
ピザからイタリアがどんな国かの質問に変わり、やがて舞台はフランスへ。
京司朗はひとつひとつ丁寧に答えた。
時折貴之や胡蝶の揶揄が入り、室内は笑いに包まれた。
「まぶし・・」
西日の強い陽が射して、みふゆが目を細めた。
青みがかった灰色の雲の切れ間から、沈む太陽が顔をのぞかせている。
「カーテンを閉めよう」
京司朗がリモコンを手にした。
「閉めないで」
みふゆが遮った。
「きれいだから」
━━━きれい・・・
一瞬だけ、みふゆが23歳に戻った気がした。
京司朗の瞳には、夕日の丘に行った日のみふゆがよみがえっていた。
病室のドアが開いた。
貴之だ。
後ろに京司朗がいる。
みふゆと胡蝶の会話が止まった。
胡蝶が「まあ、京司朗、お帰りなさい」とベッド横の椅子から立ち上がった。
京司朗は胡蝶に軽く頭を下げ、「ただいま戻りました」と挨拶をした。
とても背の高い男の人だ。
どこかで見たことがある人だとみふゆは思った。
心のずっと奥底で、待ってたような気もする。
でも、この人は誰?
記憶の線がごちゃごちゃと絡まって解けない。
みふゆは京司朗から目が離せなかった。
思い出そうとしていた。
「みふゆ、こいつが京司朗だ。覚えてるか?」
みふゆの間近まで来て、貴之が京司朗を紹介した。
近くで見ると京司朗はよけいに大きかった。
貴之もじゅうぶん背が高いのに、京司朗はさらにその上をいく。
京司朗の身長は190センチを超えているのだ。
みふゆは無言でただジッと見ている。
京司朗は以前にも同じ場面があったことを思い出した。会ってからまだ間もなかった。
スーパーで見かけたみふゆに声をかけたらみふゆにジッと見られた事があったのだ。
『誰だお前は』的な目は、あの時と同じだ。
京司朗は懐かしくてふっと笑った。
「なんだ?」
「いえ、不審者と思われてるのかと」
「ははは、仙道京司朗を不審者扱いか。色男もかたなしだな。まあお前みたいなバカでかい男は日本人にゃ珍しいしな。そういやぁ初っぱなからお前を使いっ走りにしたんだっけな」
「アイスクリームだけ運ばされましたね」
貴之が笑い、京司朗も微笑んだ。
みふゆは京司朗の笑みに表情が緩んだ。
「みふゆ、大丈夫だぞ。こいつは不審者じゃねえからな。デカいのもイタリア人の血をひいてるからだ」
貴之が言うと、
「イタリア・・?」
みふゆは首を少し傾げて反復した。
「俺のひいおばあさんはイタリアの人だよ」
京司朗が優しく声をかけた。
「ピザのくにのひと?」
「ああ、そうだ。ピザは好き?」
みふゆは頷いて
「うん!だいすき!!」
とやっと笑顔を見せて答えてくれた。
ピザがきっかけで、みふゆと京司朗の会話ははずんだ。そのうちに、みふゆは母親の話を始めた。
母親が料理ができなかったため、父親が料理をしていたこと。父親不在の時はピザをよく買いに行ってたことなどの思い出話だった。
貴之だけを父親としている現在のみふゆは、思い出話の内容を、ちくいち貴之に確認しながら話した。
「おかあさんはおりょうりできなかったけど、おとうさんはじょうずなの。おいしいんだよ。チャーハンとからあげがとくいなの。ねえ?おとうさん!」
みふゆが父親の料理上手を自慢する。
貴之がこたえる。
「ああ、お父さんはなんでも上手だからな」
やるせない笑みの貴之だ。
貴之がチャーハンと唐揚げが得意だった事実などない。
京司朗と胡蝶は、貴之が予定を早めた理由を察知した。
みふゆの記憶から、父親としての青木重弘が消されて貴之にすり替わっている。
貴之はみふゆに起きている現象を知り、事の重大さに改めて気づいたのだ。
京司朗と胡蝶は貴之を見た。貴之は二人と視線は合わせず、みふゆだけをみつめている。
みふゆをみつめる貴之に胡蝶が「コーヒーのおかわりはいかが?」と声をかけた。貴之は「ああ、頼む」とソファの背もたれに片手をかけ、話に花を咲かせているみふゆと京司朗を眺めた。
みふゆはすっかり京司朗に打ち解けた様子だ。
「おにいさんはピザつくるの?」
みふゆが質問を続けた。
「作るよ」
「ほんとう!?くるくる回せる?!」
「もちろん。回せるよ」
「みたいみたい!ここでつくれる?!」
みふゆは素直にキャッキャッとはしゃぐ。
「ここは━━━」
京司朗が病室内のキッチンに視線を移した。一通りの設備はあるが、ここはあくまでも病室だ。
ソファから貴之が、
「ここはちょいと無理だな。退院したらうちで作ってもらおう」
と、みふゆに言った。
「おうちで?ママ!わたしいつたいいんできるの?」
胡蝶を『ママ』と呼んだみふゆに京司朗が「え?」と驚いた。珍しく目を丸くしている。
「京、いろいろ事情があるんだ。スルーしてくれ」
眉間をおさえた貴之がすかさず言った。
「ねー、ママ、いつ?」
「そうね、本格的な退院はまだだけど、外出ならいいわよ」
「がいしゅつ?」
「明日、京司朗のマンションでピザを作ってもらいましょう」
胡蝶が淑やかに微笑んだ。
みふゆは大喜びした。
図らずも、明日の外出の自然な理由ができた。
その後もみふゆは京司朗を質問攻めにした。
ピザからイタリアがどんな国かの質問に変わり、やがて舞台はフランスへ。
京司朗はひとつひとつ丁寧に答えた。
時折貴之や胡蝶の揶揄が入り、室内は笑いに包まれた。
「まぶし・・」
西日の強い陽が射して、みふゆが目を細めた。
青みがかった灰色の雲の切れ間から、沈む太陽が顔をのぞかせている。
「カーテンを閉めよう」
京司朗がリモコンを手にした。
「閉めないで」
みふゆが遮った。
「きれいだから」
━━━きれい・・・
一瞬だけ、みふゆが23歳に戻った気がした。
京司朗の瞳には、夕日の丘に行った日のみふゆがよみがえっていた。
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